第3話Ep4.コナロスト1
「コナちゃんを確実に最後に見たのは水曜日の昼休みだな。昼はいつもレオラが来てくれて一緒に食べるんだが、その日は弁当を家に忘れちまってよぉ。っていうのにレオラが来てから気付いてよ、しゃーねーから購買までパン買いに行ったんだ。その時財布をリュックから出して、戻ってしまった時にはコナちゃんはまだあったはずだ。……あの時はひとりで待たせちまって、悪いことしたな」
チラリと視線を投げたモモカにレオラはのんびりと笑う。
「あはは、いーよー。気にしないで。菓子パンパーティー楽しかったし」
「レオラはいつも昼パンだもんな。パンとジュースで固定」
「私だってたまにお弁当の時もあるよぉ?」
「……おふたりの昼食事情はわかりました。その後は?」
逸れかけた話を軌道修正するサトルにモモカは露骨に顔をしかめた。レオラと話しているときはどこにでもいる女子高生みたいな顔つきだったのに、一瞬で「彩樫高等学校新聞部部長の
「ちっ、いま言おうと思ってたんだ。……昼休みが終わって、その後も学校にいる間はあったと思う。リュックはいつも机の横にかけてるからな、コナちゃんがいなくなったら気付くはずだ」
「ただのキーホルダーの分際でそれだけ大きければそうでしょうね。では、教室の中ではいたとして。帰宅中の様子は?」
貼り付けたような笑顔は崩さないものの、普段の三割増しは棘のある言葉でサトルは状況を確認していく。モモカは変わらず不機嫌そうだが質問には素直に答えていった。
「その日はレオラと一緒に帰ったんだ。水曜はソフト部の練習が軽い日だから大体一緒に帰ってる。学校を出たのが六時くらいか、まだ明るかったな。それまであーしは教室で勉強してて、そのときにもコナちゃんはいたはずだ」
「ソフト部の練習が終わったら連絡を取り合って一緒に校門を出たと」
「そうだ。んで、ウチらの家の近くにファミレスあるのわかるだろ、緑の看板の。料理が安くてウマくて、間違い探しが難しいことで有名の。その日は途中でそこ寄ってくっちゃべったんだ。たぶん一時間くらいはいたかな? ――で、そのファミレスを出るときにコナちゃんがいなくなってることに気が付いた」
「モモカさんの記憶が確かならその時点で七時半くらいですか。気付いたときの状況は? どっちが先に気付いたんですか?」
「気付いたのは、私、です」
うんうんと頷いていたレオラが声を上げる。
「お店を出るときにモカちゃんがリュックを背負って、その時に気が付いたの、コナちゃんがいないって。それで慌ててモカちゃんに教えて、ふたりで探し回ったんだけど、見つからなくて……」
「そうだ。あーしが会計する間レオラがリュック持ってくれてて、それを受け取って店出て、チャリ出そうと思って一旦背負ったらコナちゃんがいないってレオラが真っ青な顔で言ってきて……。真っ先に店に確認したけどなくって、周りを確認したけどそれでもなかった」
「お店に入るまでは絶対にあったんですか?」
「正直、どうだか……。コナちゃんはデカいからな、なくなったらすぐに気付くはずだ。けど、絶対にあったかと言われると……。チャリ出してる間はリュックごとカゴに入れてるしな、入れる瞬間に気付かなけりゃあ、その後ずっと見てないことになる」
「レ、失礼、クルキタ先輩の方はどうですか?」
「私もモカちゃんと同じかな……。お店に入ったときはあったと思うんだけど、絶対にあったかと聞かれると自信ないっていうか……。昨日までは、ファミレスに着いてリュックをカゴから取り出すときにコナちゃんだけ外れちゃって、それを通りかかった子どもが持って帰ったんじゃないかとか考えたりしてたんだけど」
「なるほど、それがコナちゃんが行方不明になった経緯と。ファミレス前後が怪しいけれど、その前からいなくなっていた可能性もある、と……」
顎に手を当て大真面目に考え込む先輩の横で、カイは内心笑いをこらえるのに苦労していた。
だいたい、この、基本クールで営業スマイル以外ほとんど表情が変わらなくてたまにヤンキーみたいになる先輩が真顔で「コナちゃん」を連呼している時点でだいぶおもしろいのに、だんだんそのぬいぐるみのことを人間みたいに呼び始めた。そこにいるのが怖いギャルじゃなくて陽キャのジンゴ先輩だったらたぶん笑ってた。たぶん、いや、絶対。
「……なに笑ってるんですか」
「えっ!? いや、その、笑ってナイですぅ!!」
「……コナちゃん」
「ぷっ。――いやいや、笑ってないです」
「モモカさんの大事なコナちゃんが、水曜日の夜に失踪して、二日後の今朝、突然連絡もなしに戻ってきたんですよ。カイくん、きみももっと真面目に考えてください?」
「ぷっ、ちょ、真っ直ぐ目を見て言わないで……。くくっ、確信犯じゃあないですか……」
ゆっくりと言う先輩に腹筋が崩壊しかけたとき、
「てめーコナちゃん馬鹿にしてんのかぁ、あぁん!?」
ギャルに怒鳴られカイの笑いは引っ込んだ。「してないです、スミマセン!」と慌ててそちらを向くと――、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべるモモカと目が合った。
(ハメられた!)
「やめなよモカちゃん、一年生いじめるのよくないよ」
「いやぁいいだろ、先に始めたのはそっちの先輩だ」
「ふふ、おもしろそうでつい」
悪びれずに言う先輩たちに、このふたり案外似てるんじゃあと呆れかえる。
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