肉を食わせる


 * * *



 ――その日、タイキが鶏小屋に向かうと、すでにヤスカが鶏を外に出していた。

 ただやはりココだけは鶏小屋の中で卵を温めていて、ヤスカはその前に、エサ入れを置いていた。エサ入れの中には、ウインナーがはいっていた。


「食べさせていいのか?」


 思わずタイキが後ろから声をかければ、ヤスカは頭を動かさなかった。ただ、


「……ココはお母さんになるんだよ。だから、お腹空いてるんじゃないかと思って」

「鶏のエサなら、いくらでもあるよ」

「……ココ、いつもご飯いっぱい入れてるけど、そんなに食べてないよ」


 ウインナーの入ったエサ入れの隣には、すでに鶏用のエサが入った皿があった。しばらく飼育委員をやっているから、タイキにはわかる。これはまだ新しいものに変えていない、昨日のエサだと。ヤスカの言う通り、確かに減っているようには見えない。


「ココ、ウサギを食べてるのかもしれない」


 不意に、ヤスカは。


「だからウサギがいなくなった時、血塗れなんだよ」


 今日もココの腹の下は赤黒く染まっているようだった。ウサギの数は、まだ確認していない。ココの下に卵があるかも確認していない。


「それでね、私、考えたの。ウインナーあげたら、ココはウサギ食べるのやめるかなって。ウサギも、かわいそうだもん……」


 けれどもウインナーを前に、ココは相変わらず動かない。薄暗い中、目をぎらぎらさせているだけだった。少し羽が乱れて薄汚れて見えるのは、気のせいだろうか。


 結局その日、いつまで待ってもココはウインナーを食べてはくれなかった。

 ただ鶏小屋を出る際、タイキは気付いてしまった。

 ココの下に、昨日はなかったものがある。赤い血に染まって、それでもきらりと輝く、宝石のようなものがある。


 ビーズ、だろうか。

 ジョウスケがつけていたブレスレットだ。

 ――何だかんだ言って、それでも毎日飼育当番に来ていたジョウスケは、その日、来なかった。

 ウサギの数は、減っていない。


 ただジョウスケはそれから二度と姿を現さず、十年以上が経っても、町の掲示板や電柱に、同時のジョウスケの写真と「探しています」の文字が書かれたポスターが貼られ続けた。


 そして鶏小屋の鶏が全ていなくなったのは、このウインナーをココにあげた次の日のことだった。

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