第5話


 映画は、僕と親友の共通の話題でもあった。二人ともこの映画が好きだった。同じ時代の似た他の映画や、話題の最新作を見ても、その後で二人ともなんとなく、この映画と比べたり、どちらからともなくこの映画を見たりした。一緒に遊んでいて、映画に出てきたセリフを言ったりした。他の友達と遊んでいるときにセリフをふと口にすると、二人だけでニヤリとした。

 親友は少し髪の毛の色が明るくて、学校では「少し不良」という体で通っていた。しかし、授業も放課後も休み時間も、特に目立つことはなかった。外見と素行のギャップを楽しんでいたわけでもない。それは僕がよく知っていた。ただ、彼は僕の親友だった。親友と僕の間に、二人だけの秘密があったわけでもない。ただ気が合った。それだけだ。

 

 「なあ、映画ってどうやって作るのかな」

ある日、僕が例の車の中でつぶやいた。田舎の子どもはそんなことを全然知らなかった。

「知らない」

あっという間に話は終わり、僕らは二人とも黙った。

「お前大人になったら何するの」

しばらくして僕は聞いた。

「さあ」

運転席の親友は、ハンドルの剥がれかけたビニールか何かををいじっていた。

 その後はいつものくだらない話に戻った。


 親友が死んだのは、秋と冬の境目のような季節だった。山も荒地も、春になるまで静かに眠りにつく、その準備をする季節。車の周りには枯れ草がまとわりついていた。田舎の寒い季節は夕暮れがやけに早くて、夕焼けは一瞬で夜に飲み込まれていく。

 僕らは相変わらず、枯れ草をかき分けて車にたどりつき、乗り込んでドアを閉めれば昼間の暖かさが少しは車内に残っていた。

 進路や成績、誰がかっこいいか、何の靴がダサいか、そういう煩わしい話題は、親友と車の中にいれば消えた。僕が将来何になろうが、彼が将来何になろうが、僕らは一生、同じ話をして笑っている自信があった。僕らはいつまでも、同じ音楽や映画の話をして、たまにほんの少し、女の子の話をした。

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