第3話

 スカイ・ルリ・アクアマリンと名乗る天使と、ミント・ワカバ・エメラルドと名乗る天使が広場を見張り歩く中、私達は大人しくスキルが出せるようにと剣の素振りを続けている。

 少し前に赤池君が勇者2号として異世界に放り込まれてからは、やる気なさそうに座り込んでいた皆も一応立ち上がって素振りをしたり、杖を握ったりしていた。

 そこからまた何人かが勇者として異世界に放り込まれた時、赤池君が異世界を攻略したのかなんなのか戻ってきてー……休む間もなくまた異世界に放り込まれた。

 どうやら1度の異世界攻略では家に帰してもらえないようだ。

 だけど、あんな休む暇もなく、はい次ーってやり方ってどうなの?

 赤池君が可哀想だし!もっと可哀想なのは勝手に無能とか決め付けて転生させられた藍川君だ。

 「美樹、私ちょっと異世界攻略してこようと思うんだけどね、私が行って戻ってくるまでに何時間?何日?かかったか計っていてほしいの」

 この広場の景色は変わらないから正確に時間を測ることは難しいと思う。だけど眠くもならないしお腹もすかないんだから、実はここに来てからまだ数時間ってことだってあるのかも知れない。

 ただし、体感している時間は果てしない。

 時間が測れなくても、1秒の感覚なら分かるから、私は1秒に1回素振りをして、100回毎に足元に1本の線を書いていた。

 その線だった物は、私の体を地面から数センチ沈めるほどの穴となっている。

 最早握っている剣に重みなど感じない位には素振りを続けていた……素振りだけを続けたんだ。

 そう、スキルを出そうとは1度も思わないまま。

 だから、スラッシュだっけ?スピーンって感じのスキルを出そうと思ったら多分出せる。

 原理は良く分からないんだけど、頭にスキルのイメージが出来てるんだから。

 「……分かった。明美がやってた時間の計測法で良い?」

 流石親友、計測法のことなんか少しも説明してないのに分かるんだ。

 いや、これはこれで何か別のスキルのような気も……テレパシーとか?読心術とか?

 「うん、ありがとう。あ、でも出来れば線が何本なのか分かるようにしてほしいかな……」

 「分かってるよ。でも、気を付けてね……」

 「それこそ、分かってるよ」

 短い会話の後、私は前に立っているかかしをスキルによって真っ二つに切り分けることに成功し、無事異世界への門の中へと放り込まれ……ました。

 視界が真っ白になり、徐々に暗くなり、再び明るくなってパッと景色が魔の前に広がる。その景色の中には1人の若者がいて、物凄くキラキラとした笑顔で私を見ている。

 なんだ?この異様にまぶしい笑顔と狂おしいほどに整った顔立ちの青年は……えっと、私はこの世界に勇者として召喚されてるはずなんだけど、勇者っぽいのはむしろこの若者のような?腰に剣も刺してるし、いかにもファンタジーって感じの胸当てとかしてるし。

 対する私は”どうの剣”と”ぬののふく”だよ。

 「聖女……お待ちしておりました」

 青年はキラッキラしたままそう言って私の前に座り込んだ……あ、違うわ、これ跪くってやつかな?忍者みたいな感じのあれだ。

 「おもてを~あげぃ」

 これで良いのだろうか?

 よくないね、時代劇の雰囲気はファンタジー世界とはなんか違うわ。

 「……え?」

 困惑した表情まで見目麗しいとか、この世界の顔面偏差値崩壊してんな!

 えっとだ、私は聖女としてこの世界に呼ばれたようだから、なんか良い所のお嬢様っぽい話し方をすればいいのかな?

 後、この世界で何をしたらいいのかも聞かないとね。

 「顔を上げてください。えと、私はなにをすればよろしいのでしょうか?」

 うん、良い感じに丁寧。

 なんだ~私だってやればできるんじゃない。

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