第6話 第6章

 恵美は理沙が席を立ってからも、しばらくそこにいた。理沙がどうしてこの場を離れたのかなど、想像もつかなかったが、自分の暗さが一緒にいることに耐えられなかったのかも知れないと思った。

――当たらずとも遠からじ――

 と思っていたが、実際にもまさしくその通りだったのだ。

 あdが、恵美は、理沙が自分と仲良くなろうという思いでいることを知らなかった。頭の中になかったと言った方が正解かも知れない。最近の恵美は、自分のような女性と友達になろうなどという女性は、なかなかいないだろうと思っていた。

 恵美は高校時代を思い出していた。あの頃は男性が結構言い寄ってきて、吟味するのも大変だったが、ある意味楽しかった。それが一人の男性に決まってから、その人と付き合い始めると、まわりが急に恵美に興味を示さなくなったのだ。

 本人は態度を変えているつもりはないのだが、まわりから見れば分かるのだろう。恵美に対してずっと付き合っていきたいと思う人はあまりいないようだ。

 特に女性の友達は、なかなかおらず、計算高い人が近寄ってくる。そういう意味では理沙と知り合ったのも、縁なのかも知れないが、普通の縁ではなく、因縁を感じるものがあったのだ。

 気が弱い恵美は、自分から声を掛けることもできない。誰が見ても暗い雰囲気なのだが、なぜか存在感が薄れることはないのだ。恵美と仲良くなりたいと思い仲良くなった人でなければ、恵美の本当の姿は見えないだろう。ただ、友達になっただけの人で、

――まさか彼女がこんな人だったなんて――

 と思って離れて行った女性も少なくはない。恵美は、ベンチに座って、賑やかな大通りの人を目の前に見ながら、そんなことをずっと考えていた。

 目の前に見えている人たち、目には入ってきているのだが、頭の中には入っていない。ただ映像が目の前に広がっているだけで、そこから何かを想像することも、まったくできなかったのだ。

 慌ただしく流れていく映像であればあるほど、頭には何も残らない。

 恵美は、小説を書くことが好きで、中学時代には、よく人の流れを見ながら、文章を考えていた。だが、それも目の前の光景が次第にスローモーションに見えてくることで、ゆっくりストーリーを考えることができるという特技のようなものを持っていたからで、それが元々持っていたものなのか、後から身についたものなのかは分からない。自分では元々持っていたものだと思っていた。

 ただ、それもある程度のスピードや人数の中でしか発揮できない特技であり、クリスマスの喧騒とした雰囲気の中で、そこまでできるとは思ってもみなかったのだ。

 イルミネーションのチカチカした電光も、目に優しいわけではないので、想像するには難しい。光景としては嫌いではないが、何かを想像するには、まったくの不向きだった。何よりもスピードが速すぎるのだ。さすがに師走、師も走るとはよく言ったものである。

 高校時代、大学時代と、男性と付き合っている時の方が多かった恵美は、いろいろな男性がいたことを思い出していた。それぞれの男性が走馬灯のようによみがえってくる。これは男性と別れた時、いつも感じることであり、そういう意味では一番最初に付き合った男性のことを、一番たくさん思い出していることになるのだろう。

 だが、記憶というのは徐々に薄れていくもの。そして限界があるものであろうから、当然新しい記憶が格納されると、古い記憶は薄くなったり、別の場所に格納されたりして、そのうちに思い出すこともなくなるのではないかと思う。そんな中で、忘れたくない男性がいないわけではない。恵美が男性を思い出す時に、一番長く思い出す男性であった。

 彼は大学に入学してからすぐに出会った男性だった。

 まだ女性の友達ができる前で、入学してすぐだったので、男性が声を掛けてくる前だった。

 彼は別にナンパなつもりで声を掛けてきたわけではない。

「英語の授業の教室は、どこですか?」

 というのが、最初に聞かれたことだったような気がする。

「私も同じ授業を受けますので、ご一緒しましょう」

 恵美も、別に男性という意識で答えたわけではなく、同じ授業を受ける相手というだけの印象しかなかったので、その時はそれだけのことだった。

 それから翌日、彼が掲示板の前にいたのを見つけた時、恵美も思わず笑顔を見せた。彼も同じように笑顔を見せたが、

「あなたを待っていたんですよ。よかったら、昼食をご一緒しませんか?」

 と言われた。別に断る理由もないので、一緒に昼食を摂ったのだが、最初は本当に断る理由がないというだけだった。

 だが、話をしてみると、結構会話が繋がり、気が合うのが分かった。恵美が小説を趣味で書いているという話をすると、

「僕も結構書いてるんですよ。今度読んでもらいたいですね」

 小説を趣味で書いている人など、そんなにたくさんはいないだろうと思っていた。それだけに彼の存在が急に恵美の中で大きなものになり、

――仲良くなれてよかった――

 と感じるようになった。

 彼氏として意識し始めるまでにはいかなかったが、彼の方では最初から、恵美のことを彼女だと思っていたようだ。ただ、これが恵美でなければ、素直に喜んだのかも知れないが、恵美はあまりいい気はしなかった。自分の知らないところで勝手に彼女にされていたというのが気に障ったのだ。もっとも、付き合っている人がいて、その人とのことを天秤にかけていた恵美も決してほめられたことではなかった。

「どうしてそんなことで」

 彼から、そう言われたのを思い出した。

「どうしてそんなこと? これって大切なことじゃないのかしら? 自分の知らないところで勝手に彼女だと思われていたというのは心外だわ。知ってしまった以上、少し考えさせてもらうわ」

「じゃあ、知らぬが仏で、知らなかった方がいいと?」

「そうね、知らなかったら、あなたにこんなに食って掛かることもないでしょうからね」

「そうかい。それじゃあ、僕も考えさせてもらおう」

 売り言葉に買い言葉、お互いに言葉のバトルはそれまで信頼していた相手だっただけに、露骨に感じられて仕方がない。

 別れなんて簡単に訪れるもの、

「付き合い始めるのはいいけど、引き際が来た時、最小限のショックにとどめられるような相手も選ばないといけないわね」

 と言っていた友達がいたが、まさしくその通りかも知れない。恵美は、その言葉を思い出しながら、彼と別れた時のことを思い出したのだ。

 ただ、彼が書いていた小説というのは、恵美が見る限りでは、さすがと思わせるところがあった。付き合っている男性とは別れが近いという印象もあったので、天秤にかけているという感覚は正直少なかった。

――ひょっとしたら彼氏になっていたかも知れないあの人、今、どうしているのかしら?

 という思いが強かった。

 彼氏と付き合っている間にも、何人か彼のように、気になる男性が現れて、過ぎ去っていった。

――気が多い――

 と言われても仕方がないのだろうが、それだけで済まされるのだろうか。恵美は自分の性格をまるで走馬灯のようにして思い出すことがあるが、中に入っている小さくて綺麗なビーズが、現れては過ぎ去って行った男性たちのように思えてならなかったのだ。

 恵美にとって、自分にないものを男性に求める気持ちをずっと持ち続けていた証拠ではないだろうか。

 恵美は、いろいろなことを考えていると、今度はいてもたってもいられなくなり、思わず立ち上がった。立ち上がったのも無意識なら、その場から立ち去ったのも無意識、気が付けば歩き始めていて、フラフラと人ごみの中に消えていった。それから理沙が帰ってくるまでの約五分間ほど、そこのベンチには誰も座らなかった。人でごった返していて、他のベンチは埋まっているのに、ここだけは立ち寄る人がいなかったのだ。

「あれ?」

 理沙が帰ってきた時、そこに誰もいないのに気が付いて腰を下ろした理沙だったが、恵美はすぐに帰ってくると思い、そのままそこで待つことにした。この場所から離れてちょうど三十分、時間を潰すには中途半端だったかも知れないが、何かを考えるのにブラブラするにはちょうどよかった。

――彼女もきっと、私と同じように何かを考えていたくて、席を立ったんだわ――

 と勝手に想像したが、あながち間違ってはいない。だが、明確に何かを考えたいという思いがあったわけではない、もっと漠然とした気持ちであり、しかも席を立ったのは無意識だったのだ。

 恵美がどこに行ったのかということを考えるよりも、

――すぐに帰ってくる――

 という気持ちの方が強かったので、理沙はさっきまで考えていたことを思い出すこともなく、ゆっくりとこの場にいればいいと思っていた。歩いてきたことで寒さもしのげたし、後は待ち合わせの二人が来るのを待つだけだった。

 もちろん、恵美が帰ってこなければ、男性二人がいても、意味のないことであった。ただ、恵美が何かを考えたくて席を立ったのであれば、恵美が先に帰ってくるのも、男性二人が先に現れるのも、どちらでも問題はないと思った。それよりも、ここで恵美が一人で何を考え、そして、この場から立ち去るほどの何に行きついたのかの方が興味があった。恵美がどんな性格の女性なのか今はまだ想像もつかないが、分かってみれば、意外と自分と似たところの多い女性ではないかという予感があったのだ。

――こんな気分は久しぶりだわ――

 自分が人を待たせるよりも、待っていることの方が似合っていることに、改めて気付かされた気がした理沙だった。

 恵美は逆に人を待つよりも人を待たせる方だった。元々引っ込み思案だったので、最初は待たされることが多かったが、それを打破しようとして人を待たせる方に回ってみると、意外とこれが自分に合っていることに気付いた。ただ、それが本当の自分の性格から来ているものではないだけに、諸刃の剣のようなものではないかと感じていた恵美だった。

 恵美はその場から立ち去って、しばらくしてから、自分がどこにいるのか分からない状態で我に返った。

「ここは?」

 と思い、あたりを見渡してみた。

 まわりは人の波ばかり、繁華街なので、何か目印はないかと思って見てみたが、確かに見覚えのある場所ではあるが、場所を特定できるものを見つけることができなかった。

 ネオンサインが明々と煌めいている。目に悪いくらいで、最近はこんなネオンサインを見たことがないような気がした。

――私は夢を見ているのだろうか?

 見覚えのあるその場所は、確かさっき振ったばっかりの付き合っていた彼と、一緒に着たことがあった場所だった。しかも、一緒に入ったカフェが目の前にある。どうしてそれを夢だと思ったのかと言えば、その店は今年に入ってすぐに、なくなったからだ。

 潰れたというよりも、同じチェーン店の他の店舗と合併し、こちらが閉鎖になった形になったからだ。確かに客がそれほどたくさんいたような感覚はなく、ゆったりできたのがよかったので、結構何度か一緒に来た記憶があった。店内は思ったよりも照明が明るく、このあたりは繁華街と言ってもそれほど賑やかなところではないだけに、カフェだけが目立って明るいというのも皮肉なことだった。

 店は相変わらず明るいが、客は疎らだった。その中に一人の男性がいるのが見えたが、それがさっき振ってきたばかりの彼だった。

――どうして?

 と思い見つめていたが、彼が席を立って、姿を消したのを見送っていると、どうやら電話が掛かってきたようだった。彼はすぐに会計を済ませ、店を出て行く。そんな一部始終を見つめていたかと思うと、恵美は放心状態になった気分でいつの間にか歩き始めていた。気が付けば来た道に出ていて、さっきの場所までは目と鼻の先まで戻ってきていたのだ。

――私は何を見たのだろう?

 見てはいけないものを見てしまったような気がしたが、これも人を振るということへの報いのようなものかと思うと、これで彼と別れられたことを確信し、却って安心した気分になった。

――これで自由なんだ――

 儀式が終わった気がした。

 元の場所に戻ってきた恵美を見つけた理沙は、思わず笑顔になった。一人寂しいと思っていたところに帰って来てくれたタイミングは絶妙で、

――助かった――

 という気分にさせられた気がしたくらいだった。

 理沙が座っているのを見つけた恵美は、理沙が小さく感じられた。確かに距離は思ったよりもあったが、そこまで小さく見えるというのもおかしなものだ。まわりの人が大きく見える。比較対象に影が差していた。その分理沙がまるで正面からライトが当たっているようで、明るく見えた。そして、表情が想像できるほど、繊細に見えたのだった。

 近づくにつれて、少しずつ影が差しているように見えた。さっきまで見えていた表情に暗いイメージが加わり、複雑な表情をしているようだった。恵美が帰ってきてくれて助かったというイメージは間違いなさそうだが、それ以上を想像すると、まったく違ったものが浮かんできそうだったのだ。

 理沙にとって恵美が帰ってきてくれたことは嬉しいことだったが、近づいてくるにつれて、恵美の表情がおかしいのに気が付いた。普段の恵美を知っているわけではないのに、おかしいのに気が付くということは、だれであってもおかしな表情だと感じることである。無表情であっても、無表情になる前の顔がどんな顔だったのかが、何となく分かるのである。さっきまで笑っていたのか、それとも暗い表情だったのかということがである。今の恵美に対して感じる表情は、さっきまでホッとした顔をしていたのではないかと思えた。――思わず声を掛けてみたくなる表情――

 それが恵美の表情であった。

 恵美が戻って来て、理沙の隣に座った時、ちょうど先ほどの男性二人がやってきた。サンタの衣装を脱いでいたので、さっきとは、完全にイメージが違っていた。背が高いスリムな男性は恵美の隣に座り、理沙の隣には、ずんぐりの男性が座った。サンタの衣装を身に纏っていたので分からなかったが、背が高い男性はイメージ通りの好青年だが、ずんぐりの男性も見た目はさほど悪くない。どうしても体型に騙されてしまっていたようで、理沙から見れば、ずんぐりの男性も悪くないように見えた。

 お互い、男性の間で、どっちが好みかを相談していたのではないだろうか。どちらが主導権を握って決めたことなのか、二人の間にわだかまりはなかったのかなど、二人には分からない。理沙と恵美はお互いにほとんど話をしていたわけではない。特に理沙はしばらくこの場所を離れていたではないか。女性の側は男性の側で、決めてきた相手をまず吟味することから始まり、相手が嫌ならすぐに嫌いになってもいい立場にもいることを利用しても構わない。

――決定権はないが、拒否権はこっちにあるのだ――

 そう思うと、相手に選ばせるのも悪くはないような気がしていた。

 その思いが強いのは、理沙の方だった。

 理沙は自分が主導権を握りたいタイプだが、それは女性の中での主導権であって、男性との間での主導権は男性に持たせるのがいいと思っていた。その方が楽であり、自分の性格が出せるのではないかと思ったからだ。特に前付き合っていた男性が未練がましい人だっただけに、ややこしい相手はごめんだと思っていたのだ。そういう意味でも決定権がなくても、拒否権がある方が、今までの経験からすれば、よかったであろう。

 恵美の方からすれば、少し不満のようだった。モテたことのあるイメージしか残っていない恵美にとって、男性から選ばれるのは、プライドが許さない屈辱的なことであった。だが、それでも背が高いいかにも好青年から選ばれたのだから、幾分かは救われた気がしていた。とりあえず、このまま推移を見守っていこうという気分にさせられたのだ。

 恵美は、理沙がどこに行っていたのか気になっていた。自分はいつの間にかふらついていて、気が付けば戻ってきていたという感覚しかない。その前に理沙が何か目的があるような雰囲気で出かけていたので、何かを買うか、誰かに会う目的でもあるのかと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。人に会うにしても、三十分未満で戻ってくるというのは、あまりにも中途半端すぎる。目的がないとすれば、単純に自分と一緒にいたくなかっただけだろうが、そのまま帰ってしまってもいいところでもあるのに、また戻ってきたというのは、戻ってきている姿が小さく見えたことと何か関係があるのかも知れない。

 ただ、お互いに無作為に歩いていただけだったが、いろいろ頭の中で考えていただけだった。

「寒いから移動しましょうか?」

 背が高い男性が、恵美に声を掛けた。それを聞いて、表情が少しこわばっていた恵美だったが、精一杯の笑顔を見せ、

「ええ、参りましょうか」

 と、目線は理沙を見た。理沙は何も言わずに恵美に従うようにして席を立ったが、その表情は無表情だった。主導権を取られたことで怒っているのかと思ったが、そうでもないようだ。ただ、何かを考えているのかも知れないというのは、恵美には分かった。恵美も理沙もお互いに相手が一人でいろいろ考えるタイプであることは分かっているようだ。

「このお店、入りましょう」

 と言って、二人の女性を引っ張って行ってくれたが、理沙は少し不思議な気がしていた。

 クリスマスというと、どこの店の予約でいっぱいのはずなのに、見るからに予約制のレストランを、ここ一時間の間で予約できるというのは、ちょっと考えられない。席に案内されて、腰を下ろして少し聞いてみた。

「ご予約はどうされたんですか?」

 二人の男性は顔を合わせて苦笑したが、恵美も理沙の話を聞いて意味が分かったのか、ハッとした表情になっていた。

 背の高い男性が代表して話してくれたが、

「実は、僕たち二人、去年のことなんだけどね。それぞれ彼女を誘ってここで落ち合うという話をしていたんですけど、予約を取ってから、二人とも失恋したんですよ。僕たち二人と、彼女たち二人はそれぞれ友達だったので、一組が気まずくなると、もう一組もぎこちなくなってしまうのも当然かも知れませんね。そのせいもあってか、ここの時間は限られているので、すぐに他に移らないといけないんですよ」

「それなのに、また二人で私たちを?」

 口を挟んだのは恵美だった。

「そうですね。僕たち二人は女性の好みもお互いに違っているので、女性の好みのことで喧嘩することはない。それに一人ずつで彼女ができても、僕たち自体がぎこちなくなってしまうのは、避けたいという思いが強いんですよ」

 と、今度は、ずんぐりの男が口を挟んだ。

 聞いた相手と違う人からの返答に、恵美は面白くない気分になった。

――このままここから立ち去ってやろうか――

 と思ったくらいだが、せっかくのクリスマス、一人でいるよりも、発展性がよく分からない相手であるが、一人でいるよりマシだということで、もう少し付き合ってみる気になった。そして何よりも理沙に自分が興味を持っていることを自覚していることもあり、このまま立ち去る気分には、毛頭なれなかった。

「じゃあ、自己紹介からしましょうか? まず、僕ですが、僕は達郎と言います。大学三年生で、学部は法学部です」

 背の高い男性に完全に主導権を握られたが、誰も文句は言わなかった。

――背の高い男性が達郎――

 自己紹介の場では、苗字を言わなくてもいいようだ。これが達郎たち男性のやり方なのかも知れない。

「次は僕ですね。僕は武雄と言います。大学では医学部に所属しています」

 あまり会話が得意ではないのは、外観のせいかと思っていたが、よく聞いていると、アクセントが少し違っている。田舎出身であることを、過剰にいすきしているのではないだろうか。

 武雄が医学部だと言った時、理沙は彼の白衣姿を想像したが、ずんぐりではあるが、白衣を着ればそれがそのまま貫禄に繋がりそうな気がする。外観で人を判断してはいけないと思っている理沙だったが、それもいいイメージに変わるのであれば、別にいいのではないかと思うのは、矛盾した考えなのだろうか。

「じゃあ、今度は私ですね。私は理沙と言います。一応、普通のOLをしています。趣味はお料理です。よろしくね」

 理沙は、本当は趣味と言えるようなものはなかったが、しいていえば料理が好きで、練習していた、だから、まず料理という言葉が最初に出てきた。

「私は、恵美。私もOLしてます。趣味は、えっと、小説を書くことです」

「すごいですね。僕は芸術的なことはからっきしなので、絵を描いたり文章を書いたりできる人には憧れを感じます」

 間髪入れずに、達郎が言った。それはまるで、

――自分の選んだ相手に間違いはなかった。目に狂いはなかったんだ――

 と言いたげだったのだ。

 恵美と達郎、理沙と武雄のカップルがまさに出来上がろうとしていた。四人はそれぞれに喧嘩することもなく、スムーズに相手が決まったことを素直に喜んでいたが、その中で一人だけ、懸念を持っている人がいた。それは武雄で、

――あまりにも簡単に決まったけど、大丈夫なのかな? グループ交際のようになると、一組が気まずくなると、もう一組も影響がないわけではない。嫌な予感がする――

 と感じていたのだ……。

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