第35話 対決! ハヌマン対新ヒヨコ丸!
2輌の巨大な戦車が平原で向かい合っていた。より大きい方の戦車から低い声が発せられた。
『よわむしが良い度胸だな。こなごなにしてやるからかかってきやがれ!』
すこし小さい方の戦車も負けずに声を発した。
『よわむしじゃないよ! ハヌマン先輩こそよわむしだよ!』
『なんだと。』
『ナナさんがいなくなるのがこわいんだろ! ひとりじゃ戦うこともできないのか!』
『てめえ、ゆるさねえぞ。』
大きい方の戦車のキャタピラがうなりをあげ、急発進して全速力で動き出した。小さい方も同じくエンジン音をあげながら動き出し、双方はお互いに真っ正面からつっこんでいった。
「たのむ、ナナの最期の頼みなんだ。」
『知らないよ、そんなの。』
俺は新ヒヨコ丸に何度も頭を下げたが、全く聞き入れてもらえそうになかった。
「ヒヨコ丸、聞いてくれ。プラム王女と俺と旅をして、おまえはいろいろと経験しただろう。」
『まあね。』
「おまえは確かに最初はたよりなかった。でも、段々となくてはならない存在になっていったんだ。お前は強くなったんだよ。変わったんだ。」
『そうかなあ。』
俺の横にいつのまにかひよりさんが立っていた。
「ヒヨコ丸、あんたはあたしが設計したんだぜ。負けるはずがないさ。」
『最初にボロ負けしたけどね。』
「だから、それはあんたのせいじゃなくて乗員がヘボかったからさ。」
俺は抗議しようとしたが、ひよりさんは俺に黙ってろという仕草をした。
「だから、あたしがあんただけで勝てる策を授けてやる。ハヌマンも乗員なしだ。互角だろ。」
『なんか、騙されているような気がする。』
「あんたがハヌマンをとめないと、人間の国は火の海になるんだぜ。」
『そう言われてもなあ。』
「我からもお願いする。」
俺の背後にはプラム王女が立っていた。王女はヒヨコ丸に近づき、キャタピラに手をかけた。
「タニマチナナは確かに気に食わない奴だが、わるい奴ではなさそうだ。ヒヨコ丸殿、どうか奴の頼みを聞いてはくれぬか。」
『プラムちゃんの頼みなら聞こうかなあ。』
新ヒヨコ丸は急にデレデレし始めたみたいだった。
(もうひと押しお願いします。)
(わかっておる。)
プラム王女は俺たち以上にヒヨコ丸の扱いを心得ているようだった。
「ヒヨコ丸殿。もしもハヌマンをとめてくれたら、我がどんな願いでも聞いてやろう。」
『ホントに!? じゃ、僕、戦うよ!』
「おまえ、あたしが言っても聞かなかったクセにさ。」
ひよりさんは呆れはてた様子だっが、ヒヨコ丸は急に前のめりになっていた。
『ひよりさん! 早く僕に、ハヌマン先輩に勝つ方法を教えてよ!』
俺たちは円陣を組み、ひよりさんが作戦を説明し始めた。
俺たちはナナにハヌマンの居場所を教えてもらい、国境の平原での対決を申し入れた。そして、俺、王女、ひよりさんでヒヨコ丸を懸命に応援していたのだった。
「いけーっ! ヒヨコ丸!」
「恐れるな! お主なら勝てる!」
「教えた通りにやるんだぞ!」
俺たちは遠巻きにして両戦車の戦いを見守った。ハヌマンと新ヒヨコ丸はお互いに真正面から猛スピードで接近していった。
プラム王女は不安げだった。
「このままだとお互いに正面からぶつかるのではないか?」
「信じましょう、ヒヨコ丸を。」
「タイミングがすべてだ。」
ひよりさんはいつになく真剣な表情で、祈るように手を合わせて戦いの行く末を見つめていた。俺たちが固唾を飲んで見守っている前で、2輌の戦車は距離をどんどん詰めていった。
『こわがって逃げた方が負けだからな!』
『言われなくてもわかってるよ!』
ハヌマンが叫び、ヒヨコ丸が応じ、みるみる2輌の戦車の間は縮まっていき、今まさに正面衝突すると見えたとき、お互いが半身をかわし、フルスピードですれ違っていった。
(ガリガリガリガリ!)
すれ違いざま、側面装甲がこすれて激しい音がして火花が飛び散った。そのままヒヨコ丸とハヌマンは離れていき、急ターンしてまた向き合った。
『よけやがったな、チビスケ!』
『よけたのはそっちだよ、先輩!』
王女が目を両手で塞いでしまった。
「ああ、もう見ていられぬ。」
2輌の戦車は再び最大速度で接近しあった。
『次でぶっつぶしてやるぜ!』
『こっちのセリフだよ!』
ハヌマンが主砲を発射した。砲弾は真っ直ぐヒヨコ丸を目指して飛んでいった。
「あぶない!」
俺が叫ぶと同時に、ひよりさんも叫んだ。
「いまだ!」
ヒヨコ丸は急ブレーキをかけてその場で急転回し、ハヌマンに背中を向けた。ハヌマンが放った砲弾はヒヨコ丸の背面の装甲に当たり、弾かれて空中へ飛んでいった。
『なにっ!?』
ハヌマンが驚くと同時にヒヨコ丸背面のハッチが開き、小さいヒヨコ丸改が中から勢いよく飛び出した。
「ヒヨコ丸! 防御シールドを前方に集中させるんだ!」
『わかってるよ!』
大声で叫んだひよりさんにヒヨコ丸は答え、前面を輝かせながらハヌマンに向かって飛び込んでいった。
両戦車が激突した瞬間、激しい閃光で俺たちは目がくらんだ。
光が消えた気配がして、俺はゆっくりと目をあけて決着がついたことを確認した。
大平原には、静かに戦車たちがたたずんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます