第12話
「そうなると、今回の企画の趣旨から方向が違う形になります。どうされますか?」
「あの実は折り入って相談がありまして……実は私、再婚が決まったんです。相手の方が娘とは一緒に暮らせないと言ってきたので、なのでこの機にここの家も引き払うことにしたんです」
「障がい者だから、一緒に暮らすのは難しいと?」
「そういう事です。以前彼と一緒に合わせた時に娘が大泣きしてしまって、私のお父さんは一人しかいないって
「旦那さんはいないのですか?」
「十年前に他界しました。それきり私と二人で生活してきたんです。ただ、やはりあの子にも父親がいないといけないと思って、知人に紹介してもらったら今の彼と出会いました」
「娘さんの納得のいかないまま、再婚するという事ですよね。どう説得させるおつもりですか?」
「まずは娘を大阪に行かせてその後に籍を入れようかと話しています。私個人の都合で申し訳ないのですが、今回は黙秘して撮影に応じたい。そうした流れで対応ってできますか?」
「もし記事にすると娘さんも後々事実を知ることになりますよね。余計動揺させてしまわないでしょうか?」
「知的障がいを持つ子の親というのは健常者の方とは違って、話したくないことも抱えながら暮らしてきました。私は必死にあの子を育ててきたんです。それに彼女にももっといろいろな世界があるのだという事を知ってもらいたい。世の親もそこは皆同じだと思います。決して完全に見放そうという訳ではありません。これからお互いの為に生きていく上で必要な事だと決めたことです」
「そうですか……では、早速ですが今日お写真を撮らせていただいでもよろしいでしょうか?」
「葵陽、いいの?」
「真野さんの言う事も娘さんの為になるならそうした方がいいかもしれない。離れていてもまた会えるし。最後というのはそうした理由で今回引き受けることにいたします。ツジリ、娘さんを呼んできて」
その後葵陽は機材を設置して玄関前のところで母娘の写真を撮っていると、娘があることをお願いしたいと言ってきた。
「お父さんの遺影、持ってきてもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
そうすると仏壇から父親の遺影を持ってきて再び写真を撮って欲しいと言ってきたので数枚ほど撮ってモニターを見せたところ母娘は納得して笑顔で見てくれていた。
「では、後日お母様に改めて取材しに来ます。日程は本日中にこちらからご連絡しますのでお待ち願い出来ますか?」
「はい、よろしくお願いします」
荷物を片付けて帰ろうとした時に葵陽は母親に呼び止められたのでどうしたのか訊いてみると、娘が彼が素敵な人だと耳打ちして言ってきたという。これを聞いて葵陽も照れ笑いをして娘に手を振って帰ろうとすると、彼女も嬉しそうに手を振り返してきた。会社に戻り深見が葵陽たちを待っていて、状況を伺ってきた。
「そうか、娘さんには今のところは内緒にしておく事にしたのか。なあツジリちゃん。記事なんだけど、あえてオブラートに包むように書いていくことはできそうか?」
「逆に事実を書いてあげた方が良いと思います。娘さんもある程度の会話の理解もされているし、いずれ母親も話す時がくると思うので、きちんとした形式で掲載すべきだと」
「矢貫はどうだ?」
「ツジリの言う通り、母娘の間柄ですし遠回しな言い方より正論があってこそ良い絆も出てきます」
「そうか。まあ良いだろう。二人とも、その取材を活かせるように作成に取り組んでいってくれ」
「わかりました」
深見がデスクに戻るとツジリは葵陽の顔を眺めてきた。
「何?」
「そんなに良い男かなぁ?」
「何がだよ?俺の顔に何かついているか?」
「ううん。真野さんの娘さんに素敵だって言われてさ、惚れられるなんて良いことじゃん」
「たまたまだろう。何か気になる?」
「今までの人たちに取材してきたけど、行くたびに葵陽が格好いいっていってくる人いるんだよ」
「別にいいじゃん、好きに言わせておけばさ」
「完全に照れ隠しじゃん。甘党野郎だって知ったら、そのギャップで引かれるだろうね」
「せめて甘党男子って言えよ」
「どこか男子よ?自分の歳考えなさいよ。それに昔から隠れ肥満持ちなのに健康診断とかでよく引っかからないのが謎だよ」
「お前……傷つくことばかり刺してくるんじゃないよ。さっさと自分の会社に戻れ」
「そうだ。深見さんに相談することがあるんだった。それから帰るよ」
「ああ、じゃあな」
葵陽は茂木から別の案件の画像編集の仕事が入ってきたので一緒に見て欲しいと頼まれて彼女とともに作業にあたっていった。しばらくパソコンに向かっているとスマートフォンに何通かのメールが届いていたので開いて見ていると、なかに仲江から来ていたので席を離れて応接室に入り、本文を読んでいった。
『取材する日の前に矢貫さんとお会いしたいです。急ですが今晩か明日お時間空いていますか?』
葵陽は手帳を見てスケジュールを確認してみると翌日の午後から空きがあるので彼女に、
『明日の夕方ご飯でも食べに行きましょう』
と、返信をした。一時間ほど経過して仲江から返事が来て、『ぜひご一緒させてください』と返してきたので、深見に所用があるので早く帰ると伝えると承諾してくれた。
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