第7話
前回の時みたいに誰かが視界の中にいる訳でもなく、私1人だ。
周囲を見渡してみても人の気配はなく、今にも崩れそうな女神像が1つそこにあるだけ。
人によって召喚された感じではなく、世界そのものからの召喚を受けたってイメージかな?だとしたら、この世界の重要人物辺りには「今勇者が世界に現れたような」みたいな感じしかないのかな?
なんにせよ、森を抜けて人が住んでる所まで行かないと始まらないわ。
で、これはどっちに行けば良いんだろう?女神像があるんだから一応未開の地ではないんだろうけど、それなら道くらいは整備しといて欲しいよ。
こっちは召喚された瞬間から遭難させられるとか思ってないんだからさ……まだ私はお腹もすかないし、眠気もないから良いけど、これ普通の人間だったら飢え死にとかあるかも知れないじゃない。
とにかく歩かないと始まらな……あれ?
ちょっと待って、今物凄く重大な事に気が付いてしまった。
天使は私をこの世界に送るとき、2度目だから少し難易度を上げると言ったんだ。でも本当に2回目だし大丈夫だって私は気にもしなかった。
けど、難易度って敵の強さのことだよね?
私、前回の異世界で寝起きの魔女以外の敵を退治してないんだよ。
つまり、レベルなんて全く上がってない。
それなのに難易度を上げられた?
ヤバイ、マズイ。
装備が”ぬののふく”のままじゃあ敵に襲われた時どう対処すれば……。
グルルルルル……
既に生き物の気配が周囲にある。
どうする?どうすればここを突破できる?
ガルルルル!
「……無理ゲーじゃん……」
あ~あ、普通さ、獲物にとどめを刺してから食べない?生きたまま食べ始めるとか残酷すぎだわ。
早々に意識が肉体から飛び出した私は、肉体が死ぬまでは転生もできず、延々と自分が食べられる様を見つめるしかなかった。
こうして無事に死ねた私はどこか別の世界に転生……という訳ではなく、何故だか保健室みたいな雰囲気の場所で目覚めていた。
状況を把握しようとしてベッドから起き上がり、カーテンを開ければ、異世界っぽいファンタジーな空間に、これまた異世界っぽい服装に身を包んだ男性と、何故か藍川君がいた。
「樺さんオハヨ!異世界で死んだら転生するってのは知ってるよな?」
寝起きたばかりなのにかなりヘビーな話題ね。
「知ってる。私さ、藍川君が転生させられたって聞いてたんだけど?」
だからこっちもヘビーな話題をお返しだ。
「勇者候補は異世界を攻略することでポイントがもらえてさ、そのポイントで奇跡ってのが起こせるようになるんだよ。だから、樺さんも樺明美としてまた同じ両親から生まれることができるよ」
そんなシステムがあったとか知らなかったし!
「……美樹はまだ生きてる?……黒田君は?」
生きてるんだとしたら、私が死んだことを伝えてほしいな……そうでなきゃ美樹はいつまでも戻らない私に自分の勝利を告げようとしてずっと待ってしまう。
「朱宮さんも黒田もまだ生きてるよ」
生きてるのね、良かった……ふふ、本当に良かった。
「私のポイントって、同じ人間として地球で転生してもまだ余ってたりする?」
ポイントでどんな奇跡が起こせるのかは分からないけど、自分として生まれ変われるって奇跡が起こせるんだったら、たいていの事は出来るよね?
「……まぁ、少しなら」
うん、少しで良いよ。
「美樹に私が転生したってことを知らせて欲しいんだけど、ポイント足りるよね?」
「あ、それ位ならば私が伝えられますので、ポイントの消費は結構ですよ」
お、ここにいる天使は優しいのね。
「なら……黒田君の姿をちらっとでも良いから見せて欲しい」
数秒でも良いんだ、最後に一目だけでも良いから見たい。
「それならこっちにくれば見れるから、それもポイントいらねーぞ」
そう言って藍川君は1つの水晶の前に私を引っ張った。
水晶には確かに黒田君の姿が映っていて、笑顔で、かっこよくて、可愛い。
今度生まれ変わって、また黒田君に会えたら、その時はちゃんとチョコを渡して告白しよう。
私として転生するんだから、時間が戻るんだよね?きっとまた会えるんだよね?
「黒田君っ、好きだー!」
よし、例え黒田君に聞こえていないのだとしても、今世でもちゃんと告白しておこう。
これで思い残すことはない……んだけど、もうちょっとだけ見ていたいな。
異世界攻略で重要なのはレベル上げでした SIN @kiva
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