第4話 直下掘りのアサヒ

「そいそいそいそいそい!! 久々だけど調子いいぞ。どんどん行こう」


 俺は【土塊返し】アーススターを振り上げる。


 地面に突き立てる。

 さくっと刃が通る。

 そしてそれを投げすてる。

 投げ捨てられた土は光の粒子に分解されていった。


 東京大洞穴の内壁は土ベースでいかにも柔らかそうだ。中京断崖は、岩石ベースだったからちょっと硬かった。この程度なら俺と【土塊返し】アーススターならサクサク進む。


 ザク! ボコン! 

 ザク! ボコン! 

 ザク! ボコン!


 【土塊返し】アーススターを突き立てて、掘り返した所が、物理法則を無視してクレーター状に凹んでいく。これが迷宮宝具【土塊返し】アーススターの名前の由来になった採掘能力だ。極限までに採掘・穴掘り能力に特化した迷宮宝具。それが【土塊返し】アーススターだ。


「ほ~れほれほれ、どんどん掘るぞ~」

『アサヒ。現在8階層。調子はどうですか?』

「せいせいせーい。好調だよアース。お互いブランクないな」

『それは素晴らしい。この3年でアサヒが軟弱坊やになってないか心配でしたが』

「余計な心配だったな。一応筋トレだけはしてた」

『よいことです。強靭きょうじんでなければ、穴掘りはできませんからね。――とそろそろ15階層。ここから中層に入ります』

「りょ」


 ザク! ボコン! 

 ザク! ボコン! 

 ザク! ボコン!


 景気よくダンジョンの床がほり抜けていく。

 ははは、これは楽だ。このダンジョン、アースに合ってる。


「そういえばアース。今まで掘った穴の恒常性停止ホメオスタシス・ブレイクを頼む。後でシィさんに頼んでエレベーターを設置してもらおうぜ」


 次来るときに、楽になるんだよなエレベーターがあると。


『ええアサヒ。ご安心を。すでに実施済みです。――しかしこのダンジョン、自己修復能力が希薄ですね。迷宮核ダンジョン・コアの機能が低下しているのかもしれません』


「それはまずいな。完全に機能停止したら崩落するかもしれないし、さっさと【岩戸】を開けて再起動させないと」


 もういっちょ! と【土塊返し】アーススターを振り上げた俺の目の前に、【伝えたい君】が滑り込んできた。モニタの側面についたランプが激しく点灯し、メッセージを伝えている。


 なになに……?

 投げ銭クレジットチャットが来たらしい? なんだそれは。

 それから――


「む、なんだこのコメントの量」


 埋め尽くされていた。 

 それが大したスピードで更新されていく。コメント欄はどれも興奮したような文字が踊る。接続数は20人とちょっと。そんなに人数はいないと思うんだが、みんなが怒涛の勢いでチャットを打っているらしい。


 無視するな。ちゃんと見ろと言わんばかりに【伝えたい君】が俺の眼前に来る。こいつ、結構強引だな。


「んだよ、見ればいいんだろ……。なになに……」


 ――――――――――――

 -やっとクレチャに気づいたぞ

 -ぬしー、無視するのはイケずですぞー。そんな面白い技持ってて、ファンサしないとか駄目ですぞー ――――ってか、何それ。説明

 -なんでダンジョンの床ぶち抜けんのよ

 -迷宮宝具で切りつけたって傷一つつかないのが普通だぞ

 -ひと堀りで、床ぶち抜くのわけわからん。そんなん落とし穴堀り放題じゃん。

 -わざわざ下層への階段探す必要ない。わけわからん(同意)

 -ショートカットし放題はヤバい。てか、迷宮である意味なくすわ

 ――――――――――――



 どうやら、【土塊返し】アーススターに対しての説明を求めているようだ。確かに、最近の迷宮配信者に【土塊返し】アーススターみたいな迷宮宝具持ってるやついないもんなぁ。


 そう思ってる間にも、コメント欄は説明! 説明! と盛り上がっている。


「うーん、俺、復帰勢なんですよね。みんなは知らないかもしれないけど、5年前の黎明れいめい期の探索者界隈では、ジ・オード作用機――今では迷宮宝具めいきゅうほうぐの方が通りいいかな。それを持ってるやつが数人いたんですよ。確かに今の探索者の迷宮宝具には無い能力かなー」


 俺の発言に、再びコメント欄が加速する。

 そんなの知らん。初耳。DDDMの公式にもそんなの乗ってない。嘘乙。

 そんな言葉が並んだ。


「嘘じゃないっすよ。たぶん日本政府の方針だったのかな? 当時の深淵アビス層界隈の情報は秘匿ひとくされてるらしくて? ――あ、これ配信で言って良かったのかな?」


 やっべ、と顔をしかめていると、


『アサヒ、今更です。もう全世界配信です』


 とアースが冷静に突っ込みを入れた。


 三度、コメント欄が加速する。


 ―――――――――――――――――

 -シャベッタァァァアアアア!!!???

 -このスコップ生きてる……

 -しゃべるシャベル……

 -いや、落ち着け。AI付きのジ・オード作用機なら開発されてるはずだ。あれ、でもそれって、曽我咲そがざきインダストリの試作機の話じゃなかったっけ……

 -なんだよ。アサヒニキ、曽我咲そがざきのテスターか?

 -いや、こないだ株主向けの情報でちょっと出ただけだぞ。俺、曽我咲の下請けの開発職だから知ってるだけで……。普通テスターが配信しながらダンジョン入らねーよ

 -おにーさん、その喋るスコップ俺も欲しい! どこで手に入れたん?

 ――――――――――――――――――


「いや、コイツは曽我咲製じゃないよ。5年前に俺が中京ダンジョンで見つけたんだ」

 言いながら、掘るのを再開する。【伝えたい君】は俺の近くに来てくれるし、横目で確認すればいいだろう。


 ――――――――――――――――――

 -いや、掘るな掘るな。もう中層だぞ。どこまでぶち抜く気だよ

 -迷宮宝具ってダンジョンに落ちてるもんなん? あれってジ・オード関連会社が作ってる、魔素結晶体ジ・オードを利用した武器であり道具だろ?

 -探索者が慌てて落としていったってケースならあるだろうが、アサヒニキのは違うだろ。こんなぶっ壊れがほいほい落ちてたら、それこそ探索者界隈がぶっ壊れる。

 -じゃあ、開発会社の紛失品。開発中の新兵器が盗まれた説。

 -いや、ガン〇ムじゃあるまいしよ。無いだろ

 -じゃー、どこのどいつならこんな壊れスコップ作れるんだ? DDDM?

 -俺、曽我咲インダストリ説推すわ

 -いや、アルキメデスカンパニーの方が良いもん作ってるぞ。

 -はぁ? たちばな製作所の日本刀【誠】シリーズすごい切れ味だぞ。近接でモンスターぶった切るなら橘だって。

 -どこでもいーよ。アサヒニキのは異常

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