第9話 やったね、た〇ちゃん視聴者が増えるよ!

 ――――――――――――――――

 -こんにちは

 -こんちわー!

 -配信おつ

 -我ハルリカちゃんねるからきますた

 -DDDM公式の方角から来ました。あなたを逮捕します!

 -↑詐欺の定番じゃん。お前が逮捕されろ

 -増えろ増えろ~、アサヒニキが全国区になっていくんじゃ~~

 -あなたが、彼女たちを助けたの? 

 -ケルベロス一撃まじやば

 -あの動画はフェイク

 -加工だろさすがに

 -お、ニキを疑うとはふてェ野郎どもだな 

 -なんか冴えなさそうな男

 -脳筋っぽい

 -いや、あの動画もういっぺん見ろって。本当だとしたらめちゃヤバ!

 -いやー、彼絶対強いわ~、俺ぐらいになると分かっちゃうんだよねぇ……

 -穴掘るのマジ? 俺にも教えてよ穴掘り技

 -アサヒニキ~ アサヒニキ~

 ―――――――――――――――――


 新規が一気に増えたことで、コメント欄はさらに混沌カオスを極めていた。流れも速すぎてもはやわからん! 最初からいた視聴者たちもちらほら見えるが、彼らはこの状況を楽しんでいるみたいだった。


 ――――――――――――――――――

 -アサニキ~、見てる~バズだお!

 -めっちゃ困惑してんぞ。ワロスwww

 -あー、助けてほしそうな目してるなぁ……

 ――――――――――――――――――  

 

「ど、どうするんだよこれ。収集つかなくないか!?」


 異常事態にひたすら焦っていた。

 ピコンピコンと通知が鳴り止まないし、コメントは暴走を続けている。

 視聴者の増加は一万人を超えてもまだ勢いがある。このままどこまで増える気なんだ。


 ――――――――――――――――

 -ニキ心配しすぎ

 -少し待てばいいよ

 -減速って言ってみ。聞いてくれるかもしれんよ?

 -かっそく! かっそく!

 -加速おk

 -もっと流そう

 -かっそく! げっきりゅう! おしながせ~!

 -クソワロwwww

 ―――――――――――――――――

 

 クソったれ、遊んでやがる! 

 一部の視聴者に煽られ、コメント欄はさらに加速していく。


 それに――


 ピコン。

「あっ」

 ピコン、ピコン。

「ああ、また!?」

 ピコンピコンピコン!

「ま、待ってくれ! 操作方法が分からないんだよっ!」


 さっきからピコピコなってるのは投げ銭機能クレジットチャットからの通知だ。

 これが俺を悩ませている。

 金額が記入されたアイコンが現在進行形で積まれていっているのだ。

 1,000円から始まり、5,000円、10,000円、25,000円、30,000円、50,000円――


 どんどん増える。どんどん投げられる。

 おい、おいおいおい。これ、いったい誰が投げてるんだ――って、


「――――じゅ、15万!?!!!???」


 俺の目に飛び込んで来たのは、ひと際高額な投げ銭クレチャだった。



『おおーー、アサヒ。私が寝ている間、日々いくらで生活していましたか? ブラックな会社時代の収入はいかほど?』


「て、手取りで16万だった」

『ふむふむ。――喜んでくださいアサヒ。あなたはこの十数分で半年分の収入を得ました。やりましたね。これで貧乏生活からもおさらばですよ』


「まじかやったぜ! ――っていや、怖えよ!? 普通に怖えよ。なんでお金投げるの? なんで金額上がってくるの? お金って大事なんだよ??? 君らお金使うことに慎重になろ――」


 ぴこん 【50万円】


 キャ―――――――――――




 怖い、やめて、お願い。




 ―――――――――――――――――

 -アサヒニキー、コメント読んであげて

 -クレチャの欄をクリックー

 -お金もらって無視はあかんよー

 ―――――――――――――――――


 そこで俺は気が付いた。

 あいつらがコメントしてくれている。クレチャに添付されたコメントを読め? その読み方がわからないんだが!?


『アサヒ。ここでクレチャをピックアップすることができそうですよ』


 アースが見つけてくれた機能を使うと、コメントがすっきりした。

 そして、クレチャ付きのコメント欄はというと――


 ―――――――――――――――――――

 -斎藤アサヒさん。私です

 -斎藤さん、気づいてください。庭です。庭マツリカです

 -私一言、お礼を言いたくて

 -お願い気づいて…………っ!

 -くっ……、まだ足りないというの?

 -かくなるうえは、今月の配当金を……

 -ううう、まだまだぁ!

 -貯金全部崩します! アサヒさん私を認知して!!

 ―――――――――――――――――――


「う、うおおぉぉぉおおおお! わかったわかった! 認知した、認知したから!!」


 驚くべきことに、クレジットチャットを乱投しているのは、例のあの子。ケルベロスに襲われれてた探索者、庭マツリカだった。


 ―――――――――――――――――――――

 -ほんとですか!? うれしいです!

【クレジットチャット+¥10,000】ちゃりん


 -私、どうしても、感謝をじかに伝えたっくて

【クレジットチャット+¥10,000】ちゃりん


 -アサヒさんは、命の恩人なんです! 私の親友の命も救ってくれて!

【クレジットチャット+¥10,000】ちゃりん

 ―――――――――――――――――――――


「まてっ、なんで投げるんだ! クレチャはもういいよ!!」


 ――――――――――――――――――――――

 -え、だって、感謝を伝えないと

【クレジットチャット+¥10,000】ちゃりん


 -お金なんて、死んじゃったらいくら持ってても意味ないし

【クレジットチャット+¥10,000】ちゃりん


 -それなら、助けてくれた人に貢ぐのが筋かなって

【クレジットチャット+¥10,000】ちゃりん

 ――――――――――――――――――――――


「もういいって言ってるだろ!」


 俺は恐怖した。彼女の行動、その執念に。

 いくら、俺がすぐに反応しなかったからって、大金ぶん投げるか??? イカレテやがる。


 そんなやり取りをしている間にも、チャリンチャリンとクレチャが増えていく。


「アースッ、どうしたらいい!? どうしたらこの子を止められるッ!?」


『回答します。彼女はずいぶんと思い切った思考をされているようですね。これはもう直接回線をつなぐしかないと思われます。運営ドローンを解析しましたが、通話機能も付いているようです。これで連絡を取ってみるのはどうでしょう』


「オーケイ、アース! 庭さん、通話送るけどいい!?」


 ―――――――――――――――――――――――――

 -そ、そんな……、アサヒさんに直接声かけてもらえるなんて……

【クレジットチャット+¥50,000】ちゃりん


 -うれしいです。お待ちしております! つアドレス

【クレジットチャット+¥100,000】ちゃりん

 ――――――――――――――――――――――――――



「今すぐ、そのクレチャをやめろぉぉおぉおおお――!!!」



 ◆◆◆


『ほんとに、ほんとーにありがとうございました!!』

「いや、うん。そうだね」

『あ、何かご気分を害されましたか?』

「いや、うん……なんか、疲れて?」

『それはいけません。今すぐクレチャ50万円MAX行きますから、それでどうですか!? 元気でますか!?』

「やめろぉぉおおっ!!!」


 動画通話で話す庭さんは、結構エキセントリックな子に思えた。

 画面には満面の笑みで、喋りまくりな庭さん。


 コメント欄には、彼女の視聴者も相当数流れていて、俺のチャンネルは即席のコラボ企画となったようだ。


『アサヒさんのダイジェスト動画も見ました! すごいです! ダンジョンを掘っちゃうなんて! それに鬼軍曹オーガ・サージも一撃で!』

「いや、うん。大した事ないんだよほんとに、ははは」


 俺は叫び疲れて、庭さんを映すのモニタも見ずに床を掘っている。

 俺のファンになったのだという庭さんは、うれしくてうれしくて仕方ない感じ。もう感謝も聞いただろ? もう良いんじゃないかい? と思うのだが……


『アサヒさんアサヒさん! 今日の配信、ここで見ていていいですかッ!』

 

 なんて満面の笑みでいうものだから困った。見られてると、本当にやりずらい もうすぐ深層最下層まで行けるけど、この状態なのか?


『アサヒさんは、今どこに向かっているんですか?』

「ああ……【岩戸】だよ。深淵アビス層に入りたいからね。まずは入り口を開けるんだよ」

『あびすそう? それなんですか? 初耳です……』


 ――――――――――――――――――――――――

 -それな。アサヒニキずっとそれいうのよ

 -『深淵層はある』まぁ、噂に過ぎないんだけど

 -岩戸は開けられないよ。ダンジョンができてから世界中の科学者や探索者が開けようとして、全部失敗してる

 -斎藤アサヒ許さん。マツリカちゃんとイチャイチャしやがって

 -マツリカちゃーん! なんでそんな奴におめめ、♡なんだよぉぉおおお!

 -でも開けれたら、快挙じゃね

 -奥に迷宮核ダンジョン・コアがあるんだろ? ダンジョンボスもいるんじゃね?

 -誰も開けたことないのに、なんでそんな噂があるんだろうな

 -斎藤アサヒ、タヒね、タヒね、タヒね――

 ――――――――――――――――――――――――


 コメント欄は、ようやく落ち着きを取り戻してきたようだ。

 庭さんとのコラボで、現在、俺の配信は20万人以上に見られているらしい。


 リアルタイムで拡散し続けているらしく、まだ増えていく。配信者デビューとしては上々だといえる。一部で強烈なアンチも出来上がったようだがな。


『アサヒ。そろそろ【前室】および【玄室】です』

「お、了解。いよいよだな」


 一階層分を掘りぬけると、そこは巨大なホールだった。高さもかなりある。


「庭さん、今からちょっと大事なところだからちょっと静かにしててね。視聴者さんと一緒に見ててくれればいい。頼むよ」

『え、あ、そ、そうなんですか……』


 しゅんとしてしまう彼女。

 悪いとは思うが、ここから先は集中する必要があるからな。


 そろそろ遊びの時間は終わりだ。

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