第2話Ep6.やるべきことは/活動報告
再び静寂が広がる――と、そう思われた時。
「あ。じゃあ俺、オカ研誘ってみますよ」
一秒前までの空気なんて、なかったみたいに。
カイはごくごく自然に、軽い口調でそう言った。
「え――」
サトルがほとんど顔を動かさず、視線だけでこちらを見る。少しだけ大きくなった切れ長の瞳と目が合った。
(え!?)
何かまずいことを言っただろうかとビクつくカイに、
「うまくやれそうかよ」
ジンゴが笑いながら問いかける。
カイは見ていなかったけれど、彼の言葉にジンゴも一瞬驚いていた。けれど大きく見開かれた目はすぐに細くなり、いつもの人懐っこい笑みを浮かべていた。
「あ~~、まあ? 正直、話してみなきゃわかんないって感じですけど……」
先輩の顔に安堵し、カイは後頭部を搔きながらゆっくりと話しだした。
「いてもひとりで本読んでたり先輩に挨拶しなかったりで、俺、正直アイツに対してあんまいい印象持ってなかったですけど……。でも、相手のこと全然考えてなかったというか……。友達がほしいって気持ちはわかるし、好きな作品について語りたいって気持ちもわかるんで。とりあえず話してみて、お互い仲良くなれそうって思えて、それで向こうがオカ研にも入ってくれたらwin-winかな~、みたいな」
打算的すぎるだろうか。
お悩み相談部に入った以上こういうのも仕事かな~、みたいな~、と取ってつけ足したように言う。
話しながら段々と自信がなくなってきたカイを、けれどジンゴはニマニマと嬉しそうに眺めて頷いた。
「いいんでねーの。とりあえず誘ってみろよ。お前はどう思うよ、サトル」
「……はい、いいと思いますよ。いいと思うけど――きみは本当にそれでいいんですか?」
「え、はい」
見透かすように細められた瞳と目が合う。ドギマギしながら頷くと、
「そうですか……。いいなら、いいです」
サトルはまた目を伏せた。
(すごい『いい』しか言ってない)
「よしよし。じゃあスバルはカイが明日オカ研に誘うということで。……んー、カイさー。誘うついでに一緒にイコマのとこ謝りに行かせるとか、できそう?」
「その必要はあるか? 俺が行くのでも向こうが来るのでも結果は変わらんだろ。俺としてはさっさと注意して終わらせたいが……」
「ばーか変わりますぅ~。怒られるのと自分から謝りに行くのは違うでしょーが。んで、できそ?」
「えっ、ど、どうだろ……」
「……カイくんがスバルくんを誘うなら、僕は仲介役をやりますよ。たぶんスバルくんもカイくんにそこまでいい印象抱いてないでしょうから、ワンクッション挟んだ方がいいはず……。どういう意図であの紙を貼ったのかも、本人の口からちゃんと聞きたいですし。カイくんが言えなそうだったら僕の方から促しますよ」
「おー。サトルが成長してる」
「なんですか成長って。……本当はジンゴさんが仲介するのが一番効果的なんでしょうけど」
「なー、俺もむっちゃそう思う。でも俺もあと半年で引退するわけだし。今回は後輩ズを信じますよ」
そう言ってジンゴは立ち上がった。立てた親指をふたりに突き出し、
「決戦は明日! がんばれよ後輩諸君!!」
♢ ♦ ♢
サトルはそれ以上の追及はせず、代わりに「もしよければ」とひとつの提案をした。机の端を見つめながら、遠慮がちに。
「もしよければ――、僕の後輩に、アニメとかラノベが好きな子がいるんですよ。『お饅頭』のアニメも履修したいって言ってました。その彼が、新しく研究会を作ろうとしてるんですが――、どうにもメンバー集めに手間取ってるみたいで。よかったら、話だけでも聞いてみませんか?」
「あ、んっ――」
「彼も同じ一年生だし、うまくいけば仲良くなれると思うんですよ。――大丈夫、彼のことは僕が保証しますよ。ちょっと声大きいけど、裏表のない、いい子ですよ。なにより――」
サトルは伏せていた目をまた上げた。長めの前髪がサラリと揺れ、切れ長の目尻が柔らかく下がる。
「きみのいいところも、きっと見つけてくれますよ」
――――――――――
【活動報告】
日時:四月十九日
作成:問間覚
相談者:三年九組 生駒龍臣(部活動管理委員長)
相談内容:
中央昇降口の掲示板に「黒蛇の会」と書かれたメモ帳が毎日貼ってあるが、掲示物の規定を満たしていない違反物であるため、犯人を突き止めたい。
結果:
調査の結果、犯人は掲示物の規定を知らない新一年生だった(本人保護のため詳細は伏せる)。
備考:
後日、件の新一年生と部活動管理委員長及び美化委員長への謝罪の場を設けた。両者ともそれを受け入れ、改めて美化委員から全校生徒へ向けて掲示物規定を周知させることで和解、解決した。
――――――――――
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