見ザル
ギラギラかジリジリか夏の殺人光線を浴びて体が塵と化す妄想がよぎった。あたしゃ吸血鬼かいな。一段と高い空に綿菓子をちぎったような雲が申し訳程度に泳いでいる。この太陽からの溢れんばかりのラブコール。恥ずかしがり屋な私の頬は桃色に火照って、田舎娘を大人びて見せている。はずだ。この熱視線に名前を付けて良いのなら「テラテラ」だな。ふふふ。暑さで多少あほうになっているようだ。
そんな頭の中の1人劇場を繰り広げていると、目的地に到着した。ああ、愛しの君よやっと会えたね。しかし急くではない、私よ。何事にも手順と言うものが有るのだ。小銭入れを取り出そうと手をポケットに押し込み、半分ほど引き抜いた時に何かが転げ落ちた。
「コンッカンッカンカン」
あれ?ビー玉なんてポケットに入れてたったけ?
「コロコロコロ…」
待て待てゆくではない。
自動販売機の横を小石にぶつかりながらカクカク小刻みに軌道を変えるビー玉を追いかけ、しゃがんで拾い上げる。
あれぇ?ヤバイ立ち眩みだぁ
視界が白くぼやけた。
んー、よしッ戻ってきた。
グーンと重くなった頭を元の位置に戻す。
んん?なんだここは?どこだここは?
まるで子供が描いたピクニックの絵のような、シンプルな自然が広がる場所に立っていた。
なんだ?何が起こった?
もしかしたら現実ではないかもしれない。そう私に思わせたのは、バケツの水に青色の絵の具を溶いたような、なんとも鮮やかな色彩に世界が充たされていたからだった。
ますます意味が分からない。呆けて眺めているしか出来なかった。しばらくすると、どこからか誰かの鼻歌が聞こえた。音の方へと視線を送る。そこには長い髪をフワフワと踊らせてスキップをする女性の姿が有った。遠目でも明らかに美人であることが分かるそのシルエット。少し大きい白いTシャツをショートパンツに無造作にinしている。足元はサンダル?なのかなぁ?良くは見えない。奇妙な世界をスキップで闊歩するその姿から目が離せなくなっていた。
するとその女性もこちらに気付いたようだ。
ヤバイっばれたっ!
そして凄い勢いでこちらに走ってくる。
えっえっ?なになになに?怖い怖いっ。ってかめっちゃ早い!めっちゃ怖いっ!
獲物を追い込むチーターが如く私の目の前まで猛ダッシュで駆け寄り、息ひとつ切れていない柔らかな声が私に話しかける。
「あらっこんにちはっ!素敵なお嬢さんね!ふふふっ」
私は何がなんだか分からず首を1回縦に振った。
しかし本当にとびきりの美人さんだ。肌は驚くほどきめ細かく白く透き通り、くっきり二重の大きな目に長いまつ毛。少し色素の薄い茶色い瞳には眼力を何倍にも跳ね上げるバフが掛かっている。きれいな鼻筋の先に少し薄めの唇が有り、綺麗なピンク色に染まっていて、左下には色っぽさを醸し出すほくろが有る。ハーフやクォーターと言われたらそのまま信じてしまうほど日本人離れしたその容姿に、そこそこイケてる部類じゃない?なんて思っていた自分が恥ずかしくなった。いつだったか通販で買ってもらった洋服にテンションが上がり、鏡の前で1人ファッションショーを決め込み、モデルとか?ワンチャンいける?なんて調子に乗っていた自分をグーで殴りたい。唐突に突き付けられた
「私はリボンって言うの!あなたのお名前は?素敵なあなたのお名前が知りたいわ!」
いやいやいやいや勘弁して、無理無理!話すなんて出来ないよっ!
しかしリボンと名乗る女性は綺麗な瞳で私の返答を待っている。この瞳に見つめられると何かの魔法に掛かったように抗えない物があった。
ええいっどうとでもなれっ!
「…ゎッわッわゎわたッわたッしッわたッしッ…」
ほらやっぱり駄目じゃんか。じわーっと目が熱くなる。
「あらあらごめんなさいっ!急がせてしまったのね!私ったら駄目ね!でも私ってまーーーたくっ急いでなんかないの!ゆーーーくりゆーーーくり話して大丈夫よ!」
そんなこと言われたった無理だよー。
「そうだわ!私が先に1音ずつ話すからあなたは私の真似をすれば良いわ!」
なんか、良い事思いつたみたっ!みたいなテンションで言ってるよー。
「さぁ!わぁ」
「……ゎ」
「たぁ」
「……た」
「しぃ」
「…し」
「はぁ」
「…は」
あれ?思いのほか喋れてる?
そしてリボンは、どうぞっ!って感じで両手のひらをこちらに向けている。細くて長い指がとても綺麗だ。
「…め…っめぐ……み」
「ふふふっ!めぐみって言うのね!とーーーても素敵なお名前!」
「でへっどっどもっ」喋れた感動と褒められた照れくささでなんか気持ち悪い感じになってしまった。
「そうだわめぐみ!お時間は良いかしら?私ったら素敵なめぐみと一緒にお散歩したいの!」
時間なら腐る程有る。求められれば散歩に付き合うのもやぶさかではない。
「ぃ…いい…ょ」
「やーたわっ!私ったらずーーーと1人で退屈だったの!めぐみみたいな素敵なお嬢さんと出会えてなんて素敵な日なのかしら!私ったら幸せね!」
「なにを大袈裟な」
リボンはニコニコして私を見つめていた。
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