三題おはなし集

るなち

LINE/電柱/ショートケーキ

1.

 女の子は言いました。「そう言えば」と。

 僕は聞きます。「どうしたの?」と。

「そう言えば私達、メッセージをやりとりしないじゃない」

 そう女の子は言いました。確かに、僕達はメッセージのやりとりをほとんどことがありません。

「そうだね」と僕は返します。すると女の子はスマートフォンを取り出しました。

「だから、交換しよう」と笑顔で言うので僕は「もちろん」と返します。

 僕達はただ単に交換していなかっただけなのです。交換する理由もしない理由も特段なかったのですから。


2.

『と言う訳で』とメッセージが飛んできます。画面の向こう、すぐ横にいる女の子は微笑みます。

『よろしく』と返します。『こちらこそ』と帰ってきます。

 女の子はおもしろさに笑い出すと僕も笑いだしてしまいます。

 それもそうです、少し前まで実際に会話していて、現に隣にいる女の子がテキストメッセージで会話しているのですから。

 通知に『スタンプを受信しました』とあからさまなシステムメッセージが届きました。僕はアプリを開くと笑ってしまいました。

 そこにはスタンプを受信しましたと言うテキストが表示されていたからです。

 僕は隣の女の子を小突きます。「痛いよ」と女の子は笑うと『だから、甘いものが食べたいな』とメッセージを送ってきます。

『あぁ、お安い罰だこと』と返すと『ケーキが食べたいな』と返してくるので僕はベンチを立ちました。『コンビニに行こう』と返信して。


3.

 コンビニにつくとまっさきにショートケーキを買いました。あとは勝手にかごに入れられたビールを二缶。

 僕は女の子に乱雑にコンビニの袋を手渡すと女の子は笑顔でショートケーキとビールを手にします。

 それにしても、と思いました。ビールとショートケーキは合うのだろうかと。

 女の子はコンビニ横の電柱にもたれ掛かりながら、隣の家の塀をテーブル代わりにしながらショートケーキをつまみにビールを飲みます。

 僕は隣でタバコに火を点けながらビールを煽ります。苦味と煙が絶妙にマッチして、こんな夜にはぴったりな味でした。


4.

 二人してロング缶を数分で飲んだものですから、酔いが回ってきました。

『酔ってきた?』とわざわざメッセージが飛んでくるので『おかげさまで』と返しました。

 僕は少し反撃がしたかったので『でも、酔ってるところもかわいいよ』と更に返信しておきました。

 それを見た女の子は少し固まります。そして僕を小突いてきました。

 電柱の明かりに照らされた女の子の顔はどこか赤く、酔っているのか恥ずかしがっているのかわかりません。


5.

『もう二缶買ってきて』と無言でメッセージが飛んでくるので『そんなに飲むのか?』と返すと『お互い様だと思う』と返ってきました。

 それもそうだなと僕は笑うとコンビニにまた入って、もう一つショートケーキと二缶のビールを買ってきました。

 電柱にもたれかかった女の子は少しくたくたと言った感じで今にも寝てしまいそうでした。

『やっぱりそろそろ帰ろう、またの機会に』と送ると女の子は頷きました。聞き分けだけはいい子なのです。

 電柱から離れるとふらっとした女の子の手を引いて、僕達は夜の街に溶け込んでいきました。


6.

 頑張ったけどここまで。

 おしまい。


◆出題者:モリ

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