第2話~約束しよう~

 次の日になっても結局いじめは直らなかった。いじめは、強い者が弱い者を蔑むような行為だ。

「あんた、また来たの~?」

 今度は嘲笑気味。せっかく水野に会いに来たのに。

「う、うん……」

「もう一生来なくていいのに」

 そう言われた時は涙が出そうになった。

「……何で私ばっかり……」

「あんたが落ちぶれてるからよ」

 落ちぶれている? 私が? 何を根拠にしているのだろうか。

「どういうこと?」

 明らかに嫌悪感を示して言った。そして、できることなら一生関わりたくなかった。

「説明してあげる」

「うん」

「あんたはこの学校で一番最下層なの。劣ってるの。そんな劣等遺伝子、撲滅したくない?」

「劣等遺伝子?」

「うんそうよ! あんたがモテない理由自分で分かってる?」

「分かんないけど? 私そういうの興味ないから」

「逃げじゃん。ただの」

「逃げてない」

「じゃあ、戦ってみたら? 私と。私は群がってるけど、一人でも生きられる人間だから」

「戦わない」

「逃げじゃん」

「逃げてない」

 そんなことを言っていると、トイレに連れていかれた。

「ねえ、一時間目始まるんだけど」

「いいっていいって!」

「良くない。一時間目数学」

「数学だからサボって良くない?」

「数学だからダメ」

「あんたキモいよ? うんマジで」

 そうこうしているうちに、一時間目が始まるチャイムが鳴った。

「……終わった……」

「もう終わってんじゃん、お前」

「……お前って呼ばれるの嫌い。せめて、西成」

「ちょ、もっかい言えし」

 スマホをはるかに向けて笑った。

「スマホ向けないで、リナちゃん」

「名前で呼ぶな、西成」

 川上里菜。いじめっ子だ。髪型はロングで、身長は私より高め。スタイル抜群の美女。

「あんたさ、水野好きでしょ」

「へ?」

 核心を突かれた気がした。正解だからだ。

「……何で?」

「行動見てるとバレバレ。水野は誰にでもああだから騙されてるよ」

「あ、え、あ、」

「マジウケんだけど。本当じゃん」

「あ、え、いや、違いますので……」

 なぜか敬語になってしまった。

「私から言っといてあげよっか?」

「や、やめて!」

「ああ面白い」




 一時間目を終えるチャイムと同時にダッシュでトイレから出た。

「はぁ……はぁ……」

 心臓はドキドキしている。走って心拍数が上がったからではないかと思っている。

「はるか」

 ふいに名前が呼ばれた。アキだった。

「な、なに?」

「何で今日一時間目いなかったの? サボってたよね? カバンあったから」

「あ、いやぁ……」

「濁さないで答えてくれない? はるかがサボるとか珍しいから」

 アキは少し強めの口調だった。

「……ごめん、リナちゃんと一緒にトイレに行ってた」

「リナちゃんってはるかをいじめてた子でしょ?」

「うん」

「仲直りしたんだ」

 なぜだか分からないが今日のアキは機嫌が悪い。私がサボってしまったからだろうか。

「仲直り……したのかな」

「してないの?」

「いや、たぶんした……と思う」

「あっそ。なら良かったじゃん」

「う、うん」

 何をしてしまったのか私は分かっていない。アキはそのまま自分の机に帰っていった。

「ごめんね、水野さん……」

 淀んだ川は簡単には清流にできない。そんな関係なのかなと思ってしまった今日の私なのであった。

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春と秋と。 八雲真中 @Ryukyu_KohaKu

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