第28話 優愛の嫉妬!?悪戯っ子な音無
「か‥かっちゃん‥。その綺麗な女の人は誰なの!?!?」
「いやっ‥待ってくれ!!優愛の思っているような事では決してないから!!本当だから!!!
「あら??昨日の夜あれだけ私を求めてくれたのにそんな事言うなんて‥酷い男ね‥しくしく」
「「なっ‥!?」」
音無は意味深な事を言った後しくしくとわざとらしく声に出して泣き真似をしていた。
顔をよく見ると笑っている事がわかる。この野郎‥。
対する優愛はというと怒り出すかと思いきや、頬を膨らませて今にも泣き出しそうな顔で叫んだ。
「かっちゃん‥!やっと好きが伝わったと思ったのにいいいい!!ずっとずっと好きだったのにいいい!!両想いになれたと思ったのにいいいうわあああああん」
ついには泣き出してしまう優愛。どうしよう‥我が家は郊外だとはいえあまりに大きな声を出されると流石に不味い。
時間も既に夜になっており近所迷惑だ。
何よりたとえしょうもない事でも優愛を泣かせたくない。
俺が抗議の視線を音無に向けると、流石に優愛が泣くとまでは思っていなかった用であたふたしながら優愛を慰めていた。
今は音無が子供のようにえんえん泣く優愛の頭を撫でている状況だ。
「ご、ごめんないね。少しからかうだけのつもりだったのよ!!私と彼はただの従姉妹!!それ以外の関係でもなんでもないわ!!」
「まさかここまで依存しているなんて‥」と小声で呟くのを、泣いている優愛には届いていないようだ。
本当に本当?信じていいの??とまだ少し泣きべそをかく優愛を、音無が抱きしめる始末。音無が「何この子‥可愛い」と言っていた事も俺は聞き逃さない。何だか少し興奮気味なのは気のせいだろうか。
こうやって見ると姉が妹を必死にあやしているみたいだ。音無が俺と同級生だから優愛の方が年上で合ってるよな?本当に、優愛とは恋人関係になった途端甘えん坊というか‥子供っぽくなったような気がする。
まあなんでも全部可愛いんだけど。
だいぶ優愛が落ち着いてきて、少し反省した様子の音無を俺は注意しておく。
「おい‥あんまり俺の彼女をいじめないでくれよ??」
「うう‥ごめんなさい」
シュンとする音無。分かってくれたならいいんだ、悪気は全然無さそうだし。
てか従姉妹で通すつもりか‥同じ学校だし不味くないか?あっ、学校では「千堂 麗奈」って偽名で特殊なメガネをかけてたんだっけ。俺も全然誰だか分からなかったし大丈夫なのか?
まあ見た目は大人びた年上の綺麗なお姉さん(決して老けている訳ではない)だし、その設定でも大丈夫だろう。
俺のそんな疑問を悟ったのか、すぐにいつもの調子に戻った音無は華麗にウインクする。多分私に任せておいてという意味だ。
「改めて初めまして‥。従兄弟の新妻にいづま 雅みやびです。ふふふ、かっくんから彼女が可愛い可愛いと聞いてたからついからかっちゃったわ。ごめんなさいね??家庭の関係が最近改善出来たと聞いて様子を見に来ただけだから安心してね。これからよろしく、優愛ちゃん」
そんな偽名、よくすぐに思いつくなと感心する。本名の「音無御影」クラスでの「千堂麗奈」そして俺の従姉妹設定の「新妻雅」か。
俺が知るだけでも三つ。家業的にいくつも持っているのかもしれない。‥まあ新妻雅が出来たのは偶然だと思うけども。
それにしてもかっくんて‥。まあ俺の名前が最悪だから「かちく」呼びする事を躊躇って、音無なりに気遣ってくれたのだろう。
落ち着いた優愛は、きちんと挨拶をされた事でピシッと姿勢を正す。
「は、初めまして!天音優愛です。天使の天に音学の音で天音、優しい愛で優愛です!!これから末永くよろしくお願いします!!!えへへ‥かっちゃん‥。私の事可愛いって話してくれてたんだ‥あ、あれ??でも新妻ってやっぱり!?ううう‥」
末永くか‥。意味を考えると何だか照れるな。そういう意味で言ってくれたのかは分からないけど。
緊張して自己紹介を始める優愛を、おっとりとした表情で音無は見ていた。さっきも可愛いとか小声で言っていたし、相当優愛の事を気に入っているようだ。
だが新妻という音無が咄嗟に作った偽名で、さっきの冗談を思い出してしまったのだろうか。また優愛が動揺を見せると音無が焦り出す。
「違うから!!新妻はただの苗字だから!!きりやく‥違う、かっくんと私はただの従姉妹だから!!え、えと‥とりあえずこれからよろしくね!早速だけれど、今日の所はこれで帰らせてもらうわ!元々帰る所だったし‥今度ゆっくり話しましょう!!!」
すごい勢いで話す音無に圧倒されたのか優愛は「は、はい。わかりました」と素直にうなづいた。
新妻とか深く考えずに名前作ったんだろうなあ。やはりまだクールなイメージがある音無が慌てる姿は見ていて微笑ましい。
そういえば俺も施設に一緒に戻る予定だったんだっけ?俺としてはせっかく優愛が来てくれたので邪険にしたくないが‥さて、どうしたものか。
そんな俺の様子に気付いたのか、音無は俺の耳元で優愛に聞こえない小さな声で言う。
「明日の昼過ぎに迎えにくるから。私に橘誠也の事は任せて。それまで優愛さんとゆっくりしておいて。ね、かっくん??」
どうやら俺に気遣って明日迎えに来てくれるようだ。本当気が利くというか頭が上がらないな音無には‥。
てかかっくん?優愛の前だけじゃなく、今後はその呼び方でいくつもりかだろうか。
まあいいや。今は音無に感謝して、明日ゆっくりと彼女の協力に必要な事を聞こう。
「むう‥。耳元で2人でヒソヒソ話して‥やっぱり‥」
「ち、違うんだって!そ、それじゃ優愛ちゃん!また今度ね!!」
颯爽と去っていく音無は、おそらく黒服であろう迎えの車に乗り込んだ。
頬を膨らませた優愛は小動物みたいで可愛い。こんなに素直に嫉妬してくれている事に、俺はこの最高に可愛い子と本当に恋人同士になったんだと実感する。
音無が出て行った後ドアをゆっくり閉める。もう勘違いは解けたと思うが、もう一度俺自身で弁解しようと口を開く。
「あのさ?優愛、ほんとに--」
俺が言い終わる前に優愛がガバッと俺に抱きついてきた。
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