第27話 儚き聖女の最期

 吟遊詩人が暇を告げ、夢見心地のまま寝台に潜り込んだリーネは不思議とすぐ眠れそうだった。

 素晴らしい演奏を味わった後だ。興奮で目が冴えてしまうと思っていた。

 けれど、美しい物語の余韻の抜け切らないうちに、頭に靄がかかったようになり、瞼を上げていられなくなった。欠伸を何度もしながら、寝支度を整えた。晩餐会の疲れがどっと出たのだろう。


 心地良い寝台の上で、睡魔に抱き込まれそうになったとき、ふいに、去り際に吟遊詩人が放った言葉が蘇る。


『数々の逸話の残る彼女ですが、最期は〈魂裂きの槍〉で心臓を一突きにされました』


 歌い終わり、ゆっくりと立ち上がった吟遊詩人は、小脇に楽器を抱えると、優雅に軽く頭を下げてから、言い忘れたというように、その残酷な事実を告げた


『黒魔法で磨き上げられた魂裂きの槍は、その名の通り、魂を裂くのです。だから、生まれ変わることなく、魂は消滅する。それほど、殺めた者は、彼女を憎んだのでしょうね』


 彼は嘆かわしいというように、頭を振り、リーネを見据えた。


『ご縁があれば、またお会いしましょう』


 吟遊詩人は目を細め、軽く微笑むと、身を翻し、庭の奥へと行ってしまった。

 暗がりの中、ぼうっと浮かび上がる白銀の髪がさらりとたなびいた。


(クリスティーネが亡くなったとき、魔王も、勇者も悲しんだよね。しかも、彼女の魂そのものが消滅したとなれば、来世にすら希望が持てないもの)


 教会では、魂は不滅だと説いている。

 魂は何度も生まれ変わり、ずっと生き続けるのだと。

 けれど、クリスティーネの魂は永久に生まれ変わることが叶わない。なぜなら、既にこの世界から消えてしまっているから。

 

 ずきりと胸が痛む。

 クリスティーネは死に際に何を思っただろう。

 見たこともない、千年前に生きた伝説の聖女を思い、胸を痛めながらも、リーネは再び両腕を広げた睡魔に抗うことができず、深い眠りに落ちて行った。

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