第4話 十三人目の呪い編  中等部

     中等部


「あったらしいお友達ぅをぉ、紹介しまぁ~す。聖 空夜君でぇ~す」

 上下ジャージで、長髪がすべて顔にかかる、背の高い教師が妙なテンションでそう紹介する。

 教室にはボク以外、九人。男五人、女四人――。でも、一般的な広さのそこは、不穏な空気に包まれていた。

「ぎょめんねぇ、殺気だっちゅわっていてぇ~」

 教師のテンションはずっとおかしいが、広い教室に九人だけで、どこに席を置いてもよさそうだけれど、わざわざ教卓の前に陣取った男子生徒が立ちあがった。

「ボクは四海 鴻貴――。三年で、このクラスのまとめ役を仰せつかっている。よろしくね」

 男がみても惚れ惚れするほどのイケメンだけれど、その笑顔はどこかよそよそしさを感じる。

「自己紹介しておくよ。あっちの太った彼が、堂園 蝉丸――。その隣の席にいるのが鷺ノ宮 煉――。二人は三年。あっちの窓際の後ろが、梵能司 伶大。反対の廊下側の後ろにいるのが、陰勢 括――。二人は二年だよ。廊下側でまとまっている女子は、赤髪が弋峰 緋広――。ひっつめが青綯 星雨――。二人が二年で、後ろの長い髪が汽上 澪――。小柄なのが縣 亜珠李――二人は一年。もう一人いるけど、今日は休みだ」


 弋峰には昨日殺されかけたが、今も教室内にただようのは紛れもなく殺気――。

「君を殺すぃたい! そう思う連中は山盛りぃ~。でも、気にしないどぇ~。だって君ぃ~、十三人目だしぃ~」

「どういうことですか?」

 ジャージ姿の教師に代わって、四海が応えた。

「男子寮の寮生が十三人になると、悪いこと……すなわち誰かが死ぬ。そんなジンクスもあってね。いっそ君を殺すことで、また以前の均衡にもどろう……と考える者もいる」

 四海がそういうのを待っていたように、梵能司が立ち上がった。

「もう……殺していいか?」

「彼にもう少し事情を知ってもらって、それから殺すっていうのがスジだと思うけれどね……」

 梵能司はガタイがよく、オールバックで、サングラスをかけており、中学生? と驚くレベルだ。

 そんな男……梵能司がボクに迫ってきた。

 ボクが男子寮で、十三人目になったから? ただそんな理由で、ボクはここで殺される……。


 そのときジャージ姿の教師がボクと、梵能司の間に割って入る。ひょろ長い身体をぬーっと差し入れてきた。

「おやおやぁ~? ダメですよぉ。転入生をそう簡単に殺しちゃあ」

「すっこんでろッ! 五鬼走‼」

 梵能司がそう凄むが、五鬼走はすーっと棒立ちになったかと思ったら、頭全体を大きくふると、長髪をバサッと顔からふり払う。

 すると骨ばった顔に目だけが大きく、ぎょろりと見開かれ、ガタイのよい梵能司を見下ろす目は冷たかった。

「すっこむのは、どっちですかぁ~。梵能司く~ん」

 口調は変わらないが、声のトーンは下がり、独特の凄みを感じさせる。

 梵能司も「ちッ!」と舌打ちすると、席へともどった。

 五鬼走と呼ばれたジャージ姿の教師は。ふたたび前髪で顔を隠すと

「私の知らないところでやってくれる分には、勝手にどうぞぉ~。でも、査定に響くので、私の知らないところでやってねぇ~。あ、そうそう。十三人目の呪い……ですか? 懐かしいですねぇ。私も信じていましたよぉ~。だってぇ~、愉しかったですからねぇ」

 五鬼走は引き嗤いをする。壊れている……そう思わせる笑い方だった。


「私、転入生を入れたら悶着あるって言いましたよね? 御代木先生」

 職員室で、窓の外を眺めていた御代木はふり返って「……そうでしたっけ? 世才先生」と惚ける。

 世才 柱――。スーツ、メガネ、髪もアップにした鬮学園では珍しく、教師らしい恰好をした女性だ。

「十三人目の呪い……ですか? 私は信じていませんから」

「御代木先生が信じるかどうかは関係ありません。生徒たちが信じ、十三人目を排除しようとするなら、問題だと言っているのです。殺されますよ、彼……」

「それは大変だ。また生徒が減ってしまう……」

「そこ……ですか? だとすれば、寮に入れるべきではなかった……」

「大丈夫ですよ。生徒は生徒同士で折り合いをつけるものです。だって、彼らはまだ若いですから」

 御代木は至極先生らしいことを言った。


 嘘くさい……。顔は見えないけれど、きっと御代木の顔は嘘つきのそれだ……と、世才は思っている。

「聖君をどうするつもりですか? 奉術も知らない彼は、殺されますよ」

「そうなったらそれまでのことです。どうせここで殺されずとも、奉術を覚えなければ、彼は死ぬ……。でも彼に憑く神は、異常なほどに強く、彼を守ろうとするんですよね……」

 御代木はポケットからだした手を、銃の形にして、世才の胸を撃つ真似をする。悪い冗談だ……。しかし、御代木はすぐにポケットに手をしまい、つづけた。

「神といったって、所詮は意思をもつ別人に過ぎない。むしろとり憑くと縛られるから、神にとっても神懸りは厄介。だからこそナゼ守る? 不思議なんですよね、あの神は……」

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