第12話 私の人生
今から過去に戻れたって、きっと同じ過ちを繰り返すだろう。
(今は冷静でいられるけれど、またマリアや両親を前にしたら醜い感情が湧き出てしまうわ……)
あんな苦しい思いはしたくない。考えれば考えるほど怖くなるのに、嫌な方向に考えが止まらない。
俯いて唇をかみしめた私に、ジョナスさんがコップを差し出してくれた。
「ほら飲みなさい、気分が落ち着くから。ソフィアの考えも分からんでもない。誰しもそんなものだ。私だってソフィアと同じ状況ならそうなるかもしれない。……レオも分かるだろう?」
話をふられたレオは笑って頷いた。
「ソフィア、俺たちだってそんなに強い人間じゃない。だけど僕は、師匠やソフィアがいるから正しくあろうとしているだけだ」
「そうとも、一人で清廉でいられる人間なんてほとんどいない。そうあろうと努力して、周囲の人間と支えあっているだけなんだよ」
二人の言うことはなんとなく分かる気がした。でも……
「そうなんでしょうか。私はお二人と違って罪を犯したのです。こんな私が誰かと支えあうことなんて可能でしょうか。誰かに寄りかかっているだけになってしまいそうです」
自分で言っていて情けなくなる。犯罪者として追放された私、こんな自分を二人と並べて語ることすらおこがましい気がした。
私が黙り込むと、レオが空いている方の肩を掴んだ。
「あのねソフィア、どんな人だって失敗するし、人に迷惑をかける。もちろんそれで恨まれたり復讐されることもある。だけどね、それでも自分の人生をまっすぐ歩む権利だけは誰にも奪われないよ。ソフィアは罪を犯したと言うけれど、罰は受けただろう? もう前を向いて歩んで良いんだよ」
「私の人生を……出来るでしょうか。今だって充分すぎるくらい幸せなのに、これ以上はバチが当たりそうで」
「私も二人くらいの時には色々やらかしたもんさ。だがこうしてお前たちのような素敵な家族を手に入れて幸せに生きてるだろう? 一度失敗したからって、ずっと不幸でいなきゃいけない道理はない」
ジョナスさんは私たちを家族だと言ってくれた。その言葉が本当に嬉しかった。私にはもう家族なんて出来ないと思っていたのに……。
じんわりと心の奥があたたかくなっていくのを感じた。
「そうだよソフィア。僕だって君に言っていないだけで、酷いことを結構してるよ? だけど幸せになるのに遠慮するつもりはない」
レオがジョナスさんに同意するように力強く断言した。
私は不幸で当然、幸せになれる訳ない。そんな風に心の奥底で思っていたのかもしれない。
(遠慮しなくて良い……のかもしれない)
二人がこんなにも真剣に話してくれる。それを信じなくてどうする。
「わ、私……もう自分の好きに生きて良いんですね」
言葉にした途端、目から涙があふれてきた。
(嬉しくて幸せなのに、涙って出るのね)
レオが私とジョナスさんをまとめて抱きしめた。涙で前が良く見えなかったけれど、レオもジョナスさんも優しく微笑んでいた。
「いいんだ。もう、いいんだよ」
「そうとも、私たちが保証しよう」
こんなにも幸せを感じることが出来るなんて、過去の自分に言ったって信じないだろう。
(二人と一緒に人生を歩みたい。だから二度と同じ過ちを繰り返さないように頑張ろう。出来なかったらまた何度だってやり直そう)
二人に抱きしめられながらそう誓った。
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