Folder4 スクールゾーン
#某通学路・学校付近
日差しが温かい。
春となり、四月に入れば雪は解け段々と気温も上がって行く。それに伴って木々は色を変え、人々も活気をつけて行く、そんな時期。私たちはそれでもいつもと変わらぬ調子で通学路を歩いていた。例え新年度になろうとも歩くペースや道順が変わることも、周りの人々や建物が変わるわけでもない。
飽き飽きするくらいには歩きなれた通学路など、目を瞑っても踏破できる自信が――
「おらぁ!!!」
――あったんだけどな~。
標的が私じゃないのは分かったが、ひとまず身構える。
視界の少し前を言っていたオリーちゃん、基タヌキが姿を消した。
「おいタヌキ! いい加減相手しろよ!」
「そんな暇じゃない。他をあたって」
「もう他のやつらとはやったから言ってんだよ! あとはお前だけだ!」
一瞬で移った視界の中、互いの獲物を交差する少年少女は春の日差しに負けないくらいには白熱した雰囲気を纏っていた。
愛用のダガー片手に応戦するタヌキのお相手はうちの学級一のお調子者、ハイエナ。非常に好戦的かつ短絡的で、暇さえあれば模擬戦を毎度のように辞退するタヌキに突っかかってくる面倒な奴だ。気のは無かったからもう自制してくれたのかと思ったのだが、今日もまたあいさつ代わりに剣を振るってくる。
「ハイエナ、いい加減鬱陶しい。雑魚は死体とでも遊んでればいい」
「おお、言うねぇ! でも、そう言うのは俺に勝ってから言えよ!」
「戦わなくても結果は見えてる。疲れるから、離れろ!」
言って、タヌキはハイエナを突き飛ばす。あの小さい体のどこにそんな力があるのか疑問に思いつつ、広くなった戦場から出るように私はバックステップを踏む。
「ねえハイエナ、私も早く学校行きたいから突っかかるのはやめてくれないかな?」
「総合八位は静かにしてな! お前も俺に勝てなかっただろ?」
「そりゃそうだよ――」
――条件がきつかったもの。
「じゃあ、見てろって! 俺はタヌキが数字だけの奴じゃないって睨んでるんだ。間違いなく、うちのクラスで一番強いからな!」
「分かってるなら、さっさと消えて。ハイエナ、君じゃ私には勝てないよ」
「そうか? 俺は一対一なら最強だ。誰にも負けた事はない。それに、一度負けったって何度でも挑んでやるさ。根気強さが俺の持ち味だ」
そんなことを言いながら、ハイエナは剣を油断なく構える。対するタヌキは面倒くさそうに力を抜いた。ダガーを緩く握り直し、やってられないとばかりに瞼を降ろす。
「面倒――」
「ちょ、逃げるなって!」
直後、タヌキはその場から走り去った。それを追うように、ハイエナも駆けて行った。
一瞬遅れて一歩を踏み出そうとして、やめた。本当なら追いかけたいのはやまやまなのだが、いつの間にか目の前には足を止めざる負えない事情が立っていた。
「やあタカ、おはよう」
「おはようございます、イズナさん」
和風洋服を華麗に着こなす狐風美少女、イズナさんだった。さっきまで気配を感じなかったけど、狸がたちが行くのを待ってたのかな?
「どうかしたんですか?」
「いや、いつもこんな感じなのかな、って思ってね。私にも挑むって言ったけど、ああいうのは遠慮こうむりたいかな」
恐らくハイエナのことを言っているのだろう。どうやら、イズナさんのような寛容そうな人間でもああも粘着質な男は嫌いらしい。
「さて、せっかく道のりを同じくしたんだし、一緒に行こうか」
「はい、ご一緒させていただきますね」
「うん。じゃあ行こうか」
イズナさんと横並びで歩いてみるが、やはり私たちの間に大きな差は無かった。身長にしても、雰囲気にしても。イズナさんが辛うじて制服と言うこともあるが、お互いに高校生にしか見えないだろう。この人が教師と言うのが、いまいち実感できないでいた。
ただ、話題の内容はそれっぽい。
「え? ファンシーの彼女、制服をなん十着も持ってるの? どこで買ってるんだろ。非売品のはずなんだけど……」
イタチのことだったり。
「ネコは可愛いよね。トラも、双子ってことで可愛らしい。でも、あのトラは可愛がられるのを嫌う質なんだろうね。あの態度で分かる」
双子のことだったりして、生徒の話ばかり聞いてくる。新任と言うことで、早くクラスメイト達のことを覚えようとしてくれているのだろう。
なんとなく嬉しく思えて、私は聞かれたことは結構素直に答えてしまった。
「へぇ、そうなんだね。じゃあ今度は、タカ、君のことを教えてよ」
イズナさんは大きく笑って見せた。
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