第33話 知ってた? 世界って滅びかけてるんよ

「こんな感じで乙女の成長記録をノーカット(あまりに過激なショゴスタイムを除く)でお届けしてたわけだが、どうだみんな。参考になったか?」


 喜ぶ二人の顔を追っていた配信ドローンがこちらを向く。この訓練も例にもれず配信が入っていた。


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 -いや、エグすぎっしょ

 -どんだけ追い詰めるん。鬼だ悪魔だ

 -シノンちゃんが泣くこと15回、マツリカちゃんが現実逃避8回、二人とも失神9回。まぁ見ごたえはあったよね(微笑)

 -数えられててワロ

 -それ今週だけでだろ

 -ブートキャンプ期間全部入れたら数え切らんって

 -こんな苦行よーやったわ

 -二人ともえらいねwww

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「何かバカにしてますわね……? 皆さんもこれをやってみたらいいですわ。本当に死ぬかと何度も思いましたわ」

「見てるだけだなら気楽でいいと思うけど、実際つらいです」


 ―――――――――――――――――――

 -遠慮します

 -遠慮します

 -NO Thank you

 -ベテランの探索者でも逃げ出すわ(^ω^)

 -ニキたちの弟子になった自分を恨むんだな

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 ブートキャンプは、休憩をまじえて長時間の枠を取った。ちゃんねるはいつものDDDMの公式チャンネルだ。長時間つけっぱなしの、ライブカメラじみた企画。彼女らの様子を赤裸々にお届けだ。


 二人がリスナーとやいのやいのと言い合う。


 約2週間にわたる長い期間だったが、かなりの人数が見てくれていた。これは、今後現れるであろう、深淵行きを希望する探索者のための制度作りの一環でもある。


視聴者リスナーの中には現役も多いと思うから、覚えておいてくれ。深淵に行きたかったらこれくらいできるようになってもらう。じゃないとマジで死ぬよ。これはDDDMの公式方針にする予定だ」


 ―――――――――――――――――――――

 -えー……、これが基本になるん? 無理やん

 -深淵行オワタ

 -アサヒニキは俺達に氏ねとおっしゃる

 -深淵行ってみたいけど、心折れたわ

 -わい、一般人。高見の見物

 -普通の迷宮宝具じゃ無理くね

 -まず革命器買わないと

 -ドクター発売いつなんよ?

 ―――――――――――――――――――――


「はぁい! 革命器シリーズは、来期から徐々に発売でぇすね。ぜひとも購入していってほしいでぇすよ! 今なら曽我咲の学生ローンもありますねぇ!」


 この動画は、シノンちゃんのレベルアップと同時に新製品の販促にもなっているらしい。このドクター、倫理観が死んでるところ以外はほんと抜け目ないな。


「じゃあ、長かったブートキャンプ動画もここでおしまいだ。、ありがとうな。てけり・り!」


 ―――――――――――――――――――――

 -ええんやで

 -二人の怯え顔や泣き顔見れて大満足マン

 -アサヒニキなんなんその挨拶(笑)

 -ワロタ。最近たまに言うけど、

 -お疲れ様~

 -楽しかったヽ(^o^)丿

 -俺もてけり・り!

 -二人とも強くなれてよかったですね!

 -乙

 -乙

 -アサヒニキも乙!

 -てけり・り!

 -りりり・てけり・り!

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 以下おつかれコメントが続く。長い長い企画だった。

 最期までずっと付き合ってくれた視聴者には感謝が絶えないぜ。


 ◆◆◆


 ―――――――――――――――――

 ――――――――――――――

 ――――――――――



「――で、どうでしたシィさん。この2週間、24時間アクセスしっぱ無しの奴、何人いました?」


 薄暗いオフィスの中だ。


 俺とDDDMのお姉さんこと三間坂シィさんは、今回のブートキャンプ動画の公式側の解析情報に目を通していた。同接人数と継続時間。それにどのタイミングで誰がコメントを書いているか。


「お、驚きましたー、アサヒさんの言う通りでしたー……。視聴者の70%超がずっと見てますね……、あと、コメントをし続けてる方も、同程度。みなさん、そんなにお暇、なんですかねぇー……?」


「はは、そうだといいんですけどね」


 予想通りの結果に渇いた笑いが出る。

 本当にそうだといいんですけどね、だ。


 思えば、違和感は初配信の時からあった。


 どこの誰とも知れない新人男の穴掘り動画。

 今の探索者事情を知った今となっては、俺が規格外というのは分かる。だが、あの配信に最初からあれだけの人が居たのがおかしかった。いくら俺が変わったことしたからといって最終的に同接100万人だ。


 シィさんに聞いたところ、新人の初配信なんてせいぜい毎回5.6人、それも新人愛好者フリークと言われるモノ好きだけだ。メンバーはだいたい固定してて、特定も容易だという。


 また黄衣を倒して動画がバズって、再生数がすごいことになったわけだけど、そのあと、俺の生活はそれほど変わらなかった。


 仕事でなかなか行けなかったから、妹のサクラの見舞いに毎日外出していたけれど、道で特に声をかけられたこともない。さすがにDDDMの事務所や、代々木ポータルでは声をかけられることはあったが、基本的に俺の生活はいたって平常運転だ。


視聴者リスナーって、具体的にどういうヤツらなんでしょうね?」

「ど、どうって……日本以外にもたくさんいます、よー……?」

「俺たちの動画だけ、やたらと多くないですか?」

「はいー、確かに……」


 最近はDDDMの公式チャンネルと使わせてもらっているが、それでも毎回500万人を超える勢いだ。普通ならちょっとした社会現象になっていてもおかしくないと思う。だが少なくともリアルの俺はその辺にいる普通の兄ちゃんのままだ。


 DDDMが集めている解析情報アナリティクスはある真実を告げる。

 

「やっぱり、人間以外の奴らがかなり紛れ込んでる。日本だけじゃないかもしれない。世界中から、監視されてる」


 俺の言葉に、シィさんが目を丸くする。

 配信には相変わらず人がたくさん来てくれる。それが全部俺たちのファンだとは思えない。


 おそらく派閥がある。そのうちの一派はおそらくショゴス。それも人間に擬態が可能なロードショゴス種だ。


「ロードショゴスは擬態が得意なんですよ」


 ヤツラの使う古代言語で話しかけたら返事したしな。反射的に返事をしてしまうとは可愛い奴らだが。ショゴスタイムには再生数が跳ねあがってるし。二人の触手プレイに人気があるだけかもしれないが。


「それよりも問題なのが、この一群です」

「これはー、ずっと見てるけど何もコメントしない人たちですねぇー」

「相当のボリュームゾーンがある。これがすべて人外だとしたら?」


「へ」


「地球のかなりの人間がかもしれない」


「え、えええ……」


 シィさんは信じられないって顔をする。

 けれど、たぶん正解なんだ。俺はそれができる【虚神】ラヴクラフトを知っている。


「場合によっては、世界、滅びかけてるかもしれないですよ」

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