幕間〜知られざる神官長〜
私、神殿で広報を担当しております、リッチェ・バード25歳。元々は王宮新聞の記者として王族方のお言葉を記事にしたりしておりましたが、ご存知の通り!王宮が焼き払われ、その王宮は商売の立ち行かなくなった商人達を中心とした反乱兵に占拠されておりますから、私も無職となってしまいました。
そんな時!!途方に暮れて、家賃の心配をしながら歩いているところを声を掛けてくださったのが!!この中央神殿だったということなので・す・が…真っ先にご恩をお返ししなければと、聖女様の取材を願い出ましたが、皇太子の度重なる熱い密会を目撃したことと(あ、これは言ってはいけないやつでした)コホンッ…不誠実な対応と聖女様に婚約破棄を言い渡すという蛮行を受け、傷心中とのことで取材の許可は下りませんでした。
そこで、精選されたのが!!!異例の昇進を果たし、19歳の若さで神官長に選ばれたユリエル・オルレリアン様!!もうこの方しかおりませんでした。
不動の人気ナンバーワン!の歴史に残る神官長となるお方の出生からお話ししたいと思います。
オルレリアンと申し上げましたが、現在彼は神の道に進んでオルレリアンという名は捨てておりますので悪しからず。
貴族の間では知らぬ者はいない名家、オルレリアン侯爵家の次男として生まれたユリエル様は生まれた時から神の道へ進むことが決められておりました。オルレリアン侯爵家は後継者以外は聖職者として生きることが定められた信心深いお家なのです。また、歴代当主も貴族会議の議長や裁判長など歴任し、聖職者として出家した方々も神官長、聖騎士団長、教会長と選出された方が多くいらっしゃいます。
そんな期待の星ユリエル様は、歴代最年少で見習い神官として神殿に入りました。貴族出身ですと、アカデミーで一年過ごして、十五歳の成人を迎えてから出家するのが一般的ですから、異例と言えるでしょう。
もちろん、神殿には成人前の子供もおりますが、殆どが孤児院出身の子供になります。そういった子供達は仕え児として見習い神官の手伝いをしているのです。食事は仕え児でも関係なく食堂で食べられますし、私も同じ食堂で三食困ることなく食事が取れます!三食食べられるのはとても幸せな事ですよね!
相室とはなりますが、部屋には人数分のベッドと仕切りもあり、私の王宮生活とほとんど変わらない水準で生活が出来ているようでした。平民の子供としては恵まれた環境と言えるでしょう。
さて、ユリエル様の話に戻りますと、十歳になったお祝いをし、三日後には出家しております。その三日は家族のお別れに使われたのかなと思うと、少し涙が出てしまいそうです…彼は出家後は一度も家族には会っておられないのですから、想像をするだけで涙が止まりません。
この時点で母のような目線でユリエル様を見てしまっていた私でしたが、慈愛の眼差しを用意してお会いしたユリエル様の美貌をみたら、慈愛なんて綺麗な感情は、瞬く間にピンク色に染められてしまいました。
目に入れても痛くない可愛さとはよく言いますが、目に入れたらクラリと眩暈がするほどの筆舌に尽くしがたい美しさなのです。この辺りは記者としての敗北です。
見習い神官としてすぐに聖女様付きとなったとされるユリエル様ではございますが、実は二週間ほど神官に付き、神殿での生活を勉強されておりました。誰もが受ける生活の基本を教えてもらっていたんですね。神殿側も右も左も分からないまま無責任に押し付けたわけではありませんでした。
ここで少し、おさらいをしてみましょう。
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神殿側としては、まだ幼いユリエル様には多くの仕事をこなすよりも、教養や造詣を深めることも必要だと考え、聖女様と一緒に学ぶようにと、聖女様付きとして任命されたと、当時ユリエル様が仕えた神官は仰っております。
しかし、ユリエル様は神殿側が想定していたよりもしっかりと仕事をこなし、聖女様の身の回りのことは問題なくこなしていきました。それどころか、逆に専属の侍女が必要だと進言されたり、不足している物品や待遇を報告するようになりました。
これには神殿側も驚いたようです。まず、神殿には王宮のように侍女や女官はおりませんでした。王宮に勤めるような質のいい侍女を手配するのには時間がかかりました。当時の神殿長は平民出身の方でしたので、初めての聖女の受け入れに、思い至らなかったというのも不甲斐ないですが考えられる話でしょう。全てが手探りの状態でしたのは想像に容易いことです。
こうして月日は流れ、一年ほど前に神官長に就任したとき、19歳3ヶ月という記録的若さだったユリエル様。聖女様の成長と共に、聖女様の横に座るのが、ただの神官では格好がつかないと神官長に任命しますが、神官達の間では理由に納得出来ない者もおりました。ですが、神官長の座に座った後、ユリエル様は目覚ましい活躍を見せるのです。
今年、新しく神殿長に就任したのは、長く教会本部長として手腕を発揮していたジョージ様でした。ご実家の尽力もあり神殿長として着任し、ユリエル様の上司となりますが、その時の事を「ユリエルでなければ私は何度も倒れていただろう」と評価しています。
それもそのはず。恥ずかしながら公にされていますので申し上げますが、前神殿長は仕え児として神殿に入れなかったら孤児達を、通行証の偽造など複数の不正を行い、孤児達を売り払っていました。それはこの中央神殿の孤児院だけに留まりません。
ユリエル様が神官長として就任してから発覚した悪事は、人身売買、小児売春、横領と続きました。ご実家の後ろ盾が厚く、且つ正義感の強い教会本部長に相談し、協力を得たことで結果的にジョージ様が神殿長になったのですから、ユリエル様の有能さがわかるエピソードですよね!!
聖女様もこの件はご尽力されたと私は耳にしています。教会本部にて教会の孤児院を管理し、教会本部の管理を神殿がするという縦構造を提案し、監視の体制を今は厳格にしていますので、ご安心ください。
被害児の救済も引き続き進めておりますことも確認しましたので、ここにご報告いたします。
さらに昨年の秋には、ユリエル様は神託を受けるようになり注目度はとても大きくなりましたね。神のお言葉を聞けるのは聖女様と聖母様だけでしたので、もはや聖者ユリエル様と言っても過言ではありません!!
時系列をまとめた私のメモはこのような感じです。
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最後に、力不足ではありましたが、ユリエル様の人柄溢れるインタビューの様子もお伝えしますね!
「ユリエル様はご家族に神託のお話などはされるのでしょうか?」
「特にしておりません。手紙は定期的にはやり取りしておりますが、一般的な家族のやり取りにすぎませんので、神託を話題にすることはありません」
「なるほど。ご家族からはどのような手紙が来るのでしょうか?やはりご心配されているのでは?」
「母は豪快な方ですから、励め!と三文字だけ書かれた手紙でしょうか。父はあまり関心はないようで、『何もないなら手紙は不要』と返ってきましたから、特に手紙を出すことはありません。兄は神殿に来た時は手を振ってきますが、聖女様と一緒にいますので遠くにいるなという認識をしているくらいです」
「なんとなく読者の方にも名家オルレリアンが伝わる話ですね。大変興味深いです」
「はい…」
「読者の方が一番気にしていらっしゃるのは、ユリエル様の恋愛関係だと思いますが、恋人などはいらっしゃいますか?また、還俗しご結婚されるご予定はありますでしょうか?」
「私はオルレリアン家の出身ですから、還俗し結婚することはありません。神と聖女様に尽くすことが私の生きがいですし、全ての時間は聖女様と共にあります。私的な時間は持ち合わせていません。当然これからもそうです」
「私たち乙女の希望は打ち砕かれましたね。清らかな回答で私の心が洗われた気がしました。不躾な質問に答えていただきありがとうございます(吐血)」
本当はもっと質問は用意していたのですが、私の乙女の部分が砕けてしまったので、それ以上質問することはできませんでした。
ユリエル様については、今後も要チェックです!!!因みにこのインタビューは聖女様が眠りについた後、ユリエル様の私室にお邪魔して行いましたので、我が同胞の乙女達にご報告します。
とてもシンプルで、特筆するような物は置いていないといえるほど聖職者らしいと形容するのが相応しいお部屋の中で、一角だけ目に止まる空間がありました。可愛らしい置き時計や、小さなクマのぬいぐるみ、押し花や本等がガラスケースに綺麗に並べられていましたよ!「全て聖女様からの贈り物です」と仰っていました。聖女様との素敵な信頼関係が伺えますね!
神官長ユリエル様、ご協力ありがとうございました。
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