第1章 第03話 アーネスト0歳 アーネストは係わらない。


「んまんま。」

夜中にこっそり授乳に来た母アネモラ

「この子ったらホントにおっぱいが好きねぇ。」

母を呆れさせる。


他の高級貴族の煌びやかな館と違い、カロリーナ公爵の館は異様な佇まいをしている。

まるで堅固な要塞の様なその姿は、〈カロリーナの要塞城〉と呼ばれており、

カロリーナ公爵領が魔族領とされる〈逢魔ヶ森〉と接している為、

魔族との戦争において常に最前線となる事から、改修の度に実質的に変化していった結果だ。


「だあだあ。」


しかも、もし要塞城が抜かれでもしたら、王都まで魔族に対抗できる戦力は殆ど無いも等しく、

そのまま進軍を許してしてしまえば、たとえ最強と謳われる〈王都警邏隊〉と云えども、

陥落迄持って1週間程度だろうと云われている。


王都の防衛の任に当たるのは〈栄光の第一騎士団(正式名称)〉であるが、高級貴族の子弟で組織された彼らは

「一分持てば褒めてやるよ。」と言われてしまう集団である。

第一騎士団と名乗っているが、別に第二騎士団とか、第三騎士団とかがあるわけでは無い。第一騎士団のみ存在する。


彼らは、戦わない。彼らの言い分はこうだ。

『我々は自ら平和主義を掲げる。類い稀な戦闘力と明晰な頭脳を有する最強の戦闘集団でがありながら、

敢えて戦う事をしないのだ。この崇高な態度に、他の国々は度肝を抜かれ、その清らかな心に感動してしまう為、

どの国も王都を襲うことは無いのだ。』

まったく、何のためにいるのか分からない事を堂々と主張している。

王都が襲われていないのは、単に辺境領の領兵や、途中の貴族領の領兵が食い止めているからだ。


戦闘力と言っているが、主にそれは武器を持たない一般庶民に向かって発揮されるもので、当然、一般庶民からは

蛇蝎の如く嫌われている。


王族の住まう城には、兵隊がいるが、実際は高級貴族率いる警備保障の様なものであり、戦闘にはまるで向いていない。

あと、近衛騎士団がいるが、彼らは王族しか守らない。


実際、犯罪や災害等から王都の民を守り、人命救助に活躍するのは警邏隊だ。

彼らは国(貴族)に存在を否定されながら、命がけで任務に当たる。

国王も必要無いと云っても、必要であるのは分かっているので、僅かながら、国庫から活動資金を出すが、

高級貴族はそれをやめろと言う。やめて、その分を自分達の遊興費に回せと言う。

世界に誇る平和主義に反するから解散だと口撃するが、いざとなったら当然の如く、彼らに守って貰う。

戦争中であっても、安全な場所から、現実が見えてない事を大上段に構えるのが、彼ら高級貴族と云うものなのだ。


結局、王国には、王都の一般庶民を守る国の組織が無いのである。いかに辺境の武力が重要であるか。

その為、要塞城とその支城にあたる〈北の城〉、〈南の城〉には歴戦の勇士たる騎士達が五百人程、

詰めていたのだが、ここ10年位は魔族との大きな戦いは無く小康状態が続き、せいぜい争っても小競り合い程度で、

それも数えるくらいしか無い為、その力を燻ぶらせていた。


そうなると、遊ばせておくのは勿体ないとばかり、騎士達は他の戦場へと駆り出されていく。

大勢いた屈強な騎士たちが殆ど経験も無い若い騎士に代わってしまった。


それも貴族の3男、4男、5男とかのプライドは高いが実践では役に立ちそうもない者が総勢2百人ばかり。

勿論、アガーベック辺境拍が訓練で鍛えているが、束になっても足元にも及ばない。

とんでもない戦力ダウンだ。もし、魔族が攻めてきたら、持ちこたえられるのだろうか。


「すやすや。」


女神に選ばれたる優秀な戦士(自己評価)である我々は、女神に逆らう加護無し(自己判断)を許す訳には

行かない!とばかりに、暇になれば(訓練も学業もサボってばかりなので、実際暇です。)、

アーネストを殺しに来るが、毎回おばあ様御一人に軽く去なされている。


逃げる時もお決まりの捨てゼルフを忘れない。

「アイルス様に剣を向ける訳にはいかない!」

尚、しっかりはっきりばっちり向けてらっしゃる。しかも集団で。


「ぷりぷり。」


この世界は身分の違いにはとても厳しく、しかも司令官の身分が辺境伯で尚且つ公爵領の代官とあっては、

直接口を利くことさえ叶わない。ましてや公爵に対してなど、言語同断である。

しかし、配属される若者はその辺がガバガバである。まるで教育がなってない。

こちらの世界もゆとりだろうか。甘やかされているのか、上下の厳しさがまるで理解出来ていない。


それでも面倒見の良い司令官は我慢強く指導しているが、この連中は「自分は不当に虐められてる」と

実家に訴えるばかりで、まるでやる気がない。


しかもベテランメイドも同じような若いメイドに代わっていく。

同じ様な教育を受けているので、以下同文。


「んまんま。」


一緒に暮らしていけないので、アイルス公爵夫人は3人のアイルス付きのメイド(大ベテラン)と共に

アーネストを連れて別館に移って行った。


ジューダスト達アガーベック辺境伯一家は、バカ共の面倒を見る為に可愛いい次男坊(ジューダスト達の主観)と

離れざるを得ない環境に嘆いたが、これだけの立場であってもどうする事も出来なかった。

ゆとり恐るべし。


夜中にこっそり人目を忍んで会いに行く。それはそれで楽しみが増えた気になるアガーベック辺境伯一家であった。

前向きだな。あんたら、そんな善人で大丈夫か?


「だあだあ。」


アーネスト0歳、未だ世の中と関わりを持たず。



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