Folder3 ルーティーン
#某学生寮・タヌキ&タカの部屋
「タカ、朝だよ」
「ん、うんん……」
眠い。
「ほら、起きて」
「うん、分かった」
春の陽気は、どうにも瞼を重くする。
のっそりと体をベッドから降ろす。目の前に、狸が映り込む。
「おはよ、オリーちゃん」
「ん、おはよ」
「朝ご飯、目玉焼きでいい?」
「鮭が良い」
……。
「卵焼――」
「鮭」
……。
「二匹でいい?」
「ん」
やっと頷いてもらえた。
洗面所へと向かい、顔を洗う。口の中の気持ち悪さも水と共に洗い流す。鏡を見れば、少し気だるげな美少女が映っている。もちろん、私だ。
赤とその近い色のメッシュの髪を短髪に揃えて、後ろはポニーテールが揺れている。情熱的、と言うよりは鮮やかな赤い瞳と痩せすぎず太り過ぎず、大きすぎず小さすぎず。出るとこ出て引っ込むとこ引っ込む抜群のスタイルの持ち主だ。
自分で言うのもなんだが、私は他人が羨む純美少女である。
「うん、私は今日も可愛いね」
軽く支度を終わらせてキッチンに立つ。冷蔵庫で冷凍してあった鮭を取り出し、一匹ごとに分けてオーブンへと突っ込む。後はタイマーかけて焼くだけ。うん、らくちん。
「さて、味噌汁でも作ろうかな」
と言うことで、朝食の準備を進めて行った。その間、オリーちゃんはテレビを見て寛いでいた。いつものことだ。
「オリーちゃん、準備できたからご飯よそって」
「分かった。お茶碗取って」
「は~い」
オリーちゃんでは食器棚には届かないのでオリーちゃんのお茶碗を取ってあげる。それを受け取ったオリーちゃんは、意気揚々と炊飯器へと向かって行った。
「よし、出来た」
味噌汁と鮭をお皿に盛って、机へと運んでいく。典型的な和食の風景は、どうやらオリーちゃんのお気に入りらしい。だから目玉焼きが食卓に並んだことは一度もないのである。
オリーちゃんは座布団を何段か積んだ椅子の上に座り、ご飯の前で待つ。私も反対側に座って両手を合わせる。
「「いただきます」」
二人そろってそう言って、私たちは箸を進めた。
「うん、美味しかった。ご馳走様」
「お粗末様。食器は自分で片付けてね」
「分かってる」
言って、オリーちゃんは椅子からポンッ、と飛び降りた。食器を積み重ねて、流しの方へと向かう。私も、少し遅れてあとに続く。一緒に流しに突っ込んで、適当に水で流す。これだけで後の皿洗いの大変さが段違いなんだから。
「じゃあ、学校に行く準備しようか」
「ん」
「先に着替えておいて。私は荷物要しておくから」
「よろしく」
オリーちゃんの荷物はいつも私が取り付けてる。家にいる間のオリーちゃんは気が抜けていて、去年の最初の方は忘れ物が酷かったのだ。それからはずっと私がオリーちゃんの荷物も準備している。そうすれば忘れ物を忘れることもないのだ。
……なんか今違和感あったな。まあいっか。
「とりあえずハンカチティッシュと筆記用具とノートでしょ。工具一式とサバイバルナイフ。軍用トランシーバーにハンドガンと変えのマガジンを入れて……まあ、初日だしこんなもんでいいかな」
そうやって自分の分を用意して、今度はオリーちゃんの分も同じく詰めて行く。今日は新年度も始めと言うこともあって荷物が軽くてらくちんだ。
らくちん、って今日日言わないかもしれない。
「オリーちゃん、着替え終わった?」
「ん、終わった」
「は~い」
オリーちゃんは着替えを覗かれるのを嫌う。どうやら尻尾を見られるが嫌らしい。
決して普通の人間についている物じゃないし、コンプレックス的なものなのかもしれない。以前着替えていたところを誤って覗いてしまった時は死んだと思った。割とマジで。
なのでちゃんと確認を取ってからクローゼット近くで着替えているオリーちゃんの方へと向かう。
「じゃ、私着替えるから先に行ってていいよ」
「……分かった」
「そう寂しそうにしないでよ。すぐ追い付くから」
「ん」
悲しそうに視線を下げたオリーちゃんの頭を軽く撫でて見送る。
見送って、部屋着を着替え始める。まあ、オリーちゃんと違って私の制服は改造していないので変に時間はかからない。数秒もかからずに着替え終え、ちょうど扉を開けて外へ出たオリーちゃんの後を追う。
「お待たせっ、オリーちゃん!」
「タカ、鍵」
「えっ!? あ、忘れてた!」
「まったく……」
オリーちゃんのため息を背中に受けながら、私は小さく笑って扉の鍵を閉めるのだった。
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