第11話 第11章
理沙と恵美は、会社が思ったよりも近くにあることで、時々連絡を取り合って会っていた。いつも連絡をしてくるのは理沙の方で、恵美は理沙が誘ってくるから会っているのだと自分に言い聞かせていた。最初はグループ交際のようなこんな関係を、
「面白いじゃない」
と言って楽しんでいたのは、理沙だった。
恵美も内心では楽しんでいたが、二人とも、自分の相手の男性と、それほど長く付き合って行くつもりはなかった。遊びで付き合う程度ならいいが、恋愛、ましてや結婚など、ありえないと二人ともに思っていた。ちょっとした軽い付き合いを、本当であればできないと思っていたのは、理沙にも恵美にも共通して言えることだったが、偶然出会った二人がお互いに、男性二人から声を掛けられるというのも不思議なものだし、何と言っても、その日に二人ともが、男性と別れた日だというのも面白いものだ。女性同士はその話で盛り上がったが、男性二人はそのことを知らない。
「私たち二人の秘密にしましょうね」
と恵美が言うと、
「うん、分かったわ。こんな面白い状況を継続していくには、誰にも話さない方が効果的ですものね」
と、理沙は面白がって、はしゃいでいた。
恵美も、元々茶目っ気のある性格なので、理沙がはしゃいでいると、はしゃぐタイミングを逸してしまったことで、自分が今度はまとめ役に徹しなければいけないことを理解していた。理沙のような性格の女性は好きなのだが、自分がまとめ役に徹しなければいけないのは、どうにも納得いかないところであった。
いつもなら恵美は、男性の前に出ると、おしとやかになり、可愛らしさを表に出すのだが、露骨なまでに隣で理沙に可愛らしさを表現されると、自分は二番煎じに終わってしまう。
恵美と理沙の二人の共通点としては、
――他の人と同じでは嫌だ――
という思いを持っていることだった。
お互いにそのことを他の人に知られたくないと思っているようだが、理沙にも恵美にもそれぞれ、相手には言えないところもあったりしたのだ。それは子供の頃に感じた忌まわしい記憶であり、本当なら忘れてしまったと思っていたことを、二人がこの間のクリスマスに知り合ったことで、思い出してしまったのだった。
理沙は武雄のことを気に入っていながら、実は達郎のことが気になって仕方がなかった。武雄を気に入ったのも、実は達郎がそばにいたからだと思っているくらいで、理沙の意識の中に達郎は、
――今まで忘れていた何かを思い出すことになるかも知れない――
という思いを抱かせた。
それは決していい思い出ということではなさそうだ。忘れてしまいたいと思って、実際に忘れていたような感覚を思い出すのだ。
理沙は達郎とも武雄とも初対面である。
――ひょっとして以前にどこかで――
と思い、思い出してみようとしたが、すぐに止めてしまった。忘れてしまいたいことを思い出させる相手が、過去に関係があったなど、思い出すとしても時期尚早だと思ったのだ。少なくとも忘れてしまいたいことが何なのかということが分かって思い出すのであればまだしも、そうでないのであれば、正直、無駄な努力というものである。
「あれ? 理沙じゃない? 久しぶりね」
恵美と二人で入った喫茶店で、一人の女性が声を掛けてきたのだが、その人が高校時代の友達であることはすぐに分かった。
名前を美佐枝と言う彼女は、理沙が高校時代唯一の友達として信用していた相手だったのかも知れない。
元々、理沙はあまりまわりの人を信用しないタイプだった。美佐枝に対して、どうして彼女だけを信用するようになったのかというと、他の友達は皆、自分よりも男性を意識していた。口では、
「友達だからね」
と言っておきながら、彼氏ができれば、理沙のことなど二の次だった。
――彼氏を優先するのは分かるけど、ここまで露骨にされては――
女性同士の友情なんて、しょせんその程度だと思っていたところに現れたのが、美佐枝だったのだ。
美佐枝は、一口に言って品行方正で、人当たりもよく、男性からの人気もあった。それでも美佐枝は、
「あなたが一番の親友よ」
と言って、理沙を中心に、絶えず優先順位をつけていた。
「私のことはいいから」
と、理沙が気を遣うほど、美佐枝は理沙に対して律儀なほどに尽くしてくれた。
別に、そこに主従関係が存在するわけではない。理沙は美佐枝とは同等の関係でいたい。美佐枝もそのつもりでいるので、お互いに無理のないところで気を遣う程度は、何でもないことだった。
それまで人に気を遣うことというのは、白々しさを含んでいることで、理沙は嫌いだった。今でも露骨な気の遣い方は胸が悪くなるほど嫌いであるが、美佐枝との関係はさりげなく、実に自然な感じが、心地よい風に吹かれているかのような気分にしてくれる。
美佐枝のような雰囲気の人は、グループの中には必ず一人はいるだろう。
落ち着いてまわりを見ることができ、諍いが起これば、真っ先に立って、調整しようとするタイプ。目立ちたがりの人であれば、きっとうまくまとめることはできない。落ち着いて状況判断ができ、それぞれの性格をも掌握していなければ務まらない立場であるが、日の当たるポジションではない。
後から思い起せば
「あの人がいてくれたおかげで、グループを存続していけたんだわ」
と、その時のメンバーは皆思うことだろう。遅かれ早かれ後からでも思い出してもらえるのはありがたいことだ。
だが、美佐枝は決してグループの中に入ろうとはしない。あくまでも理沙と一緒にいるだけで、理沙がグループに入っていればどうだっただろうと思うこともあるが、理沙がグループから抜けるなら、美佐枝も一緒に抜けてくれたのではないかと思うほどだった。
そんな美佐枝とは、もう三年近く会っていなかった。卒業後、美佐枝は大学に進学することはなく、就職した先で、すぐに男性と知り合って、結婚したのだ。卒業後一年もしないうちのスピード結婚だった。
理沙は、美佐枝がどんな男性と結婚したのか知らない。卒業前はあれほど仲が良かったのに、卒業してしまうと、
「住む世界が違うのよ」
と、まるで絶縁するかのような言葉を残して、それ以来、ほとんど連絡を取らなくなった。本当に絶縁になってしまい、理沙は、引導を渡された気分だった。
美佐枝のことを気にしないようになるまでに、それほど時間はかからなかった。大学生活というのは、確かに美佐枝が言うように世界が違う。信用が解けたわけではないが、美佐枝のことを忘れてあげるのも、親友としての務めだと思うことで、自分は自分の世界を生きるようにしようと思ったのだ。
美佐枝とは数年ぶりの再会だったが、高校時代とあまり変わっていないのは、どうも気になった。
「彼女、高校時代のお友達なの。卒業してすぐに就職して、その後、これもすぐに結婚したの」
と、簡単に知っていることを恵美に話した。本当に簡単なのは、それだけしか知らなかった自分を今さらながらに感じたのだ。
美佐枝を見ると、少し寂しそうな顔になったが、すぐに気を取り直してか、
「美佐枝と言います。よろしくね」
と、恵美を見て、微笑んだ顔は、やはりどこか寂しそうだ。
学生時代にはあまり笑うことのなかった美佐枝が、微笑んだ姿を想像したことは何度かあったが、今の美佐枝の笑顔は、想像した中でも一番寂しそうな部類の顔だった。
「私、離婚したのよ」
美佐枝の一言で、理沙は一瞬凍り付いた。すぐ我に返ったが、意外な告白に言葉は出てこなかった。
「子供がいなかったのは幸いだったんだけど、やっぱりスピード結婚って、しない方がいいわよ」
と言って、苦笑いをする。さっきの寂しそうな笑顔とは違った笑顔ではあるが、笑顔の種類としては同じものなのかも知れない。
「じゃあ、今はどうしてるの?」
「実家に帰るわけにもいかないので、一人で暮らしてるわ。離婚してから、しばらくは男性が怖かったんだけど、今はそこまで怖いとは思わない。もう一度、新しい人生を歩んで見ようって思うのよ」
「潔い考えね」
と、理沙は言ったが、
――私には絶対にできないことだわ――
と、思ったが、美佐枝の顔を見ると、何となく救われた気がした。高校時代に記憶が遡るが、美佐枝に対して、今でも告白できないことがあった。
高校時代に美佐枝が好きだった男性がいた。
理沙も知っていて、二人が付き合い出すようになればいいと思っていた。
しかし、美佐枝も相手の男性もお互いに会話をなかなかしようとはしない。理沙はそれを見ていてじれったく感じたのだ。
ある日、理沙は相手の男性から、美佐枝に伝言を頼まれた。
「明日の放課後、教室で待っていてほしいって言ってくれないか?」
「どうして自分で言わないの?」
意地悪のつもりで言うと、彼は照れ臭そうに、
「理沙さんに頼むしかないんだ。僕から言うことはできない。僕から言うと、美佐枝さんは意識してしまうでしょう? 理沙さんからの伝言に対して美佐枝さんがどう感じるかを知っておきたいんだ。もし彼女が来なければ、僕は諦めようと思っている」
「分かった」
理沙は、美佐枝に彼からの伝言を伝えた。その時の美佐枝の表情が、まるで苦虫を噛み潰したような嫌な表情になった。
――自分から話してくれなかった彼に対して、美佐枝は怒っているのかも知れない――
と感じた。
「ありがとう。明日の放課後、教室ね?」
「ええ、そう」
念を押したということは、美佐枝は行くんだと思っていた。だが、実際に美佐枝は行かなかった。念を押したのは、自分に言い聞かせるための念押しだったのだ。自分に言い聞かせた答えが、結果教室に行かないこと、つまり彼の望みに従わないことだったのだ。
――美佐枝がここまで徹底した女性だとは思わなかったわ――
と、その時に感じた。そして、美佐枝はよほど気に入った男性でないと付き合うことをしないのだろうと思ったのだ。
そんな美佐枝が、卒業して就職すると、スピード結婚した。それだけ高校時代と環境が違っていたのか、そのせいで、よほどの寂しさを美佐枝は味わうことになったというのか、理沙には到底理解できないことだった。
高校時代のわだかまりがあり、さらに卒業後のスピード結婚によっての完全な絶縁状態だったことは、理沙の中でトラウマのようになっていた。
――美佐枝のようにしっかりしていると思っていた女性でも、寂しさは人一倍で、寂しさのために頼る相手を絶えずそばに置いておかないと、生きていけないような性格になってしまったのかも知れないわ――
と、感じていた。
それが、理由は分からないが、離婚し、そして、親を頼ることなく一人で暮らしている。救われたというのは少し違っているのかも知れないが、
――美佐枝が自分のところに戻ってきてくれた――
という意識が、
――救われた――
という表現を感情が選んだに違いない。
美佐枝と今日出会ったのは、何かの縁があったからに違いない。その場にいたのが恵美だったというのも、何かの因縁を感じる。
恵美の中に美佐枝を見ていたのかも知れないとも感じたが、性格的にはあまり近いとは思えない。
――恵美とは、知り合ったばかり――
という意識が強く、恵美を見ていると、美佐枝がどうしてスピード結婚したのに、すぐに別れることになったのか、知りたい気がしてきた。
「結婚していた男性というのは、どんなタイプの人だったんですか?」
この質問を浴びせたのは恵美だった。
理沙は一瞬焦ったが、言葉に出してしまったものを引っ込めることはできない。もっともこの質問は理沙がしたかった質問であり、恵美が代弁してくれたようなものだった。理沙は恵美の大胆さに驚かされながら、
――私も肝を据えないといけないのかしら――
と、目を輝かせている恵美の横顔を眺めていた。
――私には、あんな表情はできないわ――
と思い、恵美の言動が他人事だから簡単に言えたというわけではないことを感じていた。
美佐枝はすぐには答えられる状態ではなかった。
無理もない。初対面の相手から、真顔で心の奥を突かれるような質問をされたのだ。今までの美佐枝なら、
――何よ、人の人生に土足で入り込んできて、厚かましいにも程があるわ――
とでも言いたげなほどである。
確かに圧倒された表情をしていたが、すぐに我に返り、
「優しいところと、クールなところが同居しているような人だったわ」
理沙はそれを聞いて、すぐに二重人格なのではないかと感じた。
「付き合っている時には分からなかったの?」
「そうね、そこまで分かるには、交際期間は短かったわね」
「それなのに、スピード結婚?」
「ええ、焦っていたわけではないと思ったんだけど、一目惚れすることのなかった私が一目惚れだったの。一目惚れがどれほど自分に相手の気持ちを第一印象で焼き付けてしまうかということを、その時初めて知ったのよ。だから、第一印象が擦れないうちに結婚してしまおうと思ったんだけど、今ではどうしてそんな風に感じたのか分からないくらいだわ。きっと、住む世界が違うってあなたに言った報いだったのかも知れないわ」
報いというよりも、言い放ってしまったことで、自分の人生が後戻りできないということを悟ったのだろう。
「住む世界が違うってあなたが私に言ったあの言葉、私は、今でもよく覚えているわ。でも、あれをあなたが本気で言ったとは、どうしても思えないの。今でも同じことを思ってる?」
理沙は、訴えるように聞いてみた。
美佐枝が、その問いに対して、どう答えるかは、恵美にも大いに興味があった。返答によっては、理沙への見方を変えないといけないと思ったからだ。
恵美は、美佐枝とは今日一日、今だけの付き合いだと思っている。これ以上、一緒にいる人ではないという思いと、このまま一緒にいると、理沙と美佐枝とのどちらかを選ばなければいけない時が来るような気がして仕方がなかった。その時には、どちらも選べないという選択肢はないのだという思いも頭にあり、もし、そうでなくても、結論を後ろにずらせばずらすほど、どちらかを選択できなくなってしまうのではないかと思うのだった。
「そうね、確かにあの時は、住む世界が違うというのを実感していたわ。そして、その思いを正直にぶつけた。それはもし、あなたでなくても、相手が誰でも同じだったかも知れないわね。あの時の私の住んでいた世界は、誰かが特別だとはどうしても思えない世界だったのよ」
美佐枝がそう答えた。
理沙はまた少し考え込んでしまった。
「私たちの高校時代は、自分にとって特別な人を探していたような気がするわね。今のあなたの言葉を聞いていると、さらにその思いが強くなってきたわ」
――それがあなたなのよ――
という言葉を付け加えなくても、美佐枝であれば分かってくれるはずだ。そうでなければ美佐枝と仲良くなったりなんかしなかっただろう。元々は美佐枝の方から仲良くなろうと言ってくれたのを思い出していた。
「そういえば、妹さん、お元気ですか?」
美佐枝には妹がいた。
高校時代、一緒にいる時、いつも妹のことを気にしていた美佐枝を思い出した。
「ええ、元気にしてるわ」
また、少し寂しそうな顔になった。美佐枝はすぐ顔に出る。それだけ正直者なのだろう。
「たった一人の妹で、子供の頃から苛められっこだったの。だから、私がついていてあげないといけなかったのよ」
と、美佐枝は高校時代に言っていたが、それも嫌だという雰囲気ではなく、まんざらでもない様子だった。
妹思いの友達は他にもいたが、ここまで気に掛けている人は少なかった。その頃の妹とは一度か二度会った程度だったが、ほとんど自分から何も話そうとしない女の子で、暗いというよりも、
――危なっかしい女の子――
というイメージだった。
男から見れば、放っておけないタイプに見えるんだろうけど、他の女の子には、いじいじしているくせに、男の子から気にされているのが、我慢できない気持ちになっているのだろう。
苛めているのは男の子ではない。女の子だという。確かに理沙の小学校の頃も、苛められている女の子がいたが、男の子が苛めていることはほとんどなかった。女の子から露骨に苛めを受けている子のほとんどは、男の子からは、可愛いと思われている子ばかりではないだろうか。
理沙が美佐枝を、
――高校時代、唯一信用できる友達だ――
という思いを感じていたのも、妹を思いやる気持ちに共鳴したからであろう。理沙も苛めとまではいかないが、小学生の時、まわりからシカトされた時期があったことで、美佐枝のような友達が現れるのを、じっと待っていたのだ。
理沙は一人っ子なので、姉がほしかったのは間違いない。
――姉のような存在――
そう感じたのは、美佐枝にだけだった。
気に入らない親の勝手な考えを堰き止めてくれる人がいなかったのは、理沙の中にトラウマを作る土台を植え付けるにふさわしい環境だった。反発心を持っていたことで、美佐枝と知り合えたのかも知れないと思うと、自分が美佐枝の妹になったかのような気分になっていたのかも知れない。
「ルビー買ったんだね?」
「ええ、クリスマスの記念に買ったんだけど、何かの記念でもないと、やっぱり高いものを買う気にはなれないわ」
というと、美佐枝は、
「そうね。でも理沙らしいわ。私も離婚した時にルビーを買ったのよ。今日はしていないんだけど、今度見せてあげるわね」
「ええ、楽しみだわ」
「ところで、理沙は今お付き合いしている人はいるの?」
「お付き合いというほどではないんだかど、最近知り合った人がいるわ。まだこれからどうなるか分からないんだけどね」
「そうなんだ。羨ましいわね」
「美佐枝も、まだまだ若いんだから、これからよ。バツイチでも子供がいないのなら、問題ないと思うわよ」
「そうかしら? でも、私はまだ少し男性とお付き合いするまでには少し時間が掛かる気がするの。もし誰かと出会ったとしても、すぐに付き合い始められるような気がしないのよ」
「どうしてなの?」
「結婚するよりも、離婚する時の方が、数倍エネルギーを使うというけど、確かにその通りだったわ」
と言って、美佐枝は頭を下げて、考え込んでいた。離婚の時を思い出しているのかも知れない。
確かに離婚の時は結婚した時に比べて、数倍のエネルギーを使うというのは聞いたことがある。結婚も離婚も経験していない理沙には、その言葉に意味が、どうしても分からない。
理沙は、クリスマスの時に知り合った二人の男性を思い浮かべた。恵美の手前、自分は武雄を好きになったと言ったが、実際には達郎への意識も捨てたわけではない。二人を天秤に掛けているわけではなく、今は客観的に見て、どちらの男性が理沙にふさわしいかを垣間見ているように感じていた。
――性格的に、二人の男性は、二重人格性を持っていることは分かっている――
だが、細かいところで、どちらがどんな二重人格性を持っているのかは分からない。二人とも違う意味での二重人格なのは分かっているが、二人とも、裏に秘めている性格が表に出てくることはあまりないと思っていた。裏から操られているような雰囲気があり、それが却って頼りがいに見えているように思えていた。
――意外と頼りがいのある男性というのは、二重人格性を持っているのかも知れないわ――
と感じていた。
美佐枝は、そんな理沙を見ながら、隣にいる恵美を観察していたが、恵美という女性が、思ったよりも気配を消すことができる女性であることにビックリしていた。理沙と話をしている間、ほとんど意識することはなかったのだ。
普通気配を消そうとするならば、却って自分のオーラを表に出すことになってしまい、難しいはずである。それができるということは、よほどその場に自分の雰囲気を馴染ませる技を持ち合わせていなければできないことだろう。
美佐枝は恵美を見ながら、
――彼女は私に似たところがある――
と感じた。
そして、理沙を恵美の視線から見た時に、
――まるで妹を見ているようだ――
と感じ、妹のことを思い出していくのだった……。
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