第15話 タニマチナナって誰?
『あわわわわ…ハヌマン先輩…。来てたんだ。』
ヒヨコ丸改はおびえた声を出して移動し、大木の後ろに隠れてしまった。
ナナはハヌマンの砲塔の上に平然と腰かけていた。
「あたしひとりで来るはずないじゃない。」
『ナナ、大丈夫か? どうするこいつら。ここでやっちまうか?』
ハヌマンの問いにナナは首を振った。
「ダメ。あくまで今日は話し合いだから。それに、王女は生け捕りにしろって言われてるしね。」
俺は王女の手をとり、立たせるとナナを見上げた。顔を赤くしている王女を見てか、ナナは薄く笑った。
「やっぱり子どもね、勘違いしないで。タケオがあなたを大事にするのは客だからよ。お金のためなんだから。」
俺の手を離し、王女は不安そうに俺を見た。
「ナナ、今日はハヌマンを連れて帰ってくれ。」
「いいわ。こっちもちょっと用事ができたし。」
『ああ、あのヘタレ魔王から帰還命令だ。どうせダークエルフどもと揉めてるんだろうぜ。』
ナナはハヌマンのハッチを開けて中に入り、一旦首だけを出して止まった。
「タケオ、よく考えて。元の世界であたしたちがどんな目に遭ったかを。」
「ナナ…。」
「次に会うときは、王女とヒヨコ丸を引き渡してもらうから。で、タケオはあたしと組むの。じゃあね。」
ナナは俺にウインクするとハヌマンの中に消えた。ハヌマンも光学迷彩で消え、生い茂った木々を派手に倒しながら森の闇に消えていった。
翌朝。
「おはよう、プラムさん。」
「ふん。」
テントから眠たそうな目をして出てきた王女は、俺を見るなり頬をふくらませてプイと顔をそらした。明らかに不機嫌だった。
王女はバケツの水でバシャバシャと顔を洗い、タオルで拭いてから丸太に腰かけた。
こういう時はそっとしておこう、と俺は誓ったが王女の方から絡んできた。
「おなかが減った。朝食をよこせ。」
「は、はい。ただいま。」
俺がレトルトシチューを紙皿に盛り、缶パンを出すと王女は黙々と食べはじめた。なんだか気まずい空気だった。
「プラムさん、熱いから気をつけて。」
「お気遣いは無用だ。我はお主の客のひとりにすぎないらしいからな。」
王女は俺に嫌味を言うと、朝食を平らげた。よく見ると、王女の目は真っ赤でクマができていた。
「プラムさん、眠れなかったのですか?」
「ああ、隠し事ばかりする誰かさんのおかげでな。」
王女はまた嫌味を言うとキッと俺をにらんできた。俺は降参した。
「わかりました。話します。話しますから機嫌を直して下さい。」
「聞いてやろう。」
「何から聞きたいですか?」
「あいつだ! あの無礼でガサツではらわたが煮えくりかえるくらい嫌な奴、タニマチナナとかいうのは何者だ? ふん、見た目だって! …いや、見た目は…人間にしては綺麗でかわいくて…スタイルもよかった…。」
王女は急にシュンとしょげてしまったが、急に顔をあげて紙皿を俺に突きだした。
「おかわり!」
「ま、まだ食べるんですか?」
「たくさん食べて、我も早くオトナになる!」
俺は紙皿に残りのシチューをよそった。
「彼女は俺の戦友なんです。」
「センユウ?」
俺が高校生の頃。
俺の国の国土防衛隊の入隊年齢が大幅に引き下げられ、性別制限が廃止された。周辺諸国との国際関係が年々悪化する中、人口減で国防まで人手不足になり、その解消の為だとニュースでは言っていた。
俺は全く興味がなかったが、入隊したという言葉が教室での雑談で聞こえてきた。
「っても予備隊だけどねー。」
前からその女子学生が気になっていた俺は、会話のきっかけになればという不純な動機で入隊申込をした。結局、そのコとは何もなかったのだが…。
予備隊は普段は普通の生活を送り、海外からの攻撃や災害などの有事の時だけ招集される要員だった。年に数回、訓練や講義を受けるだけで日当がもらえた。まさか外国が攻めてくることなんてないだろう、と俺はたかをくくっていたのだ。
ところが…
「もういい! 話が長い。要するに、タケオとタニマチナナとは戦場で出会ったのだな。」
「は、はい…。」
「いちばん重要なことを聞く。正直に答えよ。タニマチナナとタケオは…その…友人以上の関係なのか?」
「いいえ、ちがいます。」
「そうか。」
思わずきっぱりと言った俺に、王女は安堵したかのように微笑んだ。
そしてしばらく目を閉じて腕組みをして考えていたが、決心したかのように立ち上がった。
「ヨシ! いくぞ、タケオ!」
「行くって、どこへ?」
王女はじれったそうにその場で足踏みをした。
「決まっておる! 人間たちの国の、ぴっくあっぷぽいんととか申すハバナボンベイ大聖堂だ!」
「え? あんなに嫌がっていたのに?」
「話は変わったのだ。あやつめ、タニマチナナだけは絶対に許せん。ギジュツシャとやらにヒヨコ丸殿を直してもらい、再戦だ! 次は必ずあやつを叩きのめしてやる!」
俺にはなんだか戦う理由が王女の個人的な恨みに変わっているような気がしたが、彼女は鼻息荒く、荷物をテキパキと片付けはじめた。
俺は慌てて朝メシをかきこみ、隅に駐車しているヒヨコ丸改に声をかけた。
「起きろ! 行くぞ、発進だ。」
「…やだ。」
「へ?」
ヒヨコ丸改の砲塔がそっぽを向いた。
「やだ。僕、もう戦いたくない。」
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