第29話 迫る公開処刑

 牢屋のまた別の壁面が派手に吹き飛んだ。


『タケちゃん、お待たせ~。』


 壁の破片と共に、ヒヨコ丸改が牢屋の中に飛び込んできた。


(ダダダダダダダ!!)


 戦車デリバリーサービスの戦車の重機関銃が火を噴いたが、俺はヒヨコ丸改に飛びついた。ヒヨコ丸改は俺を載せたまま鉄格子をぶち破り、通路に飛び出した。

 たった今まで俺がいたところは弾痕で穴ぼこだらけになった。


 俺たちはそのまま監獄の通路を全速力で突き進んだ。

 背後を振り返ると、鉄格子がついていた壁ごと破壊して、通路に鷹の目のついた戦車が躍り出てきた。


(ダダダダダダダ…!!)


 そのまま両側の鉄格子を壁もろとも破壊しながら鷹の目戦車が通路を激走して俺たちを追いかけてきた。機銃掃射のおまけつきだった。


 ヒヨコ丸改も全速力で通路を爆走した。俺はヒヨコ丸改に必死でしがみついていたが、弾が何発も身をかすめた。

 突き当たりの大きな扉をぶち破ると、丸い部屋の中には看守たちがいて目を丸くしていた。


「こ、こら! お前、檻に戻れ!」


『あれを見て言ってよ。』


 ヒヨコ丸改が砲塔で差した通路の先から迫ってくる戦車の巨体を見て、看守たちはあっという間に別の扉から散り散りに逃げていった。

 俺は机の上にあった王女のカバンと短剣をひっつかんだ。


「ヒヨコ丸改、他に脱出経路はないか?」


『ちょっと待って。』


 ヒヨコ丸改はランチャーから爆弾を射出した。俺が伏せると爆発音がして、顔をあげたら壁が崩れ去っていた。

 そこに現れた大穴の先に俺たちは飛び込んだ。

 同時に看守室に鷹の目戦車が乱入してきたが、あの巨体では狭くて身動きがとれないようだった。


 再びヒヨコ丸改が看守室に向けて爆弾を射出し、室内から爆発音が聞こえてきた。


「あんな爆弾じゃ効果ないぞ。」


『戦車本体にはね。』


 背後から轟音が聞こえてきて、俺は激しい振動を感じた。恐る恐るのぞきこむと床に大きな穴があき、鷹の目戦車がはるか下に落下していくところだった。

 


(ズズン!!)



 地下から轟音がして、俺はヒヨコ丸改の方へ駆け戻った。


「やっつけたかな?」


『この程度じゃ時間稼ぎにしかならないよ。はやく行こう。』


 


(パインは王女のなんなのだろう…?)


 まさかパインが他の戦車派遣会社を雇っているなんて、まったく予想外だった。


『このお城、木の成長にあわせて増改築しまくっているから構造がめちゃくちゃだよ。』


 ヒヨコ丸改はブツブツ文句をいいながらも複雑な通路をガンガン進んでいった。

 登ったり降りたりを繰り返し、巡回する衛兵をやりすごし、ついに俺たちはばかでかい扉の前に着いた。


 途中でつかまえた給仕みたいな服を着たエルフに俺は聞いた。


「この部屋だな?」


「は、はい。最近捕まったというお方はこの部屋に監禁されています。」


 俺は給仕エルフを逃がすと、扉をヒヨコ丸改革に壊してもらった。


「プラムさん! 助けにきましたよ!」


 俺とヒヨコ丸改は室内に乱入したが、場違いなのんびりした声に出迎えられた。



「よう。来てくれたのか、タケオにヒヨコ丸。」


 そこには腕まくりして作業着を着た桃寺ひよりがいて、手には工具を持っていた。顔は油で黒く汚れていて、手も真っ黒だった。

 ひよりが俺たちに近づいてきた。


「命がけでここまで来てくれれなんてな。さてはタケオ、あたしのことが好きなんだ?」


「悪質な冗談はやめてください。」


 俺は抱きついてこようとしたひよりと距離をとり警戒した。


「助けには来ましたが、ここで何をしているのですか?」


「見りゃわかるだろう。」


 ひよりは急に不機嫌になって室内をあごで差した。そこにはヒヨコ丸の本体の巨体が置かれていて、久々に見たそれは新品みたいにピカピカ光っていた。


『うわあ、感動。僕の本体だ!』


「すごい! 修理が完了したのか!?」


 ひよりは腕組みしてふんぞり返った。


「あたりまえだろーが。あたしは天才なんだからな。ところで、酒を持ってないか?」


「ないです! それよりも、プラム王女はどこですか?」


 ひよりは表情をくもらせて、そばの椅子に座った。


「それがな、タケオ。王女のことはあきらめな。」


「なぜですか! ヒヨコ丸本体があれば楽勝でしょう。」


「そのことなんだけどな。」


 ひよりは工具を置くと脚を組み、深刻な表情になった。


「あと一時間後くらいに、大木広場でプラム王女の公開処刑が始まるらしいぜ。」


「なら、なおさら急がないと!!」


「いや。悪いな、タケオ。俺はあっちにつくことにしたんだ。」


「え? あっちって?」



 ヒヨコ丸改がくるくると砲塔を回しはじめた。



『タケちゃん、大変だよ! このあたり一帯に通信が飛びかってるよ。傍受して暗号解読を開始。』


 俺はイヤな予感がしてひよりに詰めよった。


「桃寺さん! まさか、裏切ったのですか!? 王女の命がかかってるのに!」


「仕方ないじゃん。自分の命のほうが惜しいしさ。」


「何があったんですか?」


 ひよりは本当に申し訳なさそうに頭をかいた。


「ダークエルフ側についたら、家とお金と酒を好きなだけくれるって言われたんだ。聞かないならすぐに処刑するとも言われたな。」


「それだけですか?」


「いや、教えちまったんだ。」


「何を?」


 ヒヨコ丸改がまた砲塔をクルクルとまわして俺の注意をひいた。


『要警戒! 高出力の物体が多数、ここ森林城に接近中!』



 俺はひょっとしてと思い、ひよりの腕をとり詰問した。



「桃寺さん、あなたはまさか!?」


「痛いなあ、離せよ。そうだよ、戦車派遣会社の連絡先をダークエルフ族に教えてやったんだよ。戦車屋の商売敵たちの連絡先をな。」

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