第5話 今日の晩御飯は?
店内を騒がせた四人は店中から痛い視線を受け、誰からというわけでもなく外へ出る。
「全く貴方のせいで酷い目にあったわ」
さらっと責任を押し付けられた雨京であったが、先程のやりとりでほとほと疲れ果てており、内心穏やかではなかったがスルーする。
「で、転校生。さっき言った話、詳しく俺にも聞かせろよ」
透は雨上がりの神社で百々目鬼を発見し、香澄に出会い百々目鬼が消えるまでの話を掻い摘んで雨京に聞かせた。
「ふーん」
「何よ、信じてないの!?」
鋭い質問が飛び、雨京が苦虫を嚙み潰したかのような表情を浮かべる。
「いや、そんな事はないんだけどよ」
(というかストーカーはそっちじゃねえか)
香澄の勢いに雨京が怯み、雨京のそっけない反応に三人は少し動揺する。
「確かにそういう現象があったかもしれないけどさ。それって雷と関係なくない?」
「ちょっと。透君の話聞いて無かったの? 雷の痕からその保育園児は出てきたのよ?」
「まあな。でもそれってあくまで雷が落ちた後の話で、そいつが見えた原因は神社かもしれないし、火事が起きたからかもしれない。今の状況を鑑みて、雷に話をつなげるのは無理があるかなぁ」
香澄と透が口をつぐみ、一瞬の間を置いて鋭い音が響く。
ドスッ!
「うぐっ」
「何、変な雰囲気作っているのよ。まあ、雷が関係しているか、してないかは貴方がこだわっているだけで私達はこのイベントを楽しんでいるの。聞きたい事が終わったならさっさと帰りなさい」
美鈴が冷たく言い放つ。雨京はまたか、という表情を一瞬浮かべたが、転校生と香澄の邪魔をしたのを思い出し理不尽な暴力を水に流す事にした。
「ああ、悪かったな。まあ、なんか分かったら教えてくれよ、転校生」
背中を向け、手をヒラヒラと振りながら雨京は駅へと戻っていく。
「もうなんなのよ、あいつ!?」
二人の邪魔をされた挙げ句、勝手に満足して帰って行った雨京。その後ろ姿をにらむ美鈴の怒りは収まらない。しかし、そんな美鈴を心配そうに見る香澄と透を目が合い美鈴が我に返る。
考えてみれば自分もここにいるのはおかしい。よく見れば香澄が何か言いたそうな顔をしている。
「あっ! バイト行かなくちゃ! 店長に怒られちゃう。香澄、透君。また学校で!」
何か言いたそうな香澄を尻目に美鈴は俊足で雨京を追いかけて駅に駆けてゆく。
「ちょ、美鈴!?」
美鈴の後ろ姿はもう小さくなっている。横を向けば太陽のように暖かい笑顔を向ける透。透は香澄のなんとも言えない表情を見ると優しく声をかける。
「じゃあ、いこうか!」
混乱が収まらない香澄を落ち着かせると、宇都宮の街に向けて二人は歩き出した。
※※※
雨京は電車を乗り継ぎ最寄り駅に降りる。
(あっ)
パリッと決めたスーツに似合っていない買い物袋を持つ後ろ姿を見つける。
「今日の晩飯何?」
雨京はさりげなく買い物袋を持つと母の岬に話しかける。
「雨京? 今日はナポリタンよ。好きでしょ?」
「いつの話をしてるんだよ? 俺がナポリタン好きだったのはガキの時の話だろ?」
「私にとってはいつまでも貴方はガキなのよ」
雨京は上手く言いくるめられたような気がして口を閉じる。
「そんな事より今日は何を調べてきたの? 気になった事があったって顔をしているわよ?」
親はこれだから嫌いだ。なんとも言えない気分ではあったが昼間に聞いた百々目鬼の話を掻い摘んで岬に聞かせる。
「ふーん」
(俺と同じ反応かよ)
「で、貴方はどう思ったの?」
「まあ複数人で見た現象ではあるから一考の価値はあると思うぜ。だけど、俺が求めている話ではない気がする」
雨京が数年前から嵐をずっと観測をしているのは岬も知っている。しかし、行き詰まっている現状も把握もしている。数秒の間の後に岬が口を開く。
「ねぇ。ホログラフィック宇宙論って知っている?」
「唐突だな……聞いた事はあるけど。でもその理論はとんでも理論でオカルト雑誌が喜ぶような話だろ?」
「うふふ。まあ、聞きなさいよ。雨京はこの世のあらゆる事象、物質は情報であると言ったら信じる?」
「情報といえば情報かもしれないけどそれは俺たちが自分の意思の元、行動しているのではなく、予め決められている情報に沿ってプログラムされたシステムのように動かされているという事?」
「まあそんな感じね。もちろん雨京が今言った事を私も信じている訳ではないわ。科学者が科学的根拠のない事を正しいように話を始めたらそれこそ終わりだもの」
雨京は母が言いたいことが分からず少しイライラしてくる。
「だから母さんは何が言いたいんだよ!」
岬は口角を少し上げると得意げに雨京に顔を向ける。
「結論を急ぐ男はモテないわよ」
「こ、このばばあ」
「ふふっ。科学者は根拠がない事は信じてはいけない。しかし、未知の事象については真摯に向き合わなくてはならない。行き詰まっているなら少し遠回りして、離れた所から探し物をしたら良いんじゃないの?」
煙に巻かれた雨京は肩を小刻みに揺らし、岬を睨みつける。
「いやぁー。息子が怒る―」
岬は買い物袋を雨京に託すと走り始める。
「お、おい、待てよ。一体何なんだよ、うちの親は……」
雨京は歳の割に素早い母親を荷物袋を片手に急いで追いかけた。
(百々目鬼ね……)
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