第2章 バーゼル侯爵領
第13話 旅の途中
生贄を乗せた箱馬車は予定通り、生贄の滝のある森の中へと入った。予め、めどを付けていたらしい洞窟に、リーネとレーナを待たせ、エーヴァルトはふたりのペンダントを手に、聖女の園に戻った。そこで、儀式が滞りなく行われたこと、妹であるリーネも共に滝に落ちたことを皆に伝え、伝承通り、淵に流れ着いた装飾品を拾ってきたと言ったらしい。それから報奨金を受け取り、村で食料や衣服を買い込んだエーヴァルトは日が落ちるぎりぎりに洞窟に戻って来た。着ていた衣服を脱ぎ、用意した服に着替えるよう指示され、一夜を洞窟で過ごした。
翌朝、エーヴァルトの先導で、まだ意識のはっきりしないレーナの手を引いて、森を歩いた。近隣の村に出てしまうと、姿を見られる可能性があるので、森を突っ切り、なるべく遠い村に出ることにしたのだ。
必死で森を抜けようと歩き続ける中、徐々に意識を取り戻すレーナの体調に気を遣った。
ただでさえ、体の弱いレーナは、儀式故に妙な薬を飲まされて、そのダメージから回復できていなかったのだ。そのせいか、レーナはなぜ自分が森を歩いているのかいまいち理解できていないようだった。
「私、どうしてこんなところにいるのかしら……? 思い出せないわ」
リーネに凭れ掛かるようにして歩きながら、リーナは時々うわごとの様に口にした。それを聞くたび、胸の中がひりりと痛んだ。死を強要された過酷な状況からくる精神的なものなのか、妙な薬のせいなのかは判然としなかったが、レーナに必要なのは安全な場所での休息で、深い森の中では望むべくもないものだった。
だからこそ、リーネは極力姉をおぶり、休憩時には治癒魔法をかけた。何もしないよりはましという程度だったし、気休めだとは思いつつも、やらずにはいられなかった。
ほぼ同じ体格の姉を背負いながら、足場の悪い森を歩いて行くとき、先を行くエーヴァルトは時折振り返ることがあった。そして、何か言いたげに口を開きかけるも、振り切るように息をつき、再び背を向けるということを繰り返した。言いたいことははっきり言えばいいのにと、リーネの胸に小さなもやもやが渦巻いた。
「なぜ、そこまでする?」
ようやく、止めていた言葉を吐き出したのは、森を歩き始めて二日目の夜だった。
たまたま見つけた大木のうろにレーナを横たえ、そのすぐ近くで焚火を囲っていた時のこと。焚火を挟んで真正面に腰を下ろすエーヴァルトが、至極真剣な表情でリーネに問うた。
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