第24話 禍稚傀の出した「答え」

「先程任務完了の写真を送りました。後処理は迅速に、くれぐれも隠密にお願いしますね‥御影」

「ええ‥後は私に任せて、お父さん。じゃあ『表』の仕事頑張ってね」


 今、私が電話で話しているのは内閣総理大臣の手塚正道と言えば驚かない人はいないだろう。彼こそが音無家当代、音無暁影であり私の父でもある。


 実際、トップシークレットで私達の中でもその事を知るのは私と、私の兄弟、そして代々私達に使える久遠家くおんけの人間のみだ。


 それにしても‥いつも言ってるのだけど、娘に対してくらい敬語はやめてほしいな。


 少しだけそんな不満を抱きながらも、私は現地の仲間に死体の後処理を指示する。後は任せておけばいい。


 翌日行方不明として親子共々テレビのニュースで放映されるだけ。もちろん一生死体なんて見つかる事はないし、見つかっても事件扱いされない。


「ぐあああ〝いでえええ〝よおおお〝おおあああ〝おお〝」


 収監している橘誠也が檻の中でのたうち回っている。私は非常にもかがみ込んで、先程父から送られてきた橘栄信の悲惨な姿が写った写真を見せつける。


「ああ‥ああ〝ああどうざあああああ〝ん!!どうさんが死んだら〝おれはもう‥誰が助けてくれ〝るんだよおお〝おおお」


 最後の希望を失い号泣する哀れな男。その姿には以前の傲慢な彼の面影は1ミリも見られない。


 もう充分だろうか?私は被害者達の無念をちゃんとはらせただろうか?次期音無家の当主としての役目をちゃんと果たせているだろうか?


 何度もやっている事なのに、最後はいつも不安になる。


「おまえら‥ほんとうになんなんだよお〝おおお〝お!!」


 時々正しいのかどうか、不安に思う事がある。でも誰かがやらないといけないよね?そうしないと世の中にクズはいなくならないんだから。


 だから私はこう思いたい。こう思わないといけない。


「『正義の味方』‥ってとこかしらね」


 ◇◇


 もう時刻は夜を迎えていた。随分長い間俺は眠っていたらしい。


 もう「答え」は決まっていた。自分がすべき事‥。何よりも失いたくないもの。


 それは『優愛』だ。何をどう考えても最後には必ずその結論に辿り着く。俺にはやはり彼女が全てみたいだ。それはこの先ずっと変わらないだろう。


 他の三人が未だに深い眠りについている中、俺は1人起き上がり休養室を出た。


 外にはこちらに向かって歩いてくる音無の姿が。彼女に会いに行くつもりだったので丁度いい。


 俺のただならぬ決意の様子を感じ取ったのか、皆の様子を見にきたと言う音無の顔が神妙な表情に変わる。言わなくて俺のただならぬ雰囲気から言わんとしている事が伝わったのだろう。


「‥私達と同じ『業』を背負う事になるわ。それでもいいのね?」

「ああ‥。覚悟は出来た。どのみち他に手はない。」

「そう‥ありがと‥」


 少しだけ沈黙が流れた後、音無が先にそれを破る。


「そうと決まったら、まずは貴方の家を綺麗にしなくちゃね。橘誠也に関してはもう少ししっかり反省してもらってから処理するとして‥善は急げよ!いきましょうか」


 そう言って音無が右手を挙げるとどこからともなく黒服達がやってきて俺にまたマスクを被せる。おいおい‥


「俺は仲間になったんじゃないのか?マスクはもういいだろ??」

「ふふふ。今は我慢して。ちゃんと私達の事まだ説明出来てないしそれまでは‥ね?」


 顔が見えなくてもわかる。こいつ‥絶対少し楽しんでるだろ。


 俺はまたマスクを被ったまま車に乗せられ、意外とよく喋る音無に付き合いながら自宅へと向かうのであった。


 だが他愛もない会話で不思議と、少しだけ疲れた心が癒された気がした。


 ◇◇


 自宅に中に入ると玄関まで腐臭が漂っており、とても中に入れたものではなかった。‥そういや風呂場に遺体を放置してたんだっけ?たった数日でここまでの臭いになるのか。


 音無と黒服達はしっかりと防護マスクを被っている。‥あれ、俺の分は?


「ふふふ。我慢して。急だったから忘れちゃった。あっ吐きたくなったら吐いてね。ちゃんと全部汚物は処理してあげるから」


 また茶目っ気たっぷりに我慢してと言われる。なんて言うか‥緊張感が無くなるな‥。


「臭いが完全に取れるまで結構時間かかりそうね‥。てかこんな杜撰な死体処理してて本当に貴方どうするつもりだったの??意外と結構なお馬鹿さんなのかしら‥??」


 呆れたように音無にそう言われてしまう。


 ぐっ、そう言われたら言い返す言葉もない。後回しにしていたが具体的な死体の隠し方法なんて考えていなかった。山奥に捨てたらいいやとか簡単に思っていたが、そもそも足がないのにどうやっていくんだ‥。本当馬鹿すぎるな俺。あまりにも復讐で頭がいっぱいだった、と言い訳しておく。


「まあいいわ。ここは仲間に任せて、私達は地下室に行きましょう。ああ、そう言えば貴方が学校に仕掛けた小型カメラも回収済みよ。あとあと‥あなたが放課後学校に侵入した映像も学校の監視カメラにばっちり映っちゃってたから、ちゃんと改ざんしておいたわ。‥さっきは意外とって付けたけどもしかして本当にお馬鹿さん??」


 あー‥やばい‥今考えたら本気でやばい事してた。またまた返す言葉もありませんよ、本当に。


「‥ごめん。いや、恩に切るわ‥マジで」


 音無の仲間になってよかったー‥あはは。とか言ってる場合ではない‥本当に。


「こんな調子でこの先大丈夫かしら‥」と少し頭を抱える音無に申し訳なるが、これからご指導ご鞭撻を頼むと「まあ、素人だったんだし仕方ないわよね!」とすぐに笑顔になってくれた。


 話をしていると、すぐに地下室の前まできた。


「そういえば、貴方一回掃除してるわよね?貴方のお母さんはどんな状況かしら?‥ごめんなさい、母親と読んでいいのかわからないけど」

「いや、いいよ。アレが俺の母親には変わりないんだし。気を遣わせてすまない。まあ、水と粉末食を置いてきたから死んではいない筈だ‥」


 ゆっくりとドアをあける。臭いは玄関よりも一度掃除をしたからか大分マシだった。


「‥めん‥‥い‥。‥‥く。‥たし‥がまち‥‥て‥た‥」


 ‥俺が出て行った時のまま‥水すらも口にしていない瀕死の母親の姿がそこにあった。

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