第12話 温かな腕の中で。貪り合う二人。天音優愛視点
夜が更けるにつれ気温はより低くなり、雨はさらに激しくなって行く。
この悪天候の中公園のベンチに座っているものなど私以外いるはずもない。
視界に映るどこにも人はおらず、辺りは静寂と化していた。
どれだけの時間、ここに座っていただろう。
冷え切った身体は、もはやほとんど感覚がない。何とか思考を働かせ、帰らなければと身体を動かそうとするが、絶望に支配された身体にはどうやっても力が入らない。
ああ‥。もういいか‥。ここで死ぬのも‥
『優愛!!!!!』
大好きな人の声が聞こえる。それだけで冷たい身体に少し体温が戻った気がする。
あはは‥幻聴が聞こえるなんて、いよいよ私は死ぬんだろうな。私が裏切った彼がこんな所に来てくれるはずないのにっ‥
『優愛‥っ!!! しっかりしろっ!!頼む‥っ!!お願いだから目を開けてくれ‥っ!!」
そんな悲しそうな声を出さないで。あなたにはこれ以上悲しんで欲しくない。
『優愛あああああああああああああああ!!!』
その瞬間、ハッと目が覚める。かっちゃんの顔がすぐ近くにあった。鬼気迫る表情で、涙をポロポロと流している。
あれ‥?私気を失って‥それで--
途端にガバッと凄い力で抱きしめられた。
「ううう‥ゆあ‥優愛‥っ。本当に、本当によかった‥!!
優愛がいなくなったら俺‥っ。ごめんな‥本当にごめんなあ、ゆあ‥っ!!」
愛おしそうに、きつく、きつく私を強く抱きしめる彼。思考が彼の体温で覚醒してきた。
同時に大好きな人にこんなに抱きしめられて嬉しい。‥でも‥
あんな所を見られたのになんで追ってきてくれたの?何でそんな大事そうに私を抱きしめてくれているの?
「か、かっちゃん‥?どうして、私なんか‥アイツと‥あんな所‥傷つけちゃったのに‥っ」
「分かってる、全部分かってるから‥っ!それ以上何も言うな‥っ。ううう‥ひとりで抱え込ませて本当にごめんなぁ‥っ。これからは全部、どんな事でも俺に話して欲しい。俺も優愛に少しでも傷ついて欲しくないんだ‥‥だって‥優愛の事‥本当に、大好きだから‥っ!!!」
言葉を全部聞き終える前に涙腺が崩壊し、瞳から無意識に大粒の涙が溢れてくる。久しぶりに流した喜びの涙。
傷つけてしまった私がこんなに幸せな気持ちになっていいの‥??
でも‥でも‥今は‥そんな事より‥私も大好きだとただ伝えたい。嬉しい‥‥
小さい頃から待ちに待った瞬間なのだから。
「ごめんね‥っ、ごめんね‥っ、かっちゃん‥っ!私も‥大好きだよ‥ずっと前から‥本当に‥本当に大好きだよ‥っ!う‥うう‥うわあああああああああああああああん」
気づくとさっきまでの大雨が嘘のように上がっていた。
長い間お互いの存在を確かめるかのようにきつく抱きしめ合った後、何度も、何度も唇を重ね合わせる。
私が舌を絡めると、一瞬彼は驚いたように舌を引っ込めたが、すぐに受け入れてくれた。
もう深夜だというのに、時間を忘れる程お互いを抱きしめながら唇と舌を貪り合った。
いつまでもこうしていたい。もっと‥最低な思い出を最高のキスで上書きしたい。永遠にこうしていてもいいと思えるくらい心が満たされていく。
大好きな人とのキスは、こんなにも幸せになれるものなんだ‥。
あの時神様は私を見捨ててなんかいなかったのかな?
かっちゃんが来てくれなかったら、私はアイツと一線を超えざるを得なかった。そんな私を憐れに想い、かっちゃんを私の元に届けてくれたんだって。
今はそう思える気がするのだ。
神様‥‥本当に‥‥ありがとう‥‥
大好きな人とのキスを楽しみながら、私は目を閉じて神様に心からのお礼を述べた。
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