海へ
このところ夢を見る。起きたらわたしは砂浜にいて、海に入ろうって気になってる。
空は想像を裏切る曇り色。けれど地平線の向こうには青が見える。
そうして海に入ろうと足を踏み出し歩き出す。足が砂に沈むのが気になる。無視して前に進んで、海と陸のはざま、波が押し引きするところを踏んづける。
いつもここで目が覚める。けど、畳の上でも海水の冷たさ、濡れた砂の感触、そしてザアザアという波の音が足に、耳に残ってる。
今日のは雨が降っていた。全面濡れた砂浜が、足の指にまとわりついて気持ち悪い。
早く海水で洗い流そうと海に駆け足で向かう。けれど濡れながらにやわらかい砂に足を取られて前に進みづらい。“雨降って地固まる”なんて言葉を皮肉みたいに思い出した。
ちょっと苦労しながら海にたどり着く。駆けた足の勢いのまま海に突入する。
バシャバシャと水が跳ねるけど、雨に濡れた身体には関係ない。
海が火照った身体を伝って気持ちいい。
そこで目が覚めた。冷たい身体に熱がじくじくと散っていた。
嵐だった。砂浜は暗くて、いつもの青い地平線がないと昼夜がわからないほどだった。
心なしか海が近づいてきているように感じる。波のシルエットたちが吹き荒れる暴風によってぶつかりくだける。波が風に蹂躙される光景が脳を支配する。
ふと見つめた地平線の青さに心奪われる。あっちに行ってみたい、という気持ちが沸き上がる。
そうして一歩を踏み出した。
目を開けた。
ベッドに置かれたわたしの身体に朝の空気がしみ込んで、熱が少し冷めていた。
また雨が降っていた。けれど手についた汚れが落ちる気配はない。
くさくて嫌だから手を洗い流そうと海に向かうけど、なぜか走る気にはならない。
のろのろゆっくり海に向かって歩く。不思議と足が砂に沈まない。
海に入って手をじゃぶじゃぶ洗う。汚れが少しずつ少しずつ落ちていって海に流れる。
落として海に流すにつれて、空もどんどん晴れていく。折り重なった不安も消えていく。
落ちきったところで目が覚めた。シーツを変えたのにまだくさい。
晴れていた。地平線とつながった快晴で、日の光がぽかぽかわたしをいやしてくれる。けれども後ろを見ると、深くて黒くて不吉な雲が、私の空を侵そうと、ずるずる迫ってくる。私はそれを見て一目散に走りだした。足元の砂は気にならない。一息に海へと飛び出す。水がかかって身体が濡れて、こんなときなのに心地いい。まっすぐそのまま地平線へと逃げていく。もう波の音しか聞こえない。
夢はまださめない。
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