接敵
そうして赤黒い道を行く白い集団。
「……」
僕と理事長はその後ろを静かについて歩いていた。
ちらりと前をみる。
「なぁ、おい。今日もどっちが多くトれるか勝負しようぜ」
「あぁ、望むところさ。力任せばかりじゃだめだということ。今日こそ君に教えてあげよう」
「ねぇ、大丈夫?髪の毛ぼさぼさだよ」
「あぁ、そうだろうとも。きのうはずっとべんきょうしていたからね。どうにも
「へぇー!そうなんだ!がんばるのも良いけどちゃんとお手入れもしなきゃダメだよ?静ちゃんこんなに可愛いのに。」
「……おい、騙されるな。こいつは昨日一日ゲームしかしてないぞ」
「おや、
「知ってるも何も同室だろう」
「おっと、これはうっかり」
そこには思い思いの様子で友達と戯れる様子の先輩方の姿。
半面こっちは……
ちらり
ずっと能面の様な理事長との葬式の葬列。
一体この差は何なのだろう。
「あ、あの」
そんな差を気まずく思った僕は、気付けば口を開いていた。
「あら、どうしたの?」
そうして歩きながらもこちらを見る理事長。
ど、どうしよう。つい声を出しただけだから何も考えては無かったのだけど……あっ、そうか。これはこれでちょうどいいのかもしれない。
「さっきのアレ、一体何だったんです?」
そうして想起するのは、先ほどの理事長の瞳と、ハンドサイン。
あれだけ衆目にさらされながらあんなことをすれば内緒も何もないと思うんだが、
「あぁ、あれね」
理事長はこともなげにそういう。
「さっき迷子になった時に見たんじゃない?十二八十さんの能力」
能力。
そう言って頭に浮かんだのは糸付きナイフを使って、奇妙な生物を八つ裂きにした静先輩の姿だった。あれは能力というより本人の技量って気はするんだが。
「いえ、あれが能力よ。私からはあまり詳しくは言わないけど、あの生物を殺す時、十二八十さんが瞬間移動しなかった?」
その言葉を受けて少し考える。
瞬間移動?……あぁ、確かに天井に糸を投げてからあの一瞬ではありえない程遠くに移動していた様な気はする。あの時はやはり悪魔狩り。身体能力はピカ一なんだな~程度にしか考えてなかったが……なるほど。あれが静先輩の言っていた『ちから』か。
「そう。それで私の場合、その能力がアレってだけ。ホントなら誰にも見える筈はないんだけど……あなたは見えてるみたいだったからね。しないとは思うけど一応口止めしておこうと思っての『shh~』よ」
そういって再び先ほどの茶目っ気を出して見せる理事長。
やっぱり、この雰囲気と見た目ですることじゃない。
そんな失礼なことを考えていると、突然ふとこんな疑問が浮かんだ。
あれ?当然の事みたいに言ってたけどなんで迷子になった時の事を見てきたことの様に語れるんだ?
本来なら友哉先輩や、静先輩に聞いたと考えるのが妥当だと思うんだが、僕らはここへ着いてからすぐに出発した。
その間に先輩方と理事長が接触した様子はなかったと思うんだが……
そう考えて理事長に尋ねてみようと口を開いた時だった。
「そういーん。せんとうじゅんび」
どこか間延びしながらも良く響く声で静先輩はそう言った。
その瞬間、各々の武器を抜いて構える先輩方。
僕も、わからないなりに腰のナイフを抜いて構えてみるが、これから何かを殺すという実感はまるで湧かない。
そもそも敵(?)の姿も見当たらないし……あぁ、そういやこれを言っているのは静先輩だ。
それならこの声も嘘なんじゃ……
そう考えて、ちらり。
だが、ここに居る誰もが静先輩を疑う様子も無く真剣に辺りを見渡している様子だった。
僕より付き合いの長いであろう先輩方がこうってことはきっと嘘ではないのだろう。
そう考えて、僕も警戒の目の一つに加わろうとした時だった。
「居たっ」
そう言って太刀の柄に手を掛けながらすさまじい勢いで飛び出していった男の先輩。
「あっ!あんにゃろ」
そう悪態をついて肩に金属バットを担いだ先輩も太刀先輩に続いていく。
その先輩方が向かった先に目を向けた僕は思わず引き攣った笑みを浮かべた。
そして一言。
「あぁ、なるほど。これは『悪魔』だ」
種類としては実に多種多様。
体の一部が似通っているものは居ても、全く同じモノは決していないだろうと断言出来た。
なぜなら、目の前の怪物はどれも現実で見慣れた存在の一部で形作られていたから。
例えば、今バットで頭をぶち抜かれたウサギの悪魔。こいつの場合はウサギの頭に、人間の胴と足。そして腹からは不規則的にバッタの足の様な物が生えていた。
他にも、不規則に飛ぶ頭部がテレビのワニ。腹から生えている蛇を毟って投げつけて来るゴリラ等々。
その悪趣味なパッチワークの様な外見以外の何を見て悪魔らしい外見と言えよう。
と、とりあえずどうしようか。
少なくとも僕が戦いに加わるなんてことは論外だろうし、ここはおとなしくしておくのがベストだと思うんだが……これでいいのだろうか。
そう考えていた時だった。
ビクッ!
思わず体を跳ねさせる。
その原因に恐る恐る顔を傾けると、僕の右肩を細い腕が捕まえていた。
その出どころをたどると、そこには少し笑みをたたえた理事長の姿。
理事長はそのままこちらを見ることもせずに。
「落ち着いて。今日は見学よ」
短くそう言ったのだった。
見学……うん。そうだ。今日、僕は見学をしに来たんだ。まだ危険に身を置くときじゃない。
そうして何度か深呼吸。
すー はー
すー はー
……よし
そうして僕は改めて戦場を見渡した。
そうすると、一番初めに目に留まったのは先ほど真っ先に飛び出していった太刀先輩とバット先輩だった。
先輩方は互いに競うように目の前の敵を蹴散らしながら、隙を見て互いにちょっかいを入れている。なにぶんその出て来るちょっかいが真剣と金属バットなので見ているこっちがひやひやするが、どちらの先輩も完全に防ぎながらすさまじい猛進っぷりを見せていた。
その次に目についたのは紗江島先輩だった。いや、こっちはいろんな意味で意外過ぎて。というのも……
「……」
僕の目線の先には次から次に敵を素手でちぎっては投げていく紗江島先輩の姿。確かにこれだけでも驚きはしたのだが。なんというか、僕が驚いたのはその戦いかたの方だった。先ほど千切っては投げといったものの、それはけして力任せということも無く、いともたやすく体に指を突き入れ、そのまま割りばしでも割るようにびりびりと引き裂く。そんな不思議な戦い方だったのだ。
そうして一仕事終えた後の様に汗を拭う様子を見せると、
「~~!!」
なにやら喜色満面でこちらに手を振るのだった。
確かに約束してましたもんね。……えぇ、カッコいいですよ。先輩。
そうして手を振りあったのもつかの間。
いつの間にか背中に回っていた牛の様な怪物のしっぽを屈んで避け、紗江島先輩は再び肉を裂き始めたのだった。
そうして最後は、静先輩と友哉先輩なのだが、ここのペアが一番僕にとって奇妙に写った。
というのも、静先輩の方は姿すら見えないのだ。そのくせ、静先輩のものと思われる糸付きナイフは辺りを飛び回り、悪魔を絡めとっては、まとめて引き裂いていく。瞬間移動ができるらしいとはいえ、どんな戦い方をしているのだろう。
まぁ、考えても仕方ないのはさておき、次は友哉先輩だ。こっちはさっきより見えている分余計に脳が混乱しそうになる。結論から言うとするならば、先輩はただ立っているだけなのだ。それもポケットに手を突っ込んで余裕綽々に。けれど突っ込んできた悪魔は片っ端からねじれて倒れ伏してしまう。
これも能力なんだろうが……一体どういう原理なのだろう。
「きになるかい?」
「ギャッ!?」
いつの間にか僕の背に乗っかっていた静先輩の声に思わず体を跳ねさせる。
その勢いのまま、静先輩を振り落とそうとするんだが、先輩はむしろ楽しむようにしながらこういうのだった。
「りじちょ~ ともやからでんご~ん。こんかいはするのかだってさ」
する?何を?
その意味深な言葉に思わず僕まで固まって理事長の次の言葉を待つ。
「えぇ、もちろんよ。尤も、それは本人の意思次第だけど」
そんな言葉とともに向けられた視線になぜか悪寒を覚えつつ、僕は静先輩に尋ねるのだった。
「先輩先輩。これって一体どういう意味なんです?」
そういうと先輩は楽し気に。
「いや、じつにかんたんなことだとも。こんかいきみはたたかうのか。ようはそれだけのはなしだよ」
もっとも、わたしはまだはやいとともやをとめたんだがね。くふふ。
そう耳元で楽し気に笑う先輩。
嘘だ。止めるような人間がこんな期待するような声を出すはずがない。
そう内心でツッコミを入れつつ、助けを求めるように理事長と目を合わせる。
すると理事長はにっこりと微笑んで、
「ということなんだけど。どうする?戦ってみるかしら。それとも……」
「戦いますッ!!」
なぜだかそれともの続きを言わせてはならない気がして、僕は食い気味にそう声を上げたのだった。
今になって後悔してきたが……えぇい。こうなりゃやってやるしかない。最低限命は保証されるだろうし、ここは当たって砕けよう。
そう震える拳を握りしめ、そう強く心に誓ったのだった。
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