第5話 十三人目の呪い編 神の坐
神の坐
「ここなら教師に邪魔されん」
梵能司はそう言った。十三人目だから、ボクは殺される。見学者は三年の男子三人と、弋峰だ。
「君がくるなんて珍しいね」
四海にそう声をかけられ、弋峰は「素人を集団で甚振るつもりかと思ってね」
「そんなことはしない。決闘はみとめられるが、集団でボコるとイジメになる。その線引きは間違えない」
弋峰はそれを聞くと、ボクに近づいてきた。
「アドバイスはしてあげる。でも、生き残りたかったら、奉術を体得して神を自由に扱えるようになりなさい。いいわね?」
味方になってくれるのか? 弋峰の真意は測りかねるけれど、一対多でなくなった分、心強かった。
梵能司が「はッ!」と気合を入れ、力を篭めると、彼の身体が三倍ぐらいの大きさになった。といっても、実際に大きくなったわけではない。弋峰のときもそうだったように、神懸りは気のようなものをつかい、それが蜃気楼のように、そこに映る影として大きく見えるのだ。
しかも、その拳はただ大きくなったばかりでなく、威力も数倍増したらしく、空振りした拳が地面をえぐり、木の幹を削る。
凄まじい威力を示していた。
ボクは背中から伸びた黒い手がその攻撃を受けとめ、クッションとなるが、それでも大きく吹き飛ばされる。ボクはもう二本の足で立つのではなく、触手により宙に浮かぶ状態だ。
殺されかけているのに、自分ではどうすることもできない。とり憑く神にすべてを委ねるしかなくなっていた。
「梵能司……苦戦しているな」
堂園が太ったお腹を掻きつつ、そう言った。
「彼の奉術、〝磐骸〟は攻防一体。物理攻撃に関しては、ボクたちの中でも優秀だけれど、聖君のような変則的な神は昔から苦手とするね。でも、聖君の神は人のそれのように肘と手首をもち、指も五本……。わざわざ人の手を模すのは、何でなんだろうね……?」
四海は首を傾げるが、彼らにとっても意外な展開といえそうだ。
そのころ、ボクは完全に酔っていた。自分の意思とは関係なく右へ、左へとふり回されているのだ。
朦朧とする意識の中、ボクは梵能司が地面に開けた穴をみつめていた。
「あの穴に……落としたい」
すると、穴の中から黒い手が伸びてきて、梵能司の身体にまとわりついては、その穴に引きずりこもうとする。
「くそッ‼ 何だ、これは⁉」
パワーでふり払っても、次々と湧き、そこにいる梵能司を、穴の中に導き入れないと止まらないよう、執拗に追いかけ、彼にまとわりつく。粘り強く、梵能司を穴へと誘う……。
「限界だね」
四海はそう呟くと、扇子を開き、それで舞いながら戦いの中へと歩み寄ると、巧みに梵能司と黒い触手の間に割って入り、二つを引き剥がしていた。
「はい、終わり」
四海は扇子をパチンと閉じるのと同時に、打ち切りを示すようにそう言った。
しかしそれで収まらない梵能司は、ファイティングポーズをとり「どけ、四海!」と凄む。
そんな梵能司を冷たく見返し、四海は「言ったはずだよ。君に与える時間は十分、それでダメなら、彼の殺害は諦めろ……と」
口調は穏やかでも、有無を言わさぬ凄みがあり、梵能司も舌打ちし、磐骸を解いて歩き去っていく。
四海はまだ黒い触手を解いていないボクに近づく。
「悪かったね。十三人目の呪いを信じる者が多く、君を殺そうと考える連中がいる。だからガス抜きの意味もこめて、一先ず戦ってもらう……そう判断したんだよ」
「待って下さい。彼、意識を失っていますよ」
弋峰がそう気づくが、ボクはゲロまみれで、完全にのびていた。
「あれれ……。ま、神を御していないから仕方ないかな……。弋峰君は悪いけど、彼を保健室にはこんであげてくれ。堂園、手伝ってやれ」
「いいのか? 十三人目の呪いは解けていないが……」
鷺ノ宮からそう尋ねられ、四海も肩をすくめて「中等部の生徒だけに影響するわけじゃないのに、どうして高等部が沈黙するのか? まだまだ裏がありそうだよ、この動きは」
「四海は……高等部で調整がある、と言いたいのか?」
「言わないよ。でも、そうかもしれない……とは思っているよ」
四海はいたずらっ子のように、ニヤッと笑ってそう言った。
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