第11話 過去と向き合う
ジョナスさんの態度に押されて、私はおずおずとレオのもとに戻った。
(お客様が補助の店員を気にかけることなんてない。大丈夫よ……)
表情や目線に気を配り、不審な態度をとらないように集中した。もちろんレオの動きも読みながら、いつも通りの仕事をする。
(お客様の顔を見れない……けど、気になるっ)
もしお客様が私に気づいたのなら、こちらをチラチラ見るはずだ。気になってお客様の方に目を向けると、熱心にカタログと実物を見比べていた。
(これは……バレてないかも?)
お客様がネックレスに夢中だと分かると、少し気が楽になった。
(そうよ、わざわざ隣国から買いに来てくださった方が、店員の顔なんて気にする訳ないわ)
小さく息を吐いて姿勢を正した。気持ちを切り替えて接客しないと。もうすぐ接客も終わりそうだ。
「では、こちらを。お買い上げありがとうございます」
レオがお客様に商品をお渡ししているところだ。私は扉を開けてお客様にご挨拶をした。
「ありがとうございました。また是非ご利用ください」
お辞儀をして顔を上げると、少し驚いた表情をしたお客様と目が合った。
「あら? あなた……また来るわ」
意味ありげな微笑みを残してお客様は帰っていった。
(えっと……今、もしかして気づいたのかな? でも、嫌な顔はされなかったわ)
お客様の不思議な反応のせいか、あまり恐怖や焦りはなかった。もしも軽蔑した視線を送られていたらジョナスさんに謝らなければならないと思ったが、なにをされた訳でもない。
あんなに焦っていったのに、何も起こらなかった。拍子抜けしたような、安心したような、けれど少し不安なような……変な気持ちだった。
(あんなに不安だったのに、こんなものかしら……いや、でも気づかれたかもしれないけど。うーん……)
ぐるぐると考え込んでいると、レオに肩を叩かれた。
「いつまで扉を開けておくつもり? もう閉店するから売上確認しよ」
「あ、はい」
ふわふわした気持ちのまま、残った仕事をしていく。色々考えすぎて頭がショートしてしまったのかもしれない。
(このままじゃダメだわ。……よしっ)
私はある決意をした。
その日の夜、いつものように三人で夕飯を食べていた。食べ終わってそろそろ皆が自室に戻ろうとした時、私は思い切って二人に声をかけた。
「あの、ちょっとお二人にお話ししたいことが」
「どうしたの?」
私が切り出すと、レオがきょとんとした顔でこちらを見た。ジョナスさんは黙って私に視線を向けている。私が何を話すか予想がついているんだろう。
「今日はお仕事中にぼんやりしてしまって申し訳ありませんでした。お客様がハプレーナから来られたと聞いて動揺してしまったのです」
レオは納得したようで、それでかあ……と呟いていた。
「今日のお客様は特に何も言ってこなかったのですが、またこのような事があるかもしれません。それで、あの、誰かの口から言われるより、私から言いたくて……私が何をしたかを。えっと、聞いていただけますか?」
「もちろんだよ。聞かせてくれる?」
「話したい事を話せばいい」
二人とも、真剣な顔をして聞いてくれた。私がハプレーナでどんなことをしたか。街の人にどう思われていたか。……私がどれだけ幼稚だったか。
ずっと黙って聞いていてくれた。
自分の過去の失態を話すのは顔から火が出るほど恥ずかしかったし、途中で止めてしまおうかと何度も思った。けれど、他人から噂話として聞かれるよりはずっとマシだ。私が何を考えてたかも正直に伝えることが出来るのだから。
「……それで国外追放されてしまったのです。その後すぐにお二人と出会って……本当に感謝しているんです。ありがとうございます」
頭を下げると、肩にポンと手が置かれた。ジョナスさんの手だった。
「話すのには勇気がいったろう。出会った頃よりずっと強くなったね」
「そんなことないです……今はお二人が支えてくれているからそう見えるだけなんです。また同じような状況になったら、嫉妬して暴走してしまうかもしれません」
今はただ環境に恵まれているだけ。本当にそれだけなんだ。私は良い人間になれた訳ではないのだから。
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