第31話 恋人との甘いひととき。相棒となる女の子は気性難!?

 スマフォのアラームで目を覚ます。久しぶりにぐっすり寝たはずなのにやけに身体が重く感じたが、ここ最近の中ではマシな方だった。


「すう……すう……」


 隣で愛くるしい寝顔で小さな寝息を立てる女の子、優愛は一向に目を覚ます気配はない。悪戯心で指で頬を軽くつついてやると眠っている筈なのに少し不機嫌な顔になるのが面白い。…何コレ可愛い。癖になりそう…もう少し寝かせておいてやるか。


 1人ベッドから出てコーヒーを淹れて飲む。コーヒーなんて今まで味も知らずにずっと生きていたのに、1人になってからというものの朝はこれを飲まないと始まらない身体になっていた。


 仄かな苦味のおかげで眠気と共に不思議と疲れも取れていくような気がした。


 …なんで優愛が隣で寝ているのかって?


 あの日、どうしても俺と離れたくないという優愛の圧力に負けて俺の家に泊める事になったのだ。掃除した直後だったので色々と匂いとか不安だったが、音無が使用した薬剤が強力だったのか全く気にならなかった。


 誓って変な事はしてない。優愛とはまだ恋人になったばかりだ。付き合い自体はかなり長いのだがそういう事はしっかりと時間をかけて大切にしていきたいと思う。いつ自分がどうなるか分からない状況で無責任に傷つけたくないと考えたからだ。


 …実を言うと彼女から昨日誘われたのだが、その想いを話すと渋々一緒の布団で抱きしめ合って眠る事で了承してくれた。それに…普段はそんな様子を見せないが、誘う優愛の身体は少し震えていた。橘誠也に無理矢理奪われそうになった事が本人に自覚はなくても深い心の傷になっているのかもしれない。


 少しずつでいい。俺が優愛の心の傷を癒してあげたい。彼女がいつも俺にそうしてくれているように。


 そんな事を考えていたら優愛が本当に学校に遅れそうな時間になっている事に気づいて、急いでベットに戻る。


「おーい!優愛ー!起きろー!おーい!」

「んー…お母さん…もう少しだけ…」


 どうやら母親と勘違いしているみたいだ。まさかいつも起こしてもらっているんじゃないだろうな?叩くのは絶対嫌なので脇腹をこしょこしょしてみた。


「んー…ん?わひゃあいあ!?」


 よほどこしょばかったのか優愛が飛び起きる。寝ぼけた顔で目を擦った後、ようやく自分がされた事に気づいたのかジト目で俺を可愛らしく睨む。


「うーひどいよぉ…かっちゃん…」

「悪かったって。それより時間見てみ?」


 そう言ってスマフォ画面を見せると飛び上がるように優愛は起き上がった。わたわたと本気で慌てる優愛には申し訳ないがその姿がおかしくて笑ってしまう。


「もうっ、もっと早く起こしてよー!かっちゃんのいじわるっ!!


 ぷんぷんと今度は表情豊かに起こる優愛。さっきまでもう少しだけとか言って二度寝しようとしていた癖に…と思うがここは黙っておこう。


 こんなに子供っぽかったっけ?元々彼女に抜けている所があるのは知ってたが付き合ってからというものの甘えん坊さや子供っぽさが増している気がする。


 そのどんな表情も、俺にとってたまらなく愛おしい。不安ばかりの道を歩もうとしている優愛は俺にとっての唯一の癒しだ。決して手放さない。改めて心の中で決意をする。


 レンジでチンするだけの簡単な朝食もあるのだが、簡単にバナナだけ食べて済ますらしい。


 制服に着替えた優愛は、未だ何の準備もする気配がない俺を見て言う。


「あれ?かっちゃん…今日も学校に来ないの??」

「ああ…もう少しだけ待ってくれ。すぐにまた学校でも会えるようになるから」


 心配そうにした後、一言わかったと呟いた優愛を見送ろうと玄関まで着いていく。


 そこで彼女が振り返り、俺に触れるだけの優しいキスをする。…おもう何度もしている筈なのに、俺は気恥ずかしくなって目を合わせられなくなる。


「え…と…やっぱりまだ慣れないね…。かっちゃん…私、待ってるからね!!」


 優愛はそれだけ言って、せっせと学校へ向かってしまう、


 待ってる…か。何故か俺の頭は言葉の意味を深く考える事を拒否した。


 ◇◇


 約束通り、昼過ぎに迎えに来た音無の車に乗せられ、また例の極秘施設に向かう。今日は俺のこれからについての話があるみたいだ。


 車の中で音無から橘誠也が逝った事の報告を受けた。どんな最後だったのかを聞くと、音無は少し沈黙して考える素振りを見せた後教えてくれた。


 最期の最期まで傲慢で、憎まれ口を叩くどうしようもない奴だった、と。


 不思議と俺はそれを聞いて安心していた。非人道的で言葉にするのも悍ましいほどの拷問をした。別に罪悪感という程のものを抱いて今更善人ぶるつもりはない。


 これから俺は何人もの橘誠也のような人間を殺めていくのだろう。音無一族の仲間となると誓ったのだから。もう後戻りはできない。返せない恩がある。であれば、出来れば殺める人間はどうしようもない最期まで救いようのない社会のゴミがいい。


 淡々と話しながらも、少し煮え切らない表情をする音無を俺は見てみぬフリをした。


 施設に着き、車から降りた俺たちは会議室に向かって歩き出す。最初は取り留めのない話をしていたが、音無はもう会議室目前でいきなり気になる話題を持ちかけた。


「そうそう、貴方に相棒が出来たわ。…何度も素質がないって断ったんだけど、彼女…もうしつこくてしつこくて…。私達の素性を知ってるもんだから邪険にも出来ないし、新人同士とりあえず貴方と行動してもらう事にしたわ」

「相棒??一体どんなやつなんだ??」

「…まあ、会えばわかるわ」


 やれやれ、といった顔で音無が会議室のドアを開ける。


 そこには見た事のある、猫目の勝ち気そうな身長の低い女子がいた。前は落ち着いて見る余裕もなかったが、よく見ると非常に整った顔立ちをしている。抱いた印象は子猫。女性らしい膨らみは皆無だが…って俺は一体誰に説明しているのだろう?


「アンタが私の相棒になるんだってね!!お願いだから私の足だけは引っ張らないでよねっ!!」


 俺を見ると開口一番そんな事を言い出す猫目の女の子。本能で分かる。


 これは絶対めんどくさい事になりそうだ…。

 

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