第17話 協力

 学校屋上


 屋上には香澄、美鈴、雨京の三人。


 透が姿を消してから五日。透の両親からは警察にも捜索願いが出ている。雨京は岬の話を二人にも伝え、屋代を確認した経緯を三人で共有している。


「お前たちも屋代を見ただろうけど、俺はあの屋代を見ていくつか思いついたことがある。これが透を見つける手掛かりになると思う」


 香澄は透がいなくなって以降、食が細くなり、見るからにやつれている。美鈴が寄り添い心身ともにフォローしているが香澄の表情は今日も優れることはない。


「大川採掘場跡にあれだけ人通りがあるにもかかわらず何故あの屋代がみつかっていないのか? 二人も分かっているだろうけど百々目鬼の力が働いているのは間違いない。でだ、あの後、透の父ちゃんの助言を元に屋代を調べなおした。その結果、新たな真実が一つ判明した。


 当時、櫻井が持っていた小刀は二振りあったんだよ。雷で消失した黒い短刀とそしてもう一本は白い短刀。しかし、白い短刀を見つけることができなかった。幸い短刀が入れられていると思われるそれぞれの入れ物は見つかったんだけどな」


「ちょっ! 持って来たの!?」


 口調に怒りが滲んでいるものの、美鈴から手が出ることはない。いまが非常事態であり、通常の倫理観で物事を解決するわけではないと理解していたからだ。何より先日バイト先に雨京が現れて以降、美鈴の雨京に対する扱いは露骨に変わっている。


「俺も非常識なのは分かっている。でも、透の命がかかっているんだ。白い短刀は透が持っていったと考えるのが自然だろう。もちろんこの入れ物は今回の一件が終わったら戻しに行くつもりだ」


「うん、そうしよう。今は少しでも透君と白百々目鬼につながる物が欲しい」


「あの短刀を使って透と白百々目鬼が何をしようとしているのか俺にも分からない。でも、俺たちと透をつなぐ手掛かりになるかもしれない」


「ちなみに二人は何か透のこと分かったのか?」


「警察にも捜索届けを出しているし、思い当たる場所を探しているけど何も見つからない。だけど、私たちも一つだけ透君を見つける可能性を見つけたの!」


 雨京は驚きの表情を浮かべる。正直メガフラッシュが起きる当日までこれ以上は何もできないと雨京は踏んでいたので驚きを隠せなかった。香澄の行動力は目を見張るものがある。いや、これが……恋の力なのかも知れない。


「で、何が分かったんだ?」


「分かったというか一つ作戦を立ててみたの。雨京君には断りをいれずに勝手に動いたのはごめんだけど、岬さん、八街さん、透君の両親を引き合わせたわ。岬さんと八街さんは科学的に。透君のご両親は惣左衛門新書と覚書を解読してアプローチしてもらっているの」


「なっ。マジか! 母さんも協力してるのか?」


 驚きの表情を見て、何故か美鈴が満足そうな表情を浮かべる。雨京の反応に驚きつつ美鈴が話を続ける。


「快諾してくれた。少し悲しそうな顔をしていたのは気になったけど。ちなみにこの案は美鈴が出してくれたんだよ!」


「えっ!」


 思わず美鈴を見つめる雨京。美鈴は口角をいやらしく上げると白い歯を見せ満足そうに微笑む。


「まだ何も分かってはないみたいだけど二日後の夜にはなんらかの結論が出そうって岬さんが言ってたよ」


 雨京と岬はあれ以降、ぎくしゃくしていた。岬は事件に関与しているわけではない。助けに入った時は八街直樹はすでにこと切れていた。実質何もできない状況であったのは間違いない。しかし自分の母親が真実を捻じ曲げた。雨京はそれを受け入れられなかったのだ。


「引き続き分かれて透を探そう。二日後のメガフラッシュで透を死なせないために!」


 二人が頷くと美鈴が雨京に手を差し出すように言ってくる。雨京が拍子抜けした面持ちで手を出すと美鈴の手より白い携帯電話を握らされる。


「紅来軒の店長から店の携帯借りて来た! 明後日の夜まで自由に使って良いって。私と香澄と透君の電話番号入ってるから使って」


「えっあっ。ありがとう」


 そんな二人を見て香澄は小さく微笑む。


「この事件が終わったら携帯買いなさいよ! さあ、行きましょう! 香澄の恋人を探さなくちゃ!」


 ※※※


 芳賀透宅


「さあ皆さん。食事にしましょう!」


「あ、奥さん。私も手伝います」


 男二人はそれぞれの書物や資料と睨めっこのようである。透の母と岬はそんな二人を見て生暖かい笑みを浮かべると食事を始める。


「あ、この煮付け美味しい」


「本当! 嬉しい! 透とお父さんは煮つけあまり好きじゃないのよね」


「ご飯に合わない味付けだからでしょうか? お酒と出したらお店が開けるくらいのクオリティの高さですよ!」


 透の母が満足そうにすると自分も箸を持ち食事を口に運ぶ。


 ――美鈴が四人の協力を提案した際、四人は困惑の表情を浮かべた。しかし、そんな四人の中で最初に首を縦に振ったのは岬であった。岬は十年前の豪雨の際に自分がしたことを話し、八街には膝をつき地面に頭をつけた。


 八街はその事実を目の当たりにし、岬を罵倒し怒鳴り散らした。信用を裏切り、自分の息子を見捨てた。親としては当然である。しかし、透の父と母の顔を見ると八街もそれ以上は何も言えなかった。


(この二人に俺と同じ思いをして欲しくない)


 八街はそのように思ったのだろう。透の両親に同情し、暫定ではあるが、協力する運びとなった。それ以降の行動は皆が迅速であり、集まった四人が優秀であるのを垣間見ることができた。四人は効率を重視するため芳賀家に泊まりがけで透の居場所と百々目鬼、メガフラッシュについて全力で調べていた。


「分かった!」


 透の父が惣座衛門覚書と地図を机に叩きつけると八街に顔を向ける。


「八街さん当時の宇都宮豪雨の被害が一番大きかったのは野蚤ヶ原だ。恐らく百々目鬼が出現したと考えられるのも野蚤ヶ原だと考えられる。これで明後日に透と百々目鬼がどこに現れるかヒントになりますか?」


「野蚤ヶ原ですか? なるほど。岬さんちょっと来てくれますか?」


 岬は透の母に断りを入れると八街がいるテーブルへと向かう。岬はコンパスと定規を使い図面上でなにやら計算をすると八街に確認を求める。


「――当時の百々目鬼の出現場所、――近日の百々目鬼達の出現場所がこちら。地図上で二つの行動範囲を照らし合わせるとこのようになります」


 照らし合わせた結果導かれるのは【雷光平原】ここから十キロほど離れた人気の少ない平原だ。


「やりましたね! …………しかし、このことを子供達に伝えるべきでしょうか?」


 通常であれば未成年の彼らを命の危機があるこのような事件に巻き込むべきではない。しかし、大人四人をここまで突き動かしたのは香澄達だ。


「通常であればこのような非常事態に外に出るのは正気ではありません。しかし、透君のことを思ってやっていることだ。私たちもあの子たちのおかげでここまでこられた。ここで彼らに言わなければ私たちはあの子達に一生恨まれる」


「そうね。行くか行かないかは雨京達に任せれば良い。行くなら私たちが全力であの子たちを全力でサポートしましょう!」


 四人で話あった結果。岬が雨京に、透の母が香澄と美鈴に伝えることとした。

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