第3話 罪(1)
「‥ふふっ‥うふふっあはははははははははっ‥!!」
早くも気が狂ったか?女が突然狂ったように金切り声を出した。
「もうすぐ『彼』が返ってくる頃よおお?この惨状を見たらアンタなんか一瞬で殺されちゃうわ!ううん、家畜の癖に私にこんな事をしておいて簡単には殺させない!私が受けた痛みの何百倍も苦しみを与えてゆっくり‥ゆっくりと殺してやる!!」
何だ、そんな事か。こんな事件を起こしておいて、そんな単純な事を俺が考えていないとでも思ったか。この女の愚かさに思わず大きなため息をついてしまう。
そもそも、その『彼』に来てもらわないとショーを始められない。最高の舞台にするのに、必要不可欠な人材だ。
コイツの彼氏には今まで散々お世話になったもんだ。名を
今までは実の母の彼氏だからと我慢していたが、もうその必要はない。血の繋がりがない分、俺にとっちゃ目の前の女より憎い存在である。
さて、そろそろ頃合いか。いつも通りならあと数刻で酒に酔いながら奴が帰ってくる時間だ。
ここまで全て計画通りな事を敢えて言いはしない。野暮というものだ。
暴れる女をロープで柱にくくりつけ、逃げられないように固定する。
「‥自分が縛られる気分はどうだ?お前はコレを何度も俺にやってきたんだぞ?」
「うるさい!黙れ!早く解きなさい!!」
少しも反省する気配が無い女に心底呆れるばかりだ。女が醜くジタバタしながら喚き散らしているが、無視をして地下室を出る。
地下からどれだけ叫ぼうが、一度扉を閉めてしまうと外に聞こえる事はない。俺がそうだったように、暗闇の中助けも来ず震える事しか出来ない。今この瞬間のみを考えると防音な事に感謝しないといけないな。
階段を登り、玄関の横で待機する。近くに置いてあった受話器を待ち抱え今か今かと奴の帰りを待つ。
奴の図体は俺より一回り以上大きい。まともにやり合って勝てる相手ではない。
ならば不意打ちだ。陽気に酔っ払って油断している所に一撃を後頭部に横から叩き込んで気絶させる。
懸念は簡単に死んでしまわないかどうかだが‥。そこは懸けるしかない。
奴はまさか俺に襲撃を受けようとしているなど、当然考えてすらいない。
チャンスは一度きり‥失敗したら返り討ちだ。普通なら手に汗握る瞬間の筈だが、今の俺に不安はなく寧ろ身体中が奴をぶん殴れる事に歓喜で満ち溢れている。
ガラガラガラッ
「かずみいいいいー!帰ったぞおおおー!」
ドゴッ!!!!
奴が扉を開けた瞬間、横から力の限り受話器をを振り下ろす。狙い通りの後頭部とはいかず側面にヒットしたがえげつない鈍い音がなった。
頼む。まだ死なないでいてくれよ?
大男が声を出す事も出来ず一瞬で倒れ込んだので不安になる。顔を近づけると僅かながら呼吸している事が分かった。
気絶‥成功だ‥!死んだらショーが台無しになるところだった‥!それに殴った瞬間の快楽と言えばもう‥今すぐ叫び出したくなる程の激情がっ‥!!
顔がニヤケ始め、口元に触れると涎が出ている事に気づく。
そこでハッと我に返る。
俺は快楽殺人犯になりたいのか?違う。あくまで復讐を果たすだけだ。決して人を傷つける行為自体に飲み込まれてはいけない。
俺は無関係な人を、意味もなく惨殺する犯罪者などに成り下がるつもりはない。その一線だけは何としてでも死守しなければ。
暫しの自己嫌悪の後、ゆっくりと深呼吸をして大男を担ぎ上げる。ニヤけた顔を何とか元に戻し、そのまま地下室まで担いで歩いていった。
「喜べ!!待ちに待った『彼』が来たぞ!!」
「助けてえええ!貴文いいい!!‥‥え?」
言葉を発しない男を見て、女は首をふりながら「そんな‥」と呟く。既に死んでいると勘違いしたのか、女の顔が絶望に染まっていく。
俺は坦々と男をロープで縛り付けた後、女のロープを袋に入れて用意したナイフで切り解放する。
「‥どういうつもり?」
「安心しろ。その男は『まだ』死んでいない」
「そ、そうよね!いくら何でも殺したりはしないわよね!?よ、よかったわ‥!ごごごごめんなさい!!謝るから!全部!今まであんたにしてきた事全部あやま--」
「少し黙れ」
首元にナイフを突きつけると、女がそれ以上喋るのを辞めた。
謝る?自分の身可愛さに仕方なくする謝罪に一体何の意味がある?ふざけた事を言うな。
無論今更たとえ心からの謝罪を受けたとしても、もう遅いが‥。
俺は感情の篭らない声で、女の瞳をしっかりと見据えながら言う。
「お前には、これから俺と同じ罪を背負って貰う」
「‥‥え?」
「このナイフで‥今からこの男を俺と一緒に殺すんだ」
「‥‥は?何を‥言って‥」
これが俺の最初の復讐。一人には死んでもらい、もう一人には一生消える事のないトラウマを心に刻んでもらう。
後の事はどうする?こんなの正気じゃない。狂ってる。まだほんの少しそう思える程の理性があるものの、脳内にとめどなく流れるアドレナリンがそれ以上思考する事を許してくれない。
今の俺はもう‥どうしようもなくぶっ壊れちまっているみたいなんだ。
「それでは、本日のショーの『フィナーレ』といこうかっ!!!」
高笑いしながら、震える女の前でそう宣言した。
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