ぬらりひょん鼎談

「なあ東の、おとなしく俺たちと組まねえか?」

「いいえ、わたしたちと」

「困りましたね」


ここは現実と幻想の狭間、東のぬらりひょん、水重(みずしげ)の願望世界(がんぼうせかい)。名を妖怪酒場。

異界にカテゴリされるこの空間に、見慣れぬ姿が二つ。


「なあ、俺たちと組もうぜ水重。人間たちにこの世界の主導権を握らせておくなんてありえないだろ? それを握るのは俺たち妖怪であるべきだ」


過激そうな考えを披露しているのは西のぬらりひょん、源墨(げんぼく)。


「相変わらず野蛮なこと。わたしたちは人間から生まれ、人間により存在しうるモノ。ならば、そんな人間たちを陰ながらにサポートすることが、わたしたちが妖怪たる使命ではなくて?」


穏健そうな考えを披露しているのが北のぬらりひょん、流(ながれ)。


「はあ、帰ってくれませんかねぇ。こちらに危害が及ばなければ、私としてはあなたたちに介入するつもりはありませんよ」


ため息をつく水重。


「はっ、中立ヅラしやがってよ。ハッキリ言ってオマエが東西南北のなかで一番めんどくさいんだよ。何人俺の部下を細切れにした?」

「ええ、癪ですが源墨に同意です。わたしたちが年単位で用意してきた日本安定化計画を邪魔されたのは未だに恨んでいますよ」

「別にいいじゃないですか細切れにするくらい。どうせ死なないんですし。そもそも源墨が私の友人の縁者に危害を加えたのが悪いんですよ。

あと流は問題外です。なんですか内閣総理大臣を洗脳して支配するって、この中で一番危険なのあなたじゃないですか。少しは私かキチンと政党立てて頑張ってる源墨を見習ってください」


愚痴じみた反論を返す水重、当然、その調子はうんざり気。そんな水重の態度にツッコむが如く反発する二人。


「なっ、俺たちの活動拠点関西なんだが!? それにただ選挙活動してただけじゃねーか」

「危険とはなんですか危険とは! わたしたちはただ、この国に絶対のブレーキがほしかっただけですよ」

「源墨は人間に危害が及ばないような選挙活動をすればいいじゃないですか、ライバルを蹴落とすとかあくどいことやってないで」

「いやいや、相手も似たようなことやってたし……」

「だから両成敗にしたじゃないですか」

「アイツはただ諭されただけなのに、俺の部下は問答無用で細切れにされたんだが」

「………………それはすみません。ちょっと気が立ってて」

「!……まあいい。気持ちはわかる」


ギロリと源墨が流を睨む。その強烈な、殺意をも連想させるような視線を受けてなお、まるで動じずに彼女は口を開く。


「なんです? わたしが悪いって言うんですか。別にいいじゃないですか悪用するつもりはなかったんですから。むしろわたしは、この国の頂点に立ちたいのにゼロから選挙活動なんて回りくどいコトしてるあなたの理解に苦しみますよ」

「はあ、ズルして上り詰めても意味ねぇじゃねーかよ。そんなんじゃ下の連中はついてこねぇ。それに俺は、あの選挙ってヤツが気に入ってんだ。対等に人間と比べ合うのはなかなか楽しいぜ」

「のんきなコト。人間はすぐお互い傷つけあって哀しみの中で死んでしまう。だから力あるわたしたちが守ってあげないと……それがわたしたちの使命なんだから」


議論は最終局面……否、最底辺へ。もはや二人は自分の曲がらぬ考えで無益な殴り合いを続けるのみ。自分の世界でそんな無限ループを展開されることを嫌った水重が一石を投じる。


「二人とも、譲れない理由があって勢力を率いてるんですねぇ」

「そういうオマエこそなんでこんなことをしているんだ? いつもあいつらの面倒ばかりみてやがる。野望とかはねえのかよ。せっかくの最強なんだからよ」

「そうですね。人間にも妖怪にもつかずに毎日毎日こんな酒場で馴れ合いばかり、あなたには力ある者としての自覚はないんですか?」


二人から思わぬ反撃。沈黙する水重。嘘はつけない、見破られる。そうなれば、もっとこの話は長引くだろう。本当のことを言うしかない。

水重はしばらく後、ため息を発端として口を開いた。


「————友情がほしいんですよ。本当の。だから私はみんなのためにこの力を使うんです」

「はあ? 友情なんて友達がいればいくらでも」

「ええ、別にそう難しいことじゃありません。あなたの絶大な力があれば片手間どころか無手間です」

「でも、君たちが言うような“友情”は打算が混じっているでしょう? 自分が安心するためだとか目的のために必要だとか。だから私は、打算が一つも混じらない純粋な友情がほしい。そのために私はすべてを懸けてみんなに友愛(けんしん)し続けるのです。私……ぼくには、それ以外に目的のモノを得れる方法が見つからない。すべてを差し出し続けて、すべてを差し出してくれる人を待つしかない。なにが言いたいかというと、私に君たちに付き合っているヒマはないのでさっさと帰ってください」


数瞬の沈黙、二人が同時に言葉を返す。


「めんどくさすぎでは!?(めんどくさッ)」


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跳び跳び短編集 跳躍 類 @choyaku-rui-0520

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