さけるチーズ/遺影/母子手帳

1.

 母の好物はチーズだった。それもとりわけ割けるタイプが好きだ。

 性格が雑で酒飲みという事もあり、しばしばその残骸が栞に使われている事も多い。

 そう思ったのはなんとなく母子手帳を久々に開いたからである。


2.

 僕はギリギリ体重的に軽すぎない産まれだった。もうあと百グラムも少なければ入院は必須だったと母は時折語っていた。

 母子手帳に書かれた数値もお世辞には良い数値とは言えず、よく僕は今こう身体が健全に育ったなと思う。

 それは母の隠れた頑張りでもあるし、僕はそれを知っている。


3.

 どうして久々に母子手帳を開いたのかと言われると、それは今日が母の三回忌だからである。

 遺影に手を合わせると供えられたチーズを手に取り、開封する。横にはワインも添えられているがそれも拝借する。

 母は大酒飲みであった。それでいて、大往生であった。常日頃から『死んだ時には供えるな、遺影の前で飲め』と笑っていた。

 今となってはこの家に僕しか居ない。気持ちだけ供えて母のことを思い出しながら飲んでいる。


4.

 考えると母とちゃんと飲んだことはあまりなかったと思うが、やはり飲む時にチーズは鉄板だった。

 ビールと飲む時はスモークチーズだったし、ワインと飲む時はプレーンなものを好んでいた。

 僕もそれを受け継ぐように酒飲みになり、同じように。それがそうであるかのようにチーズを一緒に添えていた。

 割いたチーズを一本だけ置き、また手を合わせた。また酒を一緒に飲めるようになるのはいつになることやら。

 健康診断で優良な数値を出している僕もまた、産まれに似つかわない大往生になるのであろう。


5.

 この話はここらへんでおしまい。

 短かったけどありがとー。


◆出題:テンリー

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