第13話 美鈴の想い
餃子像の前には学校をさぼった香澄と雨京。そこに授業を終えた美鈴が合流すると露骨に不快な表情を浮かべる。
「香澄、本当にどうしちゃったの? それにどういうことなの? なんで、二人でいるの?」
質問攻めの美鈴を雨京は煩わしそうにする。このままではまずいと香澄が勢いよく間に入る。
「違うの。私が雨京君に無理言って着いて行ったの。聞いて! 私達の話を信じられないのは分かる。でも、できれば美鈴には協力して欲しいの!」
美鈴は必死に訴える香澄を見て渋々話しに応じる。八街との話を一通り聞くと、今度は香澄に対して怒りを露わにする。
「あり得ない! 香澄、馬鹿なんじゃないの? そんな得体の知れないおじさんの部屋に入って何かあったらどうするの? 雨京も香澄に何かあったらどうするの? 責任取れるの?」
美鈴は香澄を心配しての発言なのだろうが、先程から会話がまともに進まない。香澄としては美鈴になんとかして協力して欲しいのだが、美鈴は百々目鬼を見ていないし、メガフラッシュもただの嵐位にしか考えていない。雨京はそんな美鈴の様子を見て協力してもらうのは難しいと考えているようだ。
「香澄しょうがない。何か掴んだら透と香澄に連絡する。一人で突っ走るなよ。俺はお前に協力するからな」
雨京が美鈴を見る。その表情には困惑の表情が浮かんでいる。今はお互いに分かり合うことはできそうもない。
美鈴は香澄と出会って以降、ここまで心が通じ合わないことはなかった。今は雨京のほうが香澄を理解している。その事実にも苛立ちを憶えたいた。
「百々目鬼? メガフラッシュ? 香澄も雨京もおかしいよ!」
美鈴は肩を震わせて香澄に背を向けると、悔しい気持ちを爆発させ勢いよく走り始める。香澄は止めに入ろうかと手を伸ばすが、その手がそれ以上美鈴に伸びることはなかった。
「……美鈴」
香澄はただただ美鈴の背中を見守るしかなかった。
※※※
美鈴はバイトの紅来軒に向けて歩いていた。香澄の気持ちを汲んであげたいがこの令和の時代に妖怪などと真剣に話している香澄と雨京に嫌悪感を抱き始めていた。路地に入り数百メートル先に紅来軒が見えてきたところで美鈴はとあるものを目にする。
膝上ほどの大きさの黒い子供である。路地裏を子供が一人で歩くのはギリギリあり得るだろうがその子供はさらに前を歩くスーツ姿の男を追っている。
(何あれ。なんか気持ち悪い)
形容し難いムカつきを覚えながら、美鈴はその二人から目を離すことはできない。紅来軒を過ぎ、更に暗い路地に入った所で異変は起きる。前を歩く子供の影が十数倍に膨れあがると大きく口を開け、前を歩く男を飲み込む。男は飲み込まれる瞬間に抵抗を試みるが抵抗も虚しく、男の姿は一瞬で消化される。
「えっ……?」
美鈴はありえない状況に放心している。黒い子供がこちらに気付く。美鈴は咄嗟に逃げようと試みるがあまりの恐怖に足に力を入れることができず、その場から動くことができない。
武術の心得がある美鈴にすれば、自分の身体が思い通りに動かないこの状況は理解できない恐ろしさであった。黒い子供は一瞬こちらに向かうような仕草を見せるが、すぐに踵を返すとその場からいなくなってしまう。残されたのは地面に残されたわずかな放電。黒い子供がいた場所ではパチパチと音を立てている。
「黒い子供、雷……」
しばらくその場から動くことが出来なかった。美鈴の中で信じていた常識が崩れ、しばらく前にみた侍を思い出す。
「……香澄に謝らないと」
※※※
翌日
学校の屋上では香澄と雨京のほかに透もいる。お互いがお互いに掴んだ情報を交換し合っているようだ。香澄と透も心の底では不安を抱えているのだろうが、それでもだいぶ落ち着きを取り戻したようで、話し合いは順調に進んでいる。
「八街さんが言っていた【タクミ】って何かな? まさか名前では無いだろうし」
香澄も同じことを考えていた。普段生活していて【タクミ】と言う言葉を耳にすることはない。二人で顔を傾げていると雨京が口を開く。
「こういう時はガーガル先生だろう」
透の携帯を雨京が奪い取るとガーガルにて【タクミ】と検索する。
「タクミ、タクミ、会社に名前に芸能人。うーん見当たらないな」
雨京がぶつぶつと言う横で香澄と透が二人で香澄の携帯を覗き込む。
「ひょっとして【タクミ】って【託身】じゃない?」
「託身? タクシンみたいだぞ?」
「まあ聞いてよ。【託身】って【受肉】という意味でもあるらしいよ。一部では【タクミ】って呼び方があるのかもしれない。八街さんの息子さんは黒い稲妻に打たれ黒い百々鬼に殺され、この世からいなくなった。あるいは……受胎して黒い百々鬼になったというのはあり得ないかな?」
「と言うことは八街さんの息子さんをベースにして黒百々鬼が誕生した? あるいは八街さんの息子を取り込んだ? そして今度のメガフラッシュでは太郎の肉体を依代に新たな百々が受肉するって事か?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます