第3話 十三人目の呪い編  男子寮

     男子寮


 弋峰が「ここよ」と指し示すのは、古ぼけた、それでいて一部が真新しく改修された木造の二階建てだ。

「古いけど、運がよければ……。あぁ、運が悪ければ、新しくなった部屋が割り当てられるわ」

 何で言い換えた? そう思ったけれど、役目が終わったと思ったのか、弋峰はボクの質問を待たずに、さっさと歩き去ってしまった。

 扉の上、そこにガーゴイルのような不気味な木像がとりつけられ、洋館として造られたようだ。それにしても趣味が悪い……。子供たちを怯えさせたいのか? 番犬のように、入る者を脅すには十分だけれど……。

「いらっしゃい。話は聞いているわ。聖 空夜君だね」

 出迎えてくれたのは、短髪でつなぎの作業着に、上ははだけて、ぴちっとした黒のタンクトップを着る女性だった。

「私は寮長の、室伏 累――。性別は女性だけれど、心は男性で、でも男性が好きなホモセクシュアルよ」

 分かりにくいが、一周まわって恋愛に関してはノーマルだ。

 ただ胸のふくらみ、そのトップで存在を示すように、下着をつけていなさそうな点など、心が男という部分も垣間見えていた。


「木造だと、壊れてもそこだけ改修できる点がありがたくてね。ここは乱暴者も多いから……」

 室伏はDIY中だったようだ。手には金づち、よく見ると、腰袋もつけて完全に作業モードである。

「風呂、トイレは共用。部屋は一人、備えつけの家具もあるから、すぐに生活できるわよ」

 部屋は一階で、窓辺の壁はDIY中なのか、無垢の木材がそのまま打ちつけられる状態で、真新しいベッドと学習机、それに備えつけのクローゼットと、極めて簡素なものだった。

「今、修復中でね。前の住人が大暴れして、しばらく放置されていたけど、ベッドや机は新しいから……」

 大暴れ? 神懸りとなった生徒のそれは、桁違いの大きさのようだ。


「今、この寮には十二人いる。君と同じ中等部は君をのぞいて五人。仲良くしろ……とは言わないわ。でも、ケンカをする前、一人で暴れたくなったら、私に相談して欲しい。

 寮が壊れると、後が色々と大変だからね」

 室伏はニヤッと笑う。

 先ほど弋峰に襲われても、教師の御代木は止めようとせず、学校公認……? 戦うこと自体、禁止されないなら、この程度の大暴れは日常茶飯事なのかもしれない。

「前の住人は、どうしたんです?」

「死んだわ」

 あっさりと、隠すこともなく室伏はそう言った。

「神懸りとなった子供には義務が課される。他の神懸りとなった生徒を保護、この施設へ連れてくるっていうね。でも、神懸りなんて千差万別、ヤバイ相手もいる。だから死ぬのよ、結構な確率で……」


 ボクが驚いて、言葉もだせずにいると、室伏はつづけた。

「例えば、あなたは大人しく警察に捕まり、陸坐とされたから、御代木が一人で迎えに行った。でも本来、数名で向かう。抵抗される場合や、本人が意図せず神が暴れることもあるからね」

「陸坐?」

「神には層級があるのよ。壱坐から捌坐まで。八段階に区分され、神の権能によって格付けされる。肆坐から陸坐は、まぁ一般的な神よ」

「ボクのそれは、六番目?」

「気にすることないわ。神という存在は厄介極まりない。万能でもなければ、優しくもない。特異で、特殊な力をもつ。だから人はそこに順位をつけた。分かり易くなるからね。

 自分の立場、神の位置づけなんて、後でどうとでもなる。だって、そういうものでしょう?」


 どういうもの?

 祈りの対象でも、奉る対象でもなく、ボクにとって有益なら神――。他人に害を為そうと、暴れようと、ボクにとって都合よければそれでいい、という極めて利己的な存在――。

 そんなボクの懐疑が伝わったのか、室伏はボクの肩を叩く。

「堅苦しく考えないで。神の位置づけなんて、それこそ自分次第よ。自分にとって都合よい相手なら、その特性を知り、協力もでき、無限の力を発揮することだって可能となる。

 その力をつかって生き残りなさい。誰もキミのことを望んでいない……そう感じたとしても、生きるかどうか、それを決められることが、キミが生まれて得た、唯一の特権なのだから……」

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