第11話 VS黄衣の王

 戦闘は骸亡者スケルトンどもの先制からはじまった。

 ガシャガシャとけたたましく骨音を響かせ殺到する骸たち。周囲を囲み一斉に飛びかかろうとする。これぞ多勢に無勢というやつだ。


 本当に、そうか?


 いや、こんなもの、問題にすらならない。

「カラカラカラカラいつも楽しそうだな、お前らは」


 俺はすいすいと、奴らの攻撃を身一つでかわす。

 骸亡者は骨格を粉砕しなければいつまでも襲ってくるめんどくさい敵ではあるが、大した力を持たない雑魚だ。単純な物理攻撃しかしてこないしな。どんどんと包囲を狭めつつある奴らを睨み、俺は不敵に笑った。


「アース、フィールド操作の準備だ」

『すでに』

「さすがだよ。相棒」


 俺はその場に仁王立ちし、ガンッと土塊返しアースを大地に突き立てた。


 地に、翠光走る。


「やれ、アース!」

『了解。――該当地形:掌握。硬岩盤→自在土塊に変更。任意コントロール開始』

「暴れろ爆ぜよ――、【月震げっしん】ッ!」


 瞬間、周囲の大地が


 骸亡者スケルトンたちが跳ね上げられ、もろとも宙に舞って、放物線を描く。


「わははは! たーまやー!」


【月震】――大地をコントロール下において敵の足元から崩す技だ。

 いかに多勢であろうと、足場を崩されれば無防備だ。


「そこでぇ――アサヒ流スコップ術【殴打一閃おうだいっせん】!」


 宙に投げ出された敵に、合わせて振り抜く。

 骸骨の頭が見事に粉砕されぶっ飛んでいった。


 骸亡者スケルトンはいい。頭を殴ればパッカーンと良い音で割れるから。正直、。久しぶりのスコップで殴りつける感覚。背筋にゾクゾクとした快感が走った。


 これだよこれ! やっぱり俺の天職は探索者だ! 


 スコップってやつは、実は大層な凶器である。

 大地に差し込む刃は硬質で鋭いし、トップヘビーな重量バランスは振り回せばしっかりと遠心力が乗る。平面を使えば、広範囲に殴打できるし、刃を立てて振ればちょっとした生き物の首ぐらいならねられる。


「まだまだぁ!!」


 身体を捻り、大地を蹴り、縦横無尽じゅうおうむじん骸亡者スケルトンどもの骨を割る、削る、粉砕する。敵は数にものを言わせるつもりだったようだが、波打つ大地に翻弄されて、奴らは立つことすらおぼつかない。


【土塊返し】の名の通りのアースの能力が、地形で生きる。周囲をダンジョンの土壁に囲まれていれば、アースはこれを利用することができた。地形を味方につけた俺とアースに敵うはずもないのだ。


『アサヒ、このまま黄衣きごろものところまで行きますか?』

「おう、頼む」


 土塊の波に乗り、幾多の骸亡者を巻き込み蹴散らし、突き進んだ。

 先には、身の丈10mもある骸。黄衣の王がたたずんでいる。


 さぁ、迎え撃つ奴の攻撃は? 今か? 来るか? 何をする??

 早くしろよ、到着しちまうぞ!

 そして奴が、すい――と手を上げれば。


 ガインッ!


 掌から放たれた黄の光線は、人の動体視力では反応できるものじゃなかった。

 だが俺は、すんでのところで受け流していた。

 

 攻撃はまだ続く。

 同じものがもう一、二、三、四、五、六、七、八、九――


「ぬるい!」


 すべてはじいた。

 放たれる光線の全てをアースで叩き落としたのだ。


『はぁ~、相変わらずの超反射ですね。一体どうやってるんですかそれ』

「んなもん、勘だよ勘」


 撃ち出されてるのは光だぞ? 目で見てからで間に合うわけがないだろが。

 ここだと信じて最小のモーションでアースを振るうにきまってる。

 

「なんか来るっ! って思ったところで弾くんだよ。ぴく、バーン! みたいな感じだ」


『その説明で何人の探索者がわかるのでしょうね?』

「えー、わかるだろー、ばーんとしてかーん! だよ」

『そもそも、あれ、光なんですよね?』

「光だろあれは。最速の物質だ」

『それに対して?』

「ぴくっ、バーンだよ」

『アサヒは優秀な探索者にはなれますが、育成者は無理そうですね』

「ええ……、探索者に戻ったからには、将来弟子を取って悠々自適に隠居するプランもあるんだけど」

『自分にできたからって、他人もできるとか思わないでくださいね。うっかりアサヒにあこがれた人達がまねして大怪我したらかわいそうなので』

「なんだよそれ、俺がまるで変な奴みたいな言い方だな」

『……どう考えても人間離れしているのに、アサヒはいつでも無自覚なのです……』

「んあ? なんか言ったか?」

『いえ、何も。さぁ敵はすぐそこです。行きますよっ!』


 足元が大きく盛り上がる。

 土塊がうねり、集合して高く高く伸びあがる。


 強烈な縦Gに耐えながら、黄衣の位置を確認した。

 やつは何をするでもなくじっとそこにいる。

 おーけい、いい子だ。そこで待ってろよぉ。


『まもなく直上です』


 アースのアナウンス通り、空中に押し上げられた俺は、黄衣の頭上に位置どった。

 上空から、下に向けて刃先を固定する。奴の直上からの強襲体制。

 狙うは、無貌の仮面だ。


 一撃で決める。

 さっさと迷宮核を解放して帰りたいからな。

 仕事辞めたテンションで忘れてたが、俺は昨日まで18連勤をしてるんだ。そろそろ休みたい。


 黄衣も動く。

 打ち合わせられた両手の間に黄の印イエローサインが浮かぶ。

 続いてこちらに向けられた掌に力が生まれた。たぶん、さっきの光線のデカいヤツ。強く、破滅的な光だ。


 恐らくこれは逸らせないだろうという直感があった。仮に運よく逸らせたところで俺の速度も死ぬだろう。相殺されて宙に投げ出されれば、追撃を喰らう。そうすれば、さっきの骸亡者スケルトンどもと同じ末路をたどるだろう。俺はもう強襲体制を取っているのだから、変更はきかない。


 だが――


「悪いな黄衣の。まじで今日はそろそろ帰りたいんだ。アース! 精神同調!」

『すでに』


 防御も回避も迎撃も許さない。ここで決める。

 俺の【掘りぬける】という意思を、アースを構成するジオード結晶体が増幅する。

 結果、刃先には【掘り抜ける】という概念が宿る。

 刃先が、翠光に光る。秒間何千何万という速度で振動を開始。ジオード結晶の特徴は優秀な精神同調性だ。


 イメージが、幻想をへて、現実になる。


 あらゆるものを貫き、

 あらゆるものを裂く。


 突き立てた刃がその空間を削る。

 穿ち。消し飛ばす。そんなような技を顕現させる。


「おぉぉぉおおおおおお!! 斎藤、流、スコップ奥義ぃぃぃぃいいい!!!」


 俺が構え、垂直に下る土塊返しアーススターの刃先が敵の光線と接触した。

 黄光と翠光が交差し、拮抗。

 押せ押せ押せ押せぇ!! こっちには位置エネルギーもたっぷり乗ってるんだ、負けるはずがない!

 

 はじける光と光。目もくらむ光芒。

 やつらと戦うときは心で負けちゃいけない。気合で負ければ気が触れる。必ず勝つ。そういう思い込みが大切だ。一心、岩をも穿つの精神。初歩にして深奥。この気概を乗せた一撃。これすなわち――


「――突貫! 天槌てんつい落とし!!」


 爆発とともに満ちた光が消える。俺の構えたスコップは、大地まで達し、巨大なクレーターを作っていた。そこには奴はいない。光とともに、掘りぬけた。

 かすかに残った黄色の端切が、風に舞う。しまったな、かけらでも残すとは。3年のブランクは侮れないってことだろう。



 ◆◆◆


 開ききった扉の奥に鎮座するのは、東京大洞穴の迷宮核ダンジョンコア。解析し現在は、このダンジョンによる幻想ファンタズマ浸食エブが起こっていない事を確認した。


 とりあえず今日はこれでいいだろう。

 迷宮核のさらに奥、深淵層に入るための階段も発見したしな。


「久々のボスアタック楽しかった……」

『ですね。ただ、アサヒ。途中から配信のことなど忘れていましたよね」

「配信……、ああそういえば」


 戦闘の余韻に浸って恍惚としている俺はそんなのもあったなぁ……なんて思っていた。


『コメント欄見てください、面白いことになってますよ』


 アースに促されて確認する。

 案の定コメント欄は無事爆発。

 さらには視聴者が100万人を超えていたのだった。



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