第6話

 夜も更けた頃合いを見計らい、私は学園の寮を抜け出し、地図を頼りに魔女が封印されているという場所まで来ていた。

 そこには確かにそれっぽい塔みたいなのが建っていて、朽ちた入り口なんかがあって。

 普通さ、こういうボスがいる場所の入り口ってもっと厳重になってたりしない?強い敵モンスターがいるとかさ……そういえば私、この世界に来てからただの1匹も敵らしい敵と会ってないわ。

 ということは、特にレベル上げとか必要なく攻略できる世界ってこと……なんだよね?

 まぁ、寝てるか寝起きかどっちかであろう魔女の討伐なんて、気分が悪いってだけで簡単だろう。

 「……あ~……思った以上だわ」

 こうして私は塔の最上階にいた魔女と対峙し、しっかりと魔女であることを当人に確認してから正々堂々と決闘を申し込み、魔法の詠唱に入った魔女の無防備な懐に入り込み、詠唱できないよう喉を切って退治した。

 魔法を使えなくした時点で私の勝ちは決まってたんだから、後半は丸腰の女性を相手に剣を振るったことになる。

 気分が悪いし、後味も悪いし、何より罪悪感が凄まじい。

 魔女が復活するとこの世界は大変なことにはなったんだろうけど……まだ何もしてない魔女を相手にするのって、犯罪予告だけしかしてない子に対して死刑を宣告して執行したって感じじゃない?

 いや、まぁ、その犯罪予告ってのが「世界の滅亡」レベルな訳なんだけどさ。

 塵になって風に消えていく魔女だった塊を眺めていると、私自身も光の塊になっていくのを感じた。

 あぁ、こんな感じでこの世界から消える訳ね……。

 来たときは王太子がドーンと目の前にいたけど、帰る時は1人か。

 まぁ、全員に見送られるってのもなんだか恥ずかしいし、こんな感じで助かったのかも知れないな。

 スゥーっと塔の天井を抜け、空高く舞い上がって、雲を下に見ながら徐々に視界が黒く、白く、そしてパッと見えたのは、スキルを出すために用意された広い広場の景色だった。

 どうやらちゃんと戻ってこれたようね。

 「お帰り、そしていってらっしゃい」

 天使はそう言いながら新しく門を出すから、私は全力で身を捻って逃げ出すと美樹の所に走った。

 「ただいま!何日だった?」

 素振りを止めた美樹は自分の足元を見て苦笑い。

 「分かんなくなっちゃった」

 1秒に1回素振りをして、100を数えた時に地面に足で正の字を書く。それを美樹もしていた筈なんだけど、どれだけの回数正の字を書いたのか、その足元にある地面は掘り下がってしまっている。

 まぁ、沢山ってことだけは分かったよ。

 「異世界とこことの時間の流れに差があるのか知りたかったのよね」

 なら今度は100じゃなくて1000回にしてみる?それとも86400秒にしてみる?いや、数えてるうちに、あれ?今いくつだっけ?になりそうだわ。

 「アケミが戻ってくるまでに、赤池君が2回戻ってきてたよ。またすぐに行かされたけど」

 私が魔法学校で魔力について学んでいたあの平和な間に、赤池君は2つの世界をクリアしたってこと!?

 え?凄すぎない?

 「次はさ、私と美樹が同時に異世界に行って、どっちが先に戻って来れるか競争しない?」

 「良いね!そろそろ素振りだけじゃ暇でさ」

 こうして私達は異世界に放り込まれた。

 視界が白くなって、暗くなって、明るくなって。

 パッと開けた景色は森の中だった。

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