第2話「今日も妹はかわいい」
『兄ちゃ、葉っぱ美味しい』
そんな妹の嬉しそうな声だけで明日も生きていけそうな気がする。
『って、いけないいけない』
ちょっとトリップしてしまったが、絶望的なこの状況下では心の支えがなくては辛いのだ、これぐらいは容赦願いたい。
『って、僕は誰に理解を求めてるんだろうな』
食草鑑定とやらを習得した時に謎の声がしたせいでつい第三者に見られているような気がしたのかもしれない。
『それはそれとして、一人食草鑑定大会は本当に長い戦いだった』
殆どの草の鑑定結果は毒にも薬にもご飯にもならない雑草だったが、一応の収穫はあった。
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【モモギヨの葉】
・春先に芽吹き晩秋に枯れるモモギヨの葉。ごくごく微量の傷をいやす成分を含むが、同成分の含有量はお察し。あちこちに見られるため、野外で怪我をした時「ないよりはマシ」と傷の手当てに用いられることもある。傷を癒すポーションを作成する材料にもなるが、要求素材量と作成手順を鑑みるとはなはだ非効率でこれを用いてポーションを作るのは余程酔狂な人物くらいだろう。
使用者にとっての可食適正:△(とても苦い)
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待望の傷をいやす効能のある草の発見である。
『とはいっても補足説明があるぐらい苦いみたいだし』
そのくせ薬用成分はごく僅かときている。
『現状コレしか傷治せそうなモノないし、怪我したらコレ頼るしかないんだろうけれど』
使わずに済むのが一番なのは言うまでもない。
『と言うか、すぐ隣に生えてる植物なら葉っぱ伝いや枝伝いに移れるものの、僕らの足だとアレとか向こうの草はたどり着くまでが小冒険になるし』
食草鑑定の範囲内にはあるものの、イモムシの僕らの足には遠すぎる草と言うのもいくらかあるのだ。
食草鑑定が出来る範囲がそのあたりまであるのは、このイモムシのモノとは思えない視界と見え方のおかげだと思うが、見えるのに確保しに行くのが大変と言うのは何とも歯がゆい。
『幸いにもこの辺りはタクリカの群生地みたいだから当面は葉っぱを食べ尽くす心配はなさそうだけど』
食欲旺盛なイモムシが二匹とは言え、一日に一匹がどれくらい食べるかは自分の身で把握している僕だ。
『それより、気にすべきは身の安全だよなぁ』
現状僕に出来るのは、葉っぱや地面の上を這うこと、身体を捻ったり振ること、葉っぱを齧ってる口があるので一応噛み付くことも出来るかもだけれど、何かに襲われたときに出来るのはそれぐらいだ。
『これ、襲われたらいっかんの終わりのような気がする』
イモムシによっては臭い角を出すとか防衛手段がある種類のものも居るし、毛虫だったと思うけれど、自分の出す糸と葉っぱでテントもどきを作って危険な夜はそのテントもどきで過ごすなんて暮らし方をする毛虫も居たと記憶している。
『糸、糸が出せればいろいろできそうなんだけどなぁ……』
出したいなと思っても一向に出ないところを見るに、僕は糸が出せない種類のイモムシなのかもしれない。
『あとは、特定の時期まで出せないタイプか、だけど……』
『食草鑑定も唐突に出来るようになったし、ゲーム感覚でいろいろ努力して居たら出来ることが増える可能性はある……かも』
もちろん無駄な努力に終わることも考えられるが。
『兄ちゃ?』
『ううん、なんでもないよ』
不思議そうに近くの葉っぱの上で上体を傾げた妹を見れば、やることなんて決まっている。
この子を守るためにも僕は強くならないと、戦える手段を確保しなくてはいけないと。
『……という訳で、まず試してみるべきは体術と言うか格闘術だな』
僕は茎や葉っぱに腹脚だけで自重を支えていられる。なら全身の筋肉を使って上半身を振り回せば、それなりに強力な打撃攻撃にならないだろうか。
『……うん、まぁ、イモムシって言うとプニプニボディなわけだから全力で叩きつけられても痛くないかもだけど』
そこはあれだ、柔らかい掌でも平手打ちされると痛い、みたいにやりようによってはダメージを与えられるかもしれないと思う訳だ。
『と言うか筋力は相応にあるなら、武器もって振り回した方がいいか』
問題は、この草むらに武器になりそうなモノが存在するかであるが。
『食草鑑定で探すのは無理……ん?』
そこで僕は思い出した、毒薬の材料になる身をつける植物があったことを。
『よし! あとは本体だな!』
危険を覚悟して地面近くまでタクリカの茎を降り、見つけようとするのは先端の尖った小枝。
『ついでに熟して落ちたトリソキの実が……あった、確かアレが生ってた実の筈。尖った小枝を拾って、その先で実をつついて汁をつければ』
毒の小槍の完成である。ただの毒付けただけの小枝じゃんって言われても反論できませんけれども。
『よーし、あとはコイツを持ったまま上に戻、戻、も……』
戻ろうとして、気づいた。三対の足で小枝をガッシリ掴んでるので茎を登っていけないことに。腹脚でぶら下がってるから地面に降りたわけではないのだけれど、この体勢から元の場所まで登っていこうってなると、どうしても抱えた小枝が邪魔だった。
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