第2話 ショーの準備。初舞台の主役は‥

「遅い!家畜の分際でどこほっつき歩いてたのよ!!早く汚い手を洗って皿洗いをしなさい!あんたの今日の晩御飯はないからね!‥何よその目つきは!?!?穢らわしい!!!」


 バシッ!!!


 帰るや否や理不尽に、不機嫌な母からビンタを受ける。


 ‥ああ、気づけてよかったよ。少し冷静に考えたらすぐに分かることだったんだ。本当、なんでこんな理不尽馬鹿みたいにずっと我慢してたんだろうな。


 いつか俺を愛してくれる?? どこまで愚か者だったんだよ俺は‥‥。そんなのはただの幻想に過ぎない。


 屑はずっと屑のまんまなんだよ。どうやったって変わらないんだ。努力すればいつか優しい母に変わってくれるだって?本当に笑えるよな。


 振り返ると俺は本当にどうしようもないお人好しだった。


 このまま馬鹿みたいに無駄な期待を抱いて生活なんかしていたらいつか殺されていただろう。それぐらい俺の家庭での扱いは凄惨なモンだった。


 だが、もうそれも過去の事だ。


 そんなクソみてえな生活も、今日で終わりだ。


 むしろ今はずっと変わらないでくれて本当によかったとすら思うよ。


 散々俺を壊しておいて‥玩具にしておいて、今更しおらしくされても困るからなあ!?


「は‥はは‥ははは」


 一筋足りたも軽率な同情などしなくて済む。そう思うと乾いた笑いが堪えきれなくなり奇声を発してしまう。


 突然の俺の奇声に母が肩をビクッとさせる。今の俺は何かがおかしいと今更気づいたようだ。


 だがもう遅いのだ。そう、手遅れ。何もかもが遅すぎる。


 ああ‥今日の『主役』はやっぱりアンタだよ‥母さん。


「な、何がおかしいのよ!?気持ちの悪い笑顔浮かべ--」

「はあ‥グダグダうるせーんだよ、豚!!」

「えっ‥っ!?ヒッ!?」


 ガッ!ドガッ!! 


 髪を掴んでドアに顔面を思いっきり打ち付ける。女に暴力を振るうなんて‥とか言ってくれるなよ?俺は毎日コイツに何時間も理不尽な折檻を受けてきたんだ。俺とて極力女性に暴力をふるいたくはないのは確かだが、コイツには一度くらい許されてもいい筈だ。


「痛いいいいいあうううう」

 

 悲痛な声を上げながら母親が床に転げ回る。


 俺はそんな母の姿を見て、自分が罪悪感どころかスッキリとしている事に気づく。


 それどころか、この女を「母親」と未だに呼んでいる自分に違和感を感じ始めた。


 母親??いやもうコイツはそんなんじゃあない。そう、俺には母親なんて存在は初めからいなかったんだ。少なくとも目の前にいるコイツはそんな崇高なもんじゃない。


 じゃあ目の前で転がっているコイツは何だ?


 人の皮を被った畜生だ。どんな事情があれど、平気で実の息子を家畜扱いできるド畜生だ。


 ‥普通の親子のような事をしてもらった事等一度もない。


 この女との思い出に残るのは暴力、暴言のみ。


 誰が同情などできようか?誰がコイツを母親だと思えるだろうか?


「ぐううう‥!!どうして‥!?今まであれだけ従順だったのに!!」


 女は信じられないと言うような表情で俺の顔を見ている。

 

 いつも見下し、傲慢で嗜虐的な笑みを浮かべた表情しか見た事がなかった『あの母親』のそんな表情を見た。


 その表情が何故か無性に可笑しくて‥俺はたまらなくなり笑いが抑えきれなくなる。


 自分の声と思えない一際大きい奇声を発した。


「あ‥あは‥あはははははははははははははははははは!!」


 狂ったように笑う俺に女の身体が恐怖で震え出す。


「どうしてだと??お前は本気で思ってるのか?まさかアレだけの事を俺に16年間もしておいて、自分はこれからもずっと仕返しをされないでのうのうと生きていけるとでも本当に思っていたのか??」


 出来るなら可能な限り傷つけてやりたい。今まで散々心身共に傷つけられてきた。俺にはその権利がある。


 だが‥これから始めるショーに支障をきたしては困る‥。傷つけないで、恐怖を与えるくらいで丁度いいだろう。俺は先程ドアに顔をぶつけた痛みでまだ倒れている女の髪の毛を力の限り引っ張り上げる。


「あっあぐううあああ‥や、やめてお願いだから‥。ううああああああ」

「やめてだと?‥お前は俺がやめてといって一度でもやめた事があるのか??」


 俺の「痛み」を分からせてやる。血の繋がった家族に家畜として扱われる事がどれほど苦しく辛いモノなのか徹底的に思い知らせてやる。


 そして最高の恐怖と絶望を植え付けてやる。‥もう俺に何も出来ないように、今度は俺が支配してやる。


 ‥生まれた時からコイツは俺の事を玩具としてしか見てなかったんだから。‥憎しみを八つ当たりする為の存在でしかなかったのだから。


「おい!」


返事がない。まさかこの程度でもう抵抗する気を失ったんじゃないだろうな?


 もう一度、今度は耳元で呼びかける。


「俺が呼べば返事をしろ!いいな?」

「は、はいいいっ‥!」

「今から俺がいうモノの場所を教えろ!」


俺は「これから」に必要な物の在処を聞き出し、袋に詰めた。


「な、ななな何をするつもり‥なの‥!?

「黙れ!!お前が気にすることではない」


何が起こるか分からない恐怖で女の身体は一層恐怖で震え出した。


 抵抗されながらも、構わず俺は力ずくでずるずると女の身体をひきづり地下室に向かう。


 この家は防音機能がある地下室がある。母方の両親、つま俺の祖父母はかなりの富豪だったようで、事故で彼らが死亡した後、兄弟のいないこの女に家が引き継がれた。


 もう深夜真っ只中だ。家の近くに隣家はほとんどない上に距離も離れている為、大きい声を出そうが聞かれる事はまずないだろうが万が一聞かれでもしたら非常に面倒だ。


「いつも俺をいじめてくれてる部屋だ。アンタも馴染み深いだろう?なにも心配することはないさ。殺しはしない‥」


ガタガタともう声も出せないのか何も言わずに震えるだけの女に、俺は気持ち悪くニタアと笑い告げる。


「さて、楽しいショーを始めようか」

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