リドル神父

 その頃リドルは、ある牢屋の前にいた。

“グウゥウグゥウウ”

 その牢屋の一つの部屋、鉄格子の奥で巨大な人影が眠っている。リドルは“ソレ”に呼びかけた。

「おい、シウオ」

「……」

 返事はない。


 リドルは舌打ちをする。そして突如、その格子の鍵にてをかけた。そして自分の手のひらに息を吹きかけた。すると彼の手の甲にひとつの十字、さらにもうひとつ十字が斜めに重なり、星型の紋章がうかびあがり、チリチリと奇妙な音がしたかとおもうと、今度は鍵がとけ、焼き切れた。リドルの手のひらは赤くなり、熱を発した。

「シウオ」

 そして、その光で、奥にいた男が目をさました。牛の角を持ち、鼻をもち、筋骨隆々で、鋭い下あごの牙をもつ男が、リドルのほうをギロリとむいた。

「またか……おれは戦いたくナイ」

 その巨体に似合わず、彼はおびえたような様子をみせ、頭をさげながら上目遣いでリドルを見た。

「頼むよ、お前は“いい奴”なんだろう?俺を殺すつもりでさ」

 そういわれると彼の、馬のような耳がぴくりとうごいた。

「いい奴、オレ、いい奴になりたい」

「そう、そう、俺と戦え」

「オデ、いい奴、オマエを助ける」

 そういうと急にその男は、巨体をもちあげる、リドルの二倍はありそうな2メートルは優に超えた男、そして割腹もいいので立ち上がるだけで人に恐怖を与える。その男がいきなり、先ほどまでの温厚な様子とは違いこぶしをふりあげ、リドルに襲い掛かった。

 リドルのほうもそれをかわしながら、応戦する、彼のこぶしを2,3よけ、そして、かれの顔にパンチをあてると彼は2,3歩怯みながらいった。

「本当に、おまえのため?オデ、暴力嫌い」

「そう、俺の為だ、お前は“優しくないやつか?”」

 するとまたピクリ、と彼の耳が反応し、今度は息を荒げて、リドルに両手で襲い掛かった。

「フゴオオオオオオ!!!」

 リドルも両手に息をふきかけ、とっくみあう寸前だった。

「そこまでです」

 ぴくり……と二人の呼吸がとまった。それほどに“恐ろしく冷徹で、背筋が凍るほど強い言葉”が放たれたのだった。そこにいたのは、例の奇妙なシスターだった。彼女は舌を出した。その下には、星型に重なる十字が刻まれている。

「いい加減にしなさい、リドル、そんな態度で何がかわるというの?あなたの目的を達成できるの?あなたは本気で相手を殺そうとはしないでしょう?殺すなら、本気でやりなさい」

 そうしてめをかっぴらいたシスターのその目には、十字が星型になり映し出されていた。

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