何色の虹色

虹色アイスのコマーシャルがテレビから流れて、今年も夏が来たと思うゴウド市の住人は少なくない。

地域の名物だが、特産品を使った訳でもないし、ご当地キャラクターに寄せている事実もない。

他の市には流通せず、食べたければゴウド市に来いと強気の姿勢を見せている。

当然ながらコマーシャルはローカル局だ。売る気はあるのだろうか。そもそも誰が作っているのだろう。

「工場で量産してるんじゃないの?」と冷静な顔で親友は言っていた。

「え、あれって本物の妖精が作ってるんじゃねえの?」冗談しかいわないお調子者は真顔で言う。

「食べられるならどこの誰が作っていても気にしません」これには由比も同意した。クラスの期待の星は言うことが違う。

憶測だらけの虹色アイスだったが、皆口を揃えて美味しいと言う。笑顔になる者もいたし、今年はまだ食べていないと悔しそうな顔で財布を握りしめる者もいる。少し高い価格設定なのだ。

「そもそも何の味だろうねえ」

「由比でもわからないの?」

「食いしん坊だけど、味覚が鋭い訳じゃないよ。美味しいか不味いか分かればじゅーぶん」菓子を頬張りながら、由比は返事をした。

帆足は微笑みながら一向に減らないクッキーをかじる。

「ご相伴妖精のご相伴に預かって光栄だわ」

「ぼくとおやつ食べると美味しいでしょ」

「そうね」

「ぼくも帆足ちゃんと食べてると幸せだなーって思うよ」

「おやつも幸せものね」

「どうせならクッキーだって美味しく食べられたいよねえ」

「クッキーのポテンシャルが高ければ望みは叶うわよ」

「てことはこのクッキーを焼いた灯理ちゃんのお兄さんは凄腕ってことだね。いつも美味しいお菓子くれるから達人か仙人かなあ。でも失恋した時しか焼かないんだって。恋多き人なんだろうねえ」

「灯理が困った顔で渡してるのはよく見るけれど、今までも由比が食べていたの?」

「ご相伴妖精の能力はこういう時に役に立つんだ。ぼくの胃袋は無尽蔵と言っても良いって皆言うもの。美味しくないと嫌だけど」

「虹色アイスって、私食べたことないのよ」

「え、それは帆足ちゃん、駄目だよ。今から食べに行こう」

学校内の売店で虹色アイスを買って二人でベンチに座る。陽の光が届かないぶん、夏は涼しくて人気の場所だ。アイスも溶けないだろう。噴水の水が勢いよく上がって、さらに涼しくなった。

「で、どうかな」

まるで自分が作ったかのような言い方だ。

「美味しいわね」

「ほんと? 良かったあ」

「由比と食べたからよ」

「え、虹色アイスが可哀想だよ帆足ちゃん」

「美味しいものは沢山あるけれど、由比と虹色アイスを食べるのは今回が初めてだもの」

「じゃあさ」

「来年もまた一緒に食べましょう」

由比は嬉しさのあまり、虹色アイスを落とした。噴水の水面に溶ける虹色は、口には入らず哀しそうにさえ見える。

そのわりに由比は、食べものを落としてしまったのに嬉しい。不思議なこともある。今日の虹色アイスにはちゃんと謝っておこう。

浮かんできた木の棒に大当たりの文字が書いてあるのを見た由比が、飛び跳ねて喜ぶのは想像にかたくない。

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草々 ことぼし圭 @kotoboshi21kei

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