第28話 森林城へのデモ行進

 ヒヨコ丸改は無数の大木のひとつにあるデッキに着地した。下を覗いても地上がわからないくらいの高さで俺は身震いがした。

 すぐにエルフ族と思われる職員がやってきたので俺は書類を見せた。



 あっさりと俺とヒヨコ丸改はエルフの王国に入国できた。魔王が作ってくれた偽の入国書類のおかげだった。

 俺は交易商人という事になっていた。



 森の街に出ると、途方もなく太い木の枝の上に道があり建物が並んでいた。


 まずはプラム王女が囚われているという森林城を探そうと、俺はヒヨコ丸改を連れて進んだ。

 翼を外したヒヨコ丸改はもの珍しげに砲塔をキョロキョロ転回させた。


『すごいねえ。建造物は自然木でできてるね。』


「何もかも木でできてるんだな。」


 周りを歩いていたり、空中を飛んでいるのは殆どが王女と同じエルフ族のようだった。


『あれ、なんだろ。』


「あ、待てってば。」



 ヒヨコ丸改が速度をあげて近づいていったのは、道端のエルフ族の集まりだった。皆、手には何か文字を書いた木の札を持ち、台の上に乗った長身長髪の妖精が何かをしきりに叫んでいた。


「…なので、プラム王女の処刑には断固反対!」


『はんたーい!!』


 エルフたちは手に持った札を掲げて声をあわせて叫んでいた。

 台の上のエルフがさらに叫んだ。


「これから、森林城までデモ行進をするぞ!」


『おーっ!!』



 俺はしめたと思い、マネをして声をあわせて拳を突き出した。リーダーらしい台上のエルフが不思議そうに俺を見た。


「おや? あなたは人間のかたですか? なぜこの抗議集会に参加を?」


 俺は一斉にエルフたちの注目を浴びてしまい、ひるんでしまった。代わりにヒヨコ丸改が淀みなくしゃべりだした。


『第1に、今後の国際関係を鑑みた場合、年少の王族を処刑するような国との国交を躊躇する可能性が…第2に、国際条約においては未成年者の生命や人権は保護されており…第3に、正当な王の系統が仮に途絶えた場合…』


「わかった、わかった! 君は賢い生き物を連れているね。」


 長髪のエルフは台からおりてきて俺に握手を求めてきた。


「私はパイン申します。デモ隊のリーダーをしております。」


「私はタケオです。こっちはヒヨコ丸改です。」


 俺は自己紹介してパインに同行を申し出た。パインは喜んでくれたが、俺を少し怪しんでいる感じでもあった。

 デモ隊はパインを先頭に歩きだした。

 


「デモ隊、少ないでしょう?」


「いえ…。」


 俺は肯定したほうがいいのか迷ったが、パインは悲しげに微笑んだ。


「いいのです、私もそう思いますから。実際の所、王族がいなくなってまず税金が大幅に下がりましたし、言論規制や思想弾圧も、ひどい刑罰もなくなりましたしねえ。」


「かえって国民は喜んでいるのですか? プラムさんの親はそんなにひどい王様だったのですね。」


 パインはこくびをかしげた。


「タケオさんはプラム王女とお知り合いなのですか?」


「い、いえ。べつに。」


 俺はヒヨコ丸改がよけいな事を言わないかヒヤヒヤしたが、ミニミニ戦車は無言でついてきていた。パインは話を再開した。


「とにかく、王と王妃は自業自得ですが、王女まで処刑とはあんまりです。まだ子どもですし、あれは本当は優しいコで…。」


「パインさんも王女と知り合いなのですか?」


 俺のツッコミに今度はパインが焦った様子を見せた。


「あ、いや。何回か王室パレードで見ましたから。ははは。それよりもタケオさん、来ましたよ。」


「え?」



 俺が視線を遠くに移すと、黒い鎧兜に弓矢を持った一団が行進してくるのが見えた。


「あれは?」


「我々デモ隊を捕まえに来たのですよ。」


「逃げないのですか?」


「逃げても弓矢で射られてムダなので。」


 デモ隊は無抵抗で、俺も含めて全員あっさりと捕まってしまった。パインと俺は手を縛られて連行された。


『いきなり捕まるなんてね~。タケちゃんは本当に無計画だなあ。』


 ヒヨコ丸改の指摘に俺はうつむいたが、パインは薄笑いをするばかりで平然としていた。結局、俺たちは森林城の地下牢獄に放り込まれてしまった。



 ろうそく明かりの薄暗い檻の中、藁の上でゴロゴロしているパインに俺は隠していた携帯食の栄養バーを差し出した。


「おお、不思議な味ですね。悪くない。」


「パインさんもずいぶんと無計画ですね。」



 俺は一見有能そうなパインの雰囲気に騙された思いだった。ヒヨコ丸改は別の動物用の檻に入れられたようだった。



「いやあ、あはは。面目ない。」


 パインはえらくのんきに頭をかき、俺はますます後悔しはじめた。俺は隠し持っている腕時計でヒヨコ丸に連絡しようとして自分の目を疑った。


 よく見ると、パインの腕にもよく似た腕時計があったからだった。しかも俺のよりも高級そうな時計だった。


「パインさん、それ、手首の時計は?」


「ああ、これね。いいでしょう。そろそろ始めるか。」


 パインは腕時計で誰かと連絡をとり始めた。俺はいやな予感がして、ヒヨコ丸改に急いで連絡をした。


『メェ~。グワッグワッ。ヒヒ~ン! アジャパー!』


「ん? どうしたんだ!?」


『あっはっはっ! くすぐったい! うわっ、つっつかないで!』


 俺が再度交信を試みていると、牢獄の壁にヒビが入り、派手に大穴が開いた。


(ドッガーン!!)


 俺とパインはホコリで真っ白になり、激しく咳き込んだ。


「ゲホゲホ。」


「大丈夫ですかあ?」


 目の前に戦車のキャタピラが見えた。ヒヨコ丸ともハヌマンとも異なる型で、砲塔には派手な鋭い鷹の目のイラストが描かれていた。


 森林迷彩の戦闘服にサングラス、ゴーグル付の黒いキャップの小柄な人物が短機関銃を持って近づいてきた。


「まいどでーす。戦車デリバリーサービス株式会社でーす! どっちがパインさんですかあ?」


 パインがはーい、と手を挙げて戦車に近づいた。キャップの人物はパインと握手して、いっしょに戦車に乗りこんでしまった。



 俺は呆気にとられて、完全に無視された格好だった。戦車からやけに軽いノリの声が聞こえてきた。


『はじめまして! あなたは株式会社戦車屋やさんですよね?』


「は、はあ。」


『商売敵ですねー。ここで始末しまーす!』


『わるいね、君にプラムを渡すわけにはいかないのでね。』


 パインの声がした後に、俺に向けてゆっくりと戦車の砲塔が向けられ、副砲の重機関銃が俺をピッタリと狙っていた。

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