第33話 星焔と夕空の作戦会議


「……はぁ、何と言うか、すんごいですねぇ」


「感想、それだけなの?」


「だって、あまりにも絵空事なんですもん。ほむら先輩の話が」


 ゆあちゃんは何と言っていいのか分からないような顔をしていた。せっかく私と浅葱くんの馴れ初めを語ってあげたのに。


「それでほむら先輩はマジシャンを目指して、部長さんはヴァイオリニストを目指しているって事なんですよね」


「そうだね。後は浅葱くんが世界を獲るだけ」


「すんげー無茶ぶりしてるって自覚あります?」


 私達は部室を出て家路についていた。いろんなことを思い出しながら話していたら遅くなっちゃった。空は満点の星空で、冬の澄んだ空気がいつもより遠く広く感じさせる。


 ゆあちゃんはとっても聞き上手だった。うんうんとたまに打つ相づちが私の話を引き出した。もし時間が来なければ延々と話し続けたのではないかと思う。それくらい私は落ち着くことができたし、大切なことを思い出すことができた。


 私は浅葱くんが大好きなんだ。それだけは今も昔も変わらない。


「ゆあちゃん。話を聞いてくれてありがとう。おかげで決心がついたよ」


「決心?」と、ゆあちゃんは首をかしげた。


「うん。私、浅葱くんときちんと話す。あの日なにがあって、なんで浅葱くんが変わったのか。ぜんぶ、ちゃんと聞くよ」


「せんぱい……」


「逃げてばっかりじゃダメだよね。嘘を吐いてるとか騙してたなんて決めつけないで真正面からぶつからなきゃね。だって浅葱くんが理由もなく嘘を吐くはずがないもん。なら、それを知らなきゃ、私が浅葱くんを好きでいる資格なんてないよね」


 そうだ。浅葱くんは理由もなく人を騙すような男の子じゃない。だって私の知っている浅葱光陽は捻くれててキザですかしていて、世界一純粋な男の子なんだから。


 もし嘘を吐いていたのなら、それ相応の理由があるはずなんだ。それを知らなきゃ、幼馴染ですらない。


 ゆあちゃんはクスクスと笑って私をいさめるように言った。


「それは言い過ぎですよ。いつも極端なんですから」


「……ごめんなさい」


「私は楽しそうにしているお2人が大好きなんです。ほむら先輩だけで頑張る必要なんてないじゃないですか。私も力になります。ならせてください。2人で部長さんに話を聞きましょう」


「ゆあちゃん……うん、ありがとう!」


 もし浅葱くんがいなかったらゆあちゃんに惚れていたかもしれない。まっすぐ私を見つめる瞳はとても純粋で、子犬みたいな可愛さがあるのにとっても頼りがいがある。後輩なのに、いつもゆあちゃんに頼ってばかりだ、私。


「どうやったらいいかな。普通に行ってもはぐらかされてしまうかもしれないし、何かいい方法があれば……」


「あ、じゃあ、私に考えがあります。私が、話があるって言って部長さんを呼び出しますから、ほむら先輩はマジック用のロープでぐるぐる巻きにしちゃいましょう。身動きを取れなくしてしまえば部長さんだって口を割らざるをえません」


「拷問だよぅ……」


「じゃあ、記憶が無いフリを逆手にとって部長さんの黒歴史朗読会をしましょう。もし部長さんがなんらかの反応を見せれば記憶があるという事。やめろと言われたって記憶が無いならダメージが無いはずだからやめる必要がありません」


「恐ろしい……なんて恐ろしい後輩なの」


 前言撤回。ゆあちゃんに頼ったら浅葱くんが首をくくるかもしれない。


 天使みたいな笑顔を浮かべて次々に恐ろしい提案をする姿は、紛れもなく悪魔だ。


「創作ノートの読み聞かせ。小学生の時に授業で書いた将来の夢の作文なんかも良いですね。部長さんってほむら先輩にラブレターを書いたりしてないんです? それがあれば一番苦しんでいただけるかと思うんですが」


「……ゆあちゃんは、浅葱くんを苦しめたいの?」


「ええ。どんな理由があってもほむら先輩を弄んだ事実は変わりませんから」


「別に弄ばれたわけじゃないんだけどなあ……。それに浅葱くんはラブレターなんて書いた事ないよ」


「……とはいえ、何か意趣返しをしないと部長さんをやっつける事は出来ませんよ。何か良い黒歴史はありませんか?」


「そ、そんなこと言われても……何かあったかなぁ」


 すぐに思い出せる中で一番の黒歴史は浅葱くんが寝ぼけてキスしたことだろうか。小学生のとき浅葱くんの家に泊った事があるけど、そのとき、寝ぼけて寝返りをうった浅葱くんが私に抱き着いてきて、唇が触れてしまったのだ。(私と浅葱くんの名誉にかけて言うけれどこれはお互い下心無しの事故である)翌日そのことを話すと浅葱くんは顔を真っ赤にして謝り続けた。しかしこれは私にとっても恥ずかしい過去である。初めてをあげたことに後悔は無いけど、私にもダメージがある黒歴史を教えるわけにはいかない。


 私は苦肉の策で、こんな事を言った。


「だったら、こうしてみない?」


「………なるほど。妙案ですね。それでいきましょう。私が部長さんを呼び出しますから、星焔先輩が部長さんに…………」


 以上が2日間の彼女たちのやり取りである。2人して何を話していたのか。何をするつもりなのか。それはこの先を読み進めていただければ判然とするであろう。


 が、一つだけ、星焔の提案によって僕達の関係がさらにこじれる事になるということは言っておかなければならないだろう。


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