第16話 深淵層爆発しろ

 ショゴスを見送ったあと、俺たちは迷宮核が存在する区画までやってきた。


 岩しかないだだっ広いだけの空間だったそこは、作業機械が搬入されて中間基地ベースの機能を持たせるための改造がされている最中だ。


 将来的にここが深淵アビス攻略の前線基地になるらしい。簡易のカプセルホテルや、食堂なんかも作られると聞いた。


 だが、俺たちが到着したときは、作業も止まり、皆が慌てていた。深淵アビス層に事前調査に出向いていたチームが消息不明になったらしい。

 

「調査隊と連絡が取れないって本当ですか?」


「はいー、昨日新たに発見された、未踏破区域に入った途端音信普通になってしまいましてー」


「連絡が取れなくなってどれくらい経つんですか?」


「約15時間くらいですねー、ドローンも沈黙してしまい……。気になるのが、音信不通になる前に、調査員がうわごとを繰り返し始めていたんですよねぇー」

「それはまずいですね」


「はいー……、精神に変調をきたしたのかもしれませんー。探索者経験4年以上のベテランチームだったのですが……」



 ちょうど出向してきていた受付のお姉さんこと三間坂シィさんを捕まえて事情を聴いた。シィさんも動揺しているのか顔色が悪い。15時間……、状況はあまりよくないといえる。


「お師匠さん、お師匠さん、これってまずいんですか?」


 マツリカちゃんも事態の深刻さを察してか表情が曇っている。肌つやだけやたらいいのは、ショゴスケアの効果だろう。


「何かヤバい存在モノに出会った可能性がある」

「ヤバい存在モノ

「岩戸開けで出てきた、アイツみたいな存在のことだ」

「ひえ……」


 まぁ、黄衣きごろもくらいならかわいい存在ではあるけど。それ以上だと危険度が跳ねあがる。調査団が複数人で出向いたのも気になる。精神をやられて同士討ちを狙われた可能性も捨てきれない。


「さっき、シィさんから正式に依頼を受けたよ。今から深淵アビスに潜る」


深淵アビスアタックですか!」


 マツリカちゃんが途端に目を輝かせる。


 どどど、どうしよう。新装備でいけるかな? 美容院、行っておけばよかったな。配信も入りますもんね? こんなに早く深淵デビューなんて、ハルちゃんにうらやましがられちゃうなー。


 なんて喜んでいるが。


「マツリカちゃんはお留守番」

「何でですかぁ!!??」


 当たり前だろ。ケルベロスに苦戦する君にはまだ早い。



 ◆◆◆



「えー、ただいまより、深淵調査隊の救助活動に向かいます。メンバーは深淵アビス探索者シーカー、斎藤アサヒと、迷宮宝具【土塊かえしアーススター】です」


『うわきっつボイスのアースです。今日もアサヒをよろしくお願いします』


 ―――――――――――――――――――――

 -アサヒニキの深淵アビス配信キタ――(*‘∀‘)―――!!!

 -深淵wktk!

 -DDDMの緊急放送とかアツい

 -大丈夫アースちゃんきつくないよ

 -調査隊ロストしたんだろ? 大丈夫かよ

 -身内の後始末でも、容赦なく配信ぶっこむDDDM鬼畜すぎワロタwwww

 -公平性担保がDDDMの理念だからな

 -死体とか映るかな

 -迷宮配信だけ日本の放送コードガン無視だからなぁ

 -隠し立てしないそこがしびれるあこがれるぅ!!

 -うー--、私も深淵行きたかった……(クレチャ10,000円)

 -即クレチャ飛ぶのさすがアサヒニキ配信

 -いや多分そいつ、マツリカtyうわなにする

 -アサヒニキだと安心して見てられるな

 ――――――――――――――――――――


 迷宮核のある玄室はまだ岩石質の洞窟然とした場所だった。

 その奥にあった長い長い階段を下りる。ドローンが照らす照明だけが頼りだ。


 地の底まで続くようなひたすらに長い、無機質な階段だ。


 ――――――――――――――――――――

 -めっちゃ雰囲気あるな……

 -この階段どこまで続くん

 -ライト照らしても先が見えないじゃん

 -深淵ってどうなってるのか、マジで想像つかん

 ―――――――――――――――――――――


「この先が見えない階段は、見た目だけだよ」


 そうなん? 経験者助かる。アサヒニキについていくわ。とコメントが流れる。


 視聴者のコメントがあると、孤独なはずの深淵探索も心強い。


「もうすぐ抜ける」


 予兆を感じて、ぎゅっとアースを握りしめた。

 視界が広がる。暗闇から一転、光が満ちる――


 ギャアギャアと声が聞こえた。


 爬虫類はちゅうるいじみた生き物の声だ。むあっとした湿気をはらんだ熱気が頬を打つ。


 空はクリーム色の薄もやに包まれている。太陽はない。ここは地底だから。


 だが、あるはずのない光景が広がる。生い茂るシダ植物。見たこともない昆虫じみた生き物が飛ぶ。空遠くに見えるのは大型の飛行生物か。


 一歩踏み出すと、苔むした土に靴底が沈みこんだ。

 ここは、見渡す限りの原生大森林だ。


 ―――――――――――――――――――――

 -ファ!?

 -え、なに? 白亜紀? タイムスリップ??

 -地底なんだろ?? なんで明るい??? なんで外???

 -地底空洞説か……

 -何それ

 -昔のSFで提唱されたやつ。地球の底には空洞があって恐竜とかが生きてるって

 -オカルトだろそれ

 -ダンジョンだってオカルトみたいなもんだろ。科学で解明できなかったんだから

 -え、え、え……ナニコレ、世紀の発見じゃねーの?

 -通説ひっくり返るわ……

 -すごい……、深淵ってこんなのなの? (クレチャ10,000円)

 ―――――――――――――――――――――


 東京大洞穴の深淵は、中京断崖の深淵とはまた違う世界みたいだ。


 だが、この浮ついた地に足がつかない摩訶不思議な感覚は変わらないな。


 眩暈が断続的に襲ってくる。気を抜けば、意識を持っていかれそうだ。


 だが、奥歯をかみしめる。気をしっかりと持てば、平気である。


『――この空気、久々ですねアサヒ』

「ああ、アース。俺たちは帰ってきたな」


 ただいま深淵アビス。ただいまクソッタレな人外魔境。俺は、ざくりと歩みを進める――。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


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